妖狐と魅惑の遊戯

夢咲まゆ

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第九十五話

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「玉藻前!」

 勢いよく楽屋に飛び込んだら、そこには意外な光景が広がっていた。

 畳式の楽屋の真ん中に、ちゃぶ台がひとつ。その横には火鉢のようなものが置かれている。たまおこと玉藻前は、ちゃぶ台前の座布団の上にきちんと正座していた。古風な硯と筆で、和紙に絵だか文字だかを書き連ねている。

 もっとおどろおどろしい空気が満ちているかと思ったのに、拍子抜けするほど穏やかな雰囲気だった。

 ――あれが、玉藻前……?

 晴斗は思わず足を竦ませた。それほどに美しい女性だった。テレビではよく見ているのだが、本物はそれより数倍美しい。長い黒髪と色白の肌、赤い唇のコントラストが絶妙だった。全身から放たれる妖しげなオーラが、美しさを更に倍増させている。鳥羽上皇の寵姫だったというのも納得だ。彼女に言い寄られたら、大抵の男は骨抜きになってしまうだろう。

「無礼な人たち。他人様の楽屋に入る時は、ノックくらいするものよ」

 彼女はこちらに目もくれず、落ち着いた声音で言った。まるで、最初から晴斗たちがここに来ることを予知していたかのようだった。

「ふふ……でもまあ、よくここまで来られたわね。歓迎するわ」

 と、書いていた紙を火鉢にくべる。乾いた和紙は火付きがよく、すぐさまメラメラ燃え始めた。

 九尾は一歩前に足を踏み出した。その顔はやや厳しいものだった。

「あなたが玉藻前……だな?」
「ふふ……そうよ、九尾。晴明から時々話を聞かされていたわ。思った通り、私に引けを取らない美しさね」
「……そんなことはどうでもいい」

 九尾が不快そうに眉をひそめる。九尾にしては珍しく口調も荒っぽくなっていた。

「この建物に呪詛をかけたのは、あなたか?」
「ふふ……だったらどうする?」
「何故こんなことをする? こんなことをして何が楽しい? あなたの目的は何なんだ」
「あら……おかしなことを聞くのね。呪詛で人間と戯れてこそ妖狐。それをしないのはただのキツネよ。そう思わない? タヌキさん」
「いや~……僕に話を振られてもねぇ……」

 珍しく三尾も曖昧な返事をしている。先程まで元気よく消火器攻撃をしていたのに、玉藻前と対面した途端、いつもの調子がなくなってしまっていた。
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