80 / 82
080 太郎、収穫する
しおりを挟む1563年も秋に入った。
第二次英仏戦争も一進一退を繰り返す安定した状態となり、ユグノー側には大きな動きは無い。
そんな中、シャルル九世とローマ法王の勅許状を持ったフランス船団がついに清水湊へ入ったとの連絡がルイーズよりもたらされた。
「ルイーズ、ひと月ほどしたら船を一隻こちらへ回してくれないか」
「それはいいけれど、何処へ向かえばいいの?」
「津軽海峡を抜けて半島沿いに南下した先にある鯵ヶ沢湊に来てくれ。積み荷はそれまでに準備しておく」
「……わかったわ」
ルイーズとの回線を切った俺は氏真に繋ぐとすぐに応答があった。
「久しぶりだな!」
「すまない。ちょっと手が離せなかったものでな」
これまでの成り行きを説明すると、氏真は驚いたようにかぶりを振る。
「南部家の一門との繋がりができたとはな。甲斐武田の枝分かれで元は南朝方だったか」
「偶然だがな。
……それはそうと頼みがある。ルイーズにフランス船を回してもらうから、積み込んだ荷を受け取ってほしい。
俺もついて行くから細かな話は静岡でしよう」
「了解した。ではまた」
「さあ、これからだ」
氏真との話を終えて俺はひとりごちる。
そして翌朝から収穫が始まった。
土の中から引き抜かれたサトウダイコンが荷車へと運ばれていく。一町先では食用鬼灯の収穫だ。
芋類は山となって積み上がり、バラバラにされたトウモロコシの実が天日干しにされている。
干しシイタケはフィリーの魔法でチートをした。これで来季の収益はさらに増えるだろう。
「おお、やっているな」
笑みを浮かべて為信がやってくる。
山と積まれた干しシイタケに目を白黒させる為信に俺は言った。
「まだこれからだ」
「ほほう。まだ何かあるのか」
興味深げな為信を連れて大鍋の有る小屋に向かう。
そこでは煮立ち湯がぐつぐつと煮えていた。
「これは?」
為信の問いに俺は動作で答える。
サトウダイコンを薄切りにして次々と鍋に放り込んでいくのだ。
やがて周囲に甘い香りが漂いだす。
「食べてみてくれ」
鍋の中の一切れを箸で摘まみ、眼前に差し出すと、為信はおっかなびっくり口に含んでみせた。
やがて眼を見開くと「ふぅ」とため息を吐く。
「……甘いな」
「これを煮詰めて砂糖にし、京の都に持って行って売りたいと思う」
都の話が出たことに為信は困惑した。
「なんぞ伝手でもあるのか?」
「無くはない。まあ見ててくれ」
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
「来たわよ! 太郎!!」
鯵ヶ沢湊に着いたラ・ドーフィネ号から真っ先に下船したのはルイーズだった。
「公使の仕事はどうした?」
「そんなの正式の公使が来たから、お払い箱にきまってるじゃない。
これで私も一介の交易商人に戻れるわ。世界を股にかけての御金儲けよ!!」
「お久し振りです、ルイーズ御姉様」
鼻息の荒いルイーズにお市が駆け寄って抱き合う。
十五歳の少女と二十歳過ぎの女が抱き合う姿はまるで姉妹のようにみえる。
旧交を温めた二人を連れて今回の荷主となる為信に引き合わせた。
「ルイーズ、これからこの鯵ヶ沢では弥四郎殿の荷を扱ってくれないか」
「ヤシロー殿……ふぅん。太郎が入れあげているのはこの娘なんだ」
「何か勘違いしているようだから訂正しておくがこの男の娘は男だぞ?」
「むぅ……何やら不穏なことを言うておるようだが、聞かなかったことにする」
俺のイントネーションから真意を察した為信は押し黙る。
「ま、まぁ。とりあえず荷を積んでくれ」
「……逃げたわね」
「……逃げましたわ」
ルイーズとお市が顔を寄せ合ってささやき合う。
ともあれ三日後には荷を詰めるだけ詰め込んでラ・ドーフィネ号は駿河へと向かった。
今回の主力商品は砂糖とイワシの焼干しに干しトウモロコシである。
足の早い鬼灯の果物は俺のインベントリに放り込んでおいた。帝には新鮮な生を献上したい。
そんな理由から今回も微妙にチートを使うことにした。フィリーに頼んでの風魔法で船足を上げて高速移動である。
一日百キロ以上の移動距離で十日もかけずに清水湊へたどり着いた時には、ルイーズ以下乗組員一同が信じられないという表情をしていた。
「……それで今回はこれらを献上したいということだな」
執務机の上に広げられた献上品の数々を前にして、氏真が確認をする。
氏真の執務室にはマントルピースがあり、造りは完全に西洋館となっていた。
椅子から身を乗り出してサンプルを口に入れる。
「……これはイワシの焼干しか。前回同様、苦味が無く上品な味わいであるな。
それで、これが鬼灯……面白い味わいだ。強い甘みがあるが、同時にほのかな苦みもある。
かすかな苦味が甘味を引き立たたせているのか。これはいい。太郎が帝に献上したいという気持ちもわかる」
そこで言葉を切ると氏真は砂糖の山へと手を伸ばした。
指で掬って口に含む。その仕草は麻薬の売人が取引の際に行う行為をやはり俺に思い起こさせた。
「砂糖か……だが、何処の砂糖だ?
薩摩のそれではないな。琉球でもなかろう。一体何処で作られたものだ?」
氏真が訝し気に問う。
「俺の地元で作った。原料はサトウキビではない」
「どうやって? ……いや、それを聞いても愚問ではあるな。
これを持ってきたということはどうにかして売りたいということだな?」
「勧修寺家の伝手を借りたい」
「いいだろう。俺と太郎の間のことだからそれはいい」
「……だが、大浦家とはそうはいかない」
「そういうことだ」
「鉄砲と玉薬を売ってほしい。代金は売上との相殺で頼む。本当は鉄砲鍛冶も借り受けたいところだがな」
「……ふ。お前のことだ、もう硝石の製造には手を染めているのだろう?
鉄砲鍛冶の話は今回は聞かなかったことにしておく。その話はまた今度だ」
次回、復活の織田信勝
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始め
イニシ原
ファンタジー
ダークスローライフで癒しに耐えろ。
孤独になった勇者。
人と出会わないことで進む時間がスローになるのがダークスローライフ。
ベストな組み合わせだった。
たまに来る行商人が、唯一の接点だった。
言葉は少なく、距離はここちよかった。
でも、ある日、虹の種で作ったお茶を飲んだ。
それが、すべての始まりだった。
若者が来た。
食料を抱えて、笑顔で扉を叩く。
断っても、また来る。
石を渡せば帰るが、次はもっと持ってくる。
優しさは、静けさを壊す。
逃げても、追いつかれる。
それでも、ほんの少しだけ、
誰かと生きたいと思ってしまう。
これは、癒しに耐える者の物語。
***
登場人物の紹介
■ アセル
元勇者。年齢は40に近いが、見た目は16歳。森の奥でひとり暮らしている。
■ アーサー
初老の男性。アセルが唯一接点を持つ人物。たまに森を訪れる。
■ トリス
若者。20代前半。アーサー行方不明後、食料を抱えて森の家を訪れる。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ
黒崎隼人
ファンタジー
人事コンサルタントの相馬司が転生した異世界で得たのは、人の才能を見抜く【才能鑑定】スキル。しかし自身の戦闘能力はゼロ!
「魔力もない無能」と貴族主義の宮廷魔術師団から追放されてしまう。
だが、それは新たな伝説の始まりだった!
「俺は、ダイヤの原石を磨き上げるプロデューサーになる!」
前世の知識を武器に、司は酒場で燻る剣士、森に引きこもるエルフなど、才能を秘めた「ワケあり」な逸材たちを発掘。彼らの才能を的確に見抜き、最高の育成プランで最強パーティーへと育て上げる!
「あいつは本物だ!」「司さんについていけば間違いない!」
仲間からの絶対的な信頼を背に、司がプロデュースしたパーティーは瞬く間に成り上がっていく。
一方、司を追放した宮廷魔術師たちは才能の壁にぶつかり、没落の一途を辿っていた。そして王国を揺るがす戦乱の時、彼らは思い知ることになる。自分たちが切り捨てた男が、歴史に名を刻む本物の英雄だったということを!
無能と蔑まれた男が、知略と育成術で世界を変える! 爽快・育成ファンタジー、堂々開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる