~soul~

むささび雲

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転送先

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私は産まれてからレイという名前を優しいパパとママに付けてもらいました。名前の由来は特に決められてないみたいだけど大雑把なパパは直感で決めた!と言っていました。側で、ママは少し苦笑いをしてました。私はまだ何も分からない赤ちゃんだったから、とりあえず笑っていたかな。

それから月日が経ち、3歳の時に難病を患います。必死に闘う私を思い出します。病院のベッドの横で泣きながらママは頑張れ、頑張れ!と応援してくれたのをよく覚えているし毎日、仕事で忙しいパパも一生懸命見守ってくていました。
一刻も早く病態が良くなる事を皆で祈り続けていた事でしょう。
今になれば分かります。
ママもパパも小さな私もずっとずーっと元気になるように、また3人で楽しい生活を送れるように。



そして……私が小学校を上がる時には病態が奇跡的に良くなっていました。一番、状態が良かった時が小学4年生です。色んな勉強をして沢山の事を学んで友達も出来ました。担任の先生や仲の良い友達にも私の病気の事を打ち明けました。
それを聞いた先生はいつも、無理はしないでね、と言ってくれた。
いつまでもこんな穏やかな日が続いたら良いのにと願うばかりだったけど……そう思い通りにはいきませんでした。

ある日、病態が悪くなり学校で倒れてしまいました。病気は徐々に身体を蝕んでいっていたようです。
もう大丈夫だって信じていたのに。
もう病気は消えたと元気になったって思ってた。
それなのに……。
私が再び病院のベッドにいる時にはよく皆が、お見舞いに来てくれた事も記憶に残ります。
私も応援してくれる皆のために最後の勇気を振り絞って病気と闘いました。


長い長い闘病生活が続き、気づけば春になっていました。
今頃は友達と同じ小学5年生に上がる時期でした。
でも私はもう病院のベッドで安らかに眠っていました。そう…優しい両親や友達みんなに囲まれて、そんな様子を天井の辺りから見下ろしていた私。死んでしまった自分はもう皆の目には映らないという事を知りました。
眠りについた瞬間に白衣を着た存在が私を迎えに来てくれた。

そして今に至ります。
ここは真っ白な部屋で白衣を着た存在と自分が今までの人生を振り返っています。
「あなたは、自分の人生を諦めずに頑張りました。」
そう言って白衣を着た存在は微笑んだ。
「随分と魂の成長を実感できた事でしょう。いつもいつも私は諦めないあなたを見守ってきました。とても美しいものでしたね」
…とまた微笑んでくれた。
だから自分までつられて笑顔になる。
「ねぇ、これから天国へ連れてってくれるの?」
そう聞くと白衣を着た存在は静かに首を横に振りながら、ゆっくりと話してくれる。
「それはあなたが決めても良い事です。あなたは天国へ行きたいのですか?」
私はよく分からなかったけど、とりあえず首を横に振った。人は死んだら天国か地獄へ行くものだと思っていたから。
「それではまた…別の世界へ旅をするというのはどうでしょう」
「そんな事も出来るの?」
白衣を着た存在はニッコリと頷いた。
「うーん、それじゃあ……」
腕を組み目を閉じて私は考える。
これからどうしたいのか新しい世界へ行くのか、それとも天国へと進むのか。


10分後……悩みに悩んで決めた私は白衣を着た存在に自分の意思を告げた。
「決めた!私はまた生まれ変わって自分自身を成長させたい。それと、新しい世界なんて行けるなら冒険したい!」
勢いよく目をキラキラさせながら言うと…。
「そうですか。分かりました、それならまず魂を浄化させて転送先を決めましょう」
白衣を着た存在によれば、魂を浄化するっていうのは地球で生きていた心の汚れを落とすんだって。新しい世界に生まれ変わるためには真っさらな状態にならなきゃいけないらしい。
それから次の人生計画?みたいのを決めるみたいだけど、私自身もっと楽しくてワクワクするような物語を考えたいな。


「レイさん」
白衣を着た存在が私の名前を呼ぶ。
「なあに?」
「この中から転送先を選んで下さい。色々ありますけど…あまり過酷な人生は選ばない方が良いかと」
「どれどれ…」
部屋の中に映し出された複数の画面がある映像が現れて、そこには色んな種類の景色が見える。
行った事も見た事もない世界が沢山。
どれを選んでいいか迷ってしまうけど必ずどれか一つにしなければならない決まりみたいです。



パッと見つけた一つの映像。
「うわぁ~!ねぇ、ここって人間の世界?」
また目をときめかせながら白衣を着た存在に詳しい情報を聞く。
「……この世界は。」
その瞬間、白衣を着た存在は呟く。
表情も険しくなり何故か映像に手をかざした。
手をかざした時…眩い光が私の視界に入る。
「うっ…」
眩し過ぎて目を開けない。
そう思っていたら光が段々と消えていき私はそっと目を開け、目の前に広がる景色を見る。




あれ?さっきいた場所と同じ世界。
「何も、変わってない…?」
側には白衣を着た存在がいる。
でも沢山の映像や眩しい光が消えていた。
何が起こったか聞いてみると。
「どうして映像も光も消えちゃったの?」
「あなたに、あのような世界はまだ…」
私と目を合わせてくれず別の所を見つめながら話す白衣を着た存在。
「レイ…」
「大丈夫だよ!私ならきっと上手くやっていけるもの!ねぇ、信じて…お願い。」
どうしても新しいあの世界に行きたくて私は何度もお願いのポーズをして頼んだ。
けれど……。
「レイ、よく聞くのです」
さっきまで目を合わせてくれなかった白衣を着た存在が私の両肩を掴み視線を合わせて話してくれる。
「仮にも、あなたがあの新たな世界へ旅に出たとして全てを賭けられますか?」
「全て…?」
「あの世界で一度でも命を落としてしまうと、これまで何度も転生した魂や刻み込んだ全ての記憶が消されてしまうのです」
「……!」
私は静かに唾を飲んだ。
白衣を着た存在が話を続ける。
「もちろん。もうここにも戻っては来れないし私と出会う事もこれまでという事になります。それほど危険な世界で…」
「大丈夫!」
「……!」
何故だか不安や恐怖よりも、大丈夫という気持ちが湧いてきたのです。ただの好奇心なのかもしれないけれど…それでも冒険をしてみたい。
そんな想いを白衣を着た存在に打ち明けると、とても心配そうに私の身体を抱きしめてくれる。
それはそれは温かかった。
まるでママやパパに抱きしめてもらってるみたいに安心できたのです。


数秒後、私の身体を離し白衣を着た存在が言う。
「さっき話した通り…あの世界で途中で命を落とすような事があれば、あなたはそこで全部が消えます。但し、最後まで生き延びたなら…また私と会えます」
うんうん…と頷く私を真剣な目で見つめる白衣を着た存在。
そうか、生き延びればいいのね。
簡単ではないけれどきっと寿命まで生きてみせよう。そして…私が帰って来たらまた白衣を着た存在にも会えるはずだから。
「じゃあ、私今すぐにでも行くよ!」
「お待ちなさい。まだ浄化が終わっていません。真っさらな状態にし前世という記憶になるものも消しておきます」
「また思い出せる?」
「はい、無事に帰って来たならば。それから…人生設計も立てましょう」
なんとかあの世界に転送先が決まって、ワクワクする反面…少しだけ不安も感じている。
何せ一度死んでしまったら私という魂が消えて、もう生まれ変わる事が出来なくなるからだ。
話によれば最悪の場合に私と出逢った全ての人達から存在がなかった事になるらしいのです。
だからなかなか、あの世界に生まれ変わりたがる魂はいないという事です。



手続きを終え、私はいよいよ楽しみにしていた、あの世界へと旅立てるようです。
「レイ…あなたを見守る神様はあなたが、あの世界へ転生する事を承諾して下さいました。が、なるべく私共も無事にあなたが帰って来れるようにサポート致しますよ。」
「うん!ありがとう!」
「それでは………」
白衣を着た存在の合図と共に私の身体は小さな小さな光の玉となって転送されたのだった。
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