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第1章~あなたを目指して~
第53話
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「げほ、げほ……っ」
身体が熱い。キスひとつでこんな風になってしまうなんて知らなかった。
というか、キスというのは唇同士を触れ合わせる行為じゃないのか……?
「お前、あまり経験ないね?」
「っ!?」
図星を刺され、ハッと顔を上げる。兄はにこりと微笑んで言った。
「人間だった頃はそんなにしたことなかったのかな? 昔からかなりモテてたのに、真面目なんだね」
「っ……!」
かあぁっと頬が熱くなった。恥ずかしさが二重、三重に襲ってきて、滲んでいた涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「ああ……もう、泣かないでよ。おねだりしてきたのはお前の方なのに」
「知らなかったんだ、こんなの……」
「? お前、大人のキスしたことないの?」
「……そんなの、誰としろと……」
この時ばかりは、鍛錬しかしてこなかったことを後悔した。
人間だった頃は兄に早く追いつくために鍛錬し、兄が死んでからはヴァルハラに行くために鍛錬し、ヴァルハラに来てからはランキングを上げるために鍛錬してきた。もとより色恋沙汰に興味はなく――というか、兄以外の人物は眼中になく――ひたすら強くなるために腕を磨いてきた。
だが、そのせいで肝心な時に必要な知識がすっぽり抜け落ちてしまったようだ。
兄が優しく髪を梳いてくる。
「本当に何にも知らずに大きくなったのか。なら、こっち方面はほとんど未経験だと思っておいた方がよさそうだ」
「……悪かったな、子供っぽくて」
「いや、汚れてないようで安心した。その純粋さは大切にしないとね」
「……?」
何か含みのある言い方だった。怪訝に思って兄の顔を見た時、泉の岩場から声がした。
「おーい、そこの二人! 怪我の治療は終わったかー?」
ハッとして兄から身体を離そうとしたのだが、兄は腕に力を入れたまま離してくれなかった。
身体が熱い。キスひとつでこんな風になってしまうなんて知らなかった。
というか、キスというのは唇同士を触れ合わせる行為じゃないのか……?
「お前、あまり経験ないね?」
「っ!?」
図星を刺され、ハッと顔を上げる。兄はにこりと微笑んで言った。
「人間だった頃はそんなにしたことなかったのかな? 昔からかなりモテてたのに、真面目なんだね」
「っ……!」
かあぁっと頬が熱くなった。恥ずかしさが二重、三重に襲ってきて、滲んでいた涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「ああ……もう、泣かないでよ。おねだりしてきたのはお前の方なのに」
「知らなかったんだ、こんなの……」
「? お前、大人のキスしたことないの?」
「……そんなの、誰としろと……」
この時ばかりは、鍛錬しかしてこなかったことを後悔した。
人間だった頃は兄に早く追いつくために鍛錬し、兄が死んでからはヴァルハラに行くために鍛錬し、ヴァルハラに来てからはランキングを上げるために鍛錬してきた。もとより色恋沙汰に興味はなく――というか、兄以外の人物は眼中になく――ひたすら強くなるために腕を磨いてきた。
だが、そのせいで肝心な時に必要な知識がすっぽり抜け落ちてしまったようだ。
兄が優しく髪を梳いてくる。
「本当に何にも知らずに大きくなったのか。なら、こっち方面はほとんど未経験だと思っておいた方がよさそうだ」
「……悪かったな、子供っぽくて」
「いや、汚れてないようで安心した。その純粋さは大切にしないとね」
「……?」
何か含みのある言い方だった。怪訝に思って兄の顔を見た時、泉の岩場から声がした。
「おーい、そこの二人! 怪我の治療は終わったかー?」
ハッとして兄から身体を離そうとしたのだが、兄は腕に力を入れたまま離してくれなかった。
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