2 / 10
転送先
しおりを挟む私は産まれてからレイという名前を優しいパパとママに付けてもらいました。名前の由来は特に決められてないみたいだけど大雑把なパパは直感で決めた!と言っていました。側で、ママは少し苦笑いをしてました。私はまだ何も分からない赤ちゃんだったから、とりあえず笑っていたかな。
それから月日が経ち、3歳の時に難病を患います。必死に闘う私を思い出します。病院のベッドの横で泣きながらママは頑張れ、頑張れ!と応援してくれたのをよく覚えているし毎日、仕事で忙しいパパも一生懸命見守ってくていました。
一刻も早く病態が良くなる事を皆で祈り続けていた事でしょう。
今になれば分かります。
ママもパパも小さな私もずっとずーっと元気になるように、また3人で楽しい生活を送れるように。
そして……私が小学校を上がる時には病態が奇跡的に良くなっていました。一番、状態が良かった時が小学4年生です。色んな勉強をして沢山の事を学んで友達も出来ました。担任の先生や仲の良い友達にも私の病気の事を打ち明けました。
それを聞いた先生はいつも、無理はしないでね、と言ってくれた。
いつまでもこんな穏やかな日が続いたら良いのにと願うばかりだったけど……そう思い通りにはいきませんでした。
ある日、病態が悪くなり学校で倒れてしまいました。病気は徐々に身体を蝕んでいっていたようです。
もう大丈夫だって信じていたのに。
もう病気は消えたと元気になったって思ってた。
それなのに……。
私が再び病院のベッドにいる時にはよく皆が、お見舞いに来てくれた事も記憶に残ります。
私も応援してくれる皆のために最後の勇気を振り絞って病気と闘いました。
長い長い闘病生活が続き、気づけば春になっていました。
今頃は友達と同じ小学5年生に上がる時期でした。
でも私はもう病院のベッドで安らかに眠っていました。そう…優しい両親や友達みんなに囲まれて、そんな様子を天井の辺りから見下ろしていた私。死んでしまった自分はもう皆の目には映らないという事を知りました。
眠りについた瞬間に白衣を着た存在が私を迎えに来てくれた。
そして今に至ります。
ここは真っ白な部屋で白衣を着た存在と自分が今までの人生を振り返っています。
「あなたは、自分の人生を諦めずに頑張りました。」
そう言って白衣を着た存在は微笑んだ。
「随分と魂の成長を実感できた事でしょう。いつもいつも私は諦めないあなたを見守ってきました。とても美しいものでしたね」
…とまた微笑んでくれた。
だから自分までつられて笑顔になる。
「ねぇ、これから天国へ連れてってくれるの?」
そう聞くと白衣を着た存在は静かに首を横に振りながら、ゆっくりと話してくれる。
「それはあなたが決めても良い事です。あなたは天国へ行きたいのですか?」
私はよく分からなかったけど、とりあえず首を横に振った。人は死んだら天国か地獄へ行くものだと思っていたから。
「それではまた…別の世界へ旅をするというのはどうでしょう」
「そんな事も出来るの?」
白衣を着た存在はニッコリと頷いた。
「うーん、それじゃあ……」
腕を組み目を閉じて私は考える。
これからどうしたいのか新しい世界へ行くのか、それとも天国へと進むのか。
10分後……悩みに悩んで決めた私は白衣を着た存在に自分の意思を告げた。
「決めた!私はまた生まれ変わって自分自身を成長させたい。それと、新しい世界なんて行けるなら冒険したい!」
勢いよく目をキラキラさせながら言うと…。
「そうですか。分かりました、それならまず魂を浄化させて転送先を決めましょう」
白衣を着た存在によれば、魂を浄化するっていうのは地球で生きていた心の汚れを落とすんだって。新しい世界に生まれ変わるためには真っさらな状態にならなきゃいけないらしい。
それから次の人生計画?みたいのを決めるみたいだけど、私自身もっと楽しくてワクワクするような物語を考えたいな。
「レイさん」
白衣を着た存在が私の名前を呼ぶ。
「なあに?」
「この中から転送先を選んで下さい。色々ありますけど…あまり過酷な人生は選ばない方が良いかと」
「どれどれ…」
部屋の中に映し出された複数の画面がある映像が現れて、そこには色んな種類の景色が見える。
行った事も見た事もない世界が沢山。
どれを選んでいいか迷ってしまうけど必ずどれか一つにしなければならない決まりみたいです。
パッと見つけた一つの映像。
「うわぁ~!ねぇ、ここって人間の世界?」
また目をときめかせながら白衣を着た存在に詳しい情報を聞く。
「……この世界は。」
その瞬間、白衣を着た存在は呟く。
表情も険しくなり何故か映像に手をかざした。
手をかざした時…眩い光が私の視界に入る。
「うっ…」
眩し過ぎて目を開けない。
そう思っていたら光が段々と消えていき私はそっと目を開け、目の前に広がる景色を見る。
あれ?さっきいた場所と同じ世界。
「何も、変わってない…?」
側には白衣を着た存在がいる。
でも沢山の映像や眩しい光が消えていた。
何が起こったか聞いてみると。
「どうして映像も光も消えちゃったの?」
「あなたに、あのような世界はまだ…」
私と目を合わせてくれず別の所を見つめながら話す白衣を着た存在。
「レイ…」
「大丈夫だよ!私ならきっと上手くやっていけるもの!ねぇ、信じて…お願い。」
どうしても新しいあの世界に行きたくて私は何度もお願いのポーズをして頼んだ。
けれど……。
「レイ、よく聞くのです」
さっきまで目を合わせてくれなかった白衣を着た存在が私の両肩を掴み視線を合わせて話してくれる。
「仮にも、あなたがあの新たな世界へ旅に出たとして全てを賭けられますか?」
「全て…?」
「あの世界で一度でも命を落としてしまうと、これまで何度も転生した魂や刻み込んだ全ての記憶が消されてしまうのです」
「……!」
私は静かに唾を飲んだ。
白衣を着た存在が話を続ける。
「もちろん。もうここにも戻っては来れないし私と出会う事もこれまでという事になります。それほど危険な世界で…」
「大丈夫!」
「……!」
何故だか不安や恐怖よりも、大丈夫という気持ちが湧いてきたのです。ただの好奇心なのかもしれないけれど…それでも冒険をしてみたい。
そんな想いを白衣を着た存在に打ち明けると、とても心配そうに私の身体を抱きしめてくれる。
それはそれは温かかった。
まるでママやパパに抱きしめてもらってるみたいに安心できたのです。
数秒後、私の身体を離し白衣を着た存在が言う。
「さっき話した通り…あの世界で途中で命を落とすような事があれば、あなたはそこで全部が消えます。但し、最後まで生き延びたなら…また私と会えます」
うんうん…と頷く私を真剣な目で見つめる白衣を着た存在。
そうか、生き延びればいいのね。
簡単ではないけれどきっと寿命まで生きてみせよう。そして…私が帰って来たらまた白衣を着た存在にも会えるはずだから。
「じゃあ、私今すぐにでも行くよ!」
「お待ちなさい。まだ浄化が終わっていません。真っさらな状態にし前世という記憶になるものも消しておきます」
「また思い出せる?」
「はい、無事に帰って来たならば。それから…人生設計も立てましょう」
なんとかあの世界に転送先が決まって、ワクワクする反面…少しだけ不安も感じている。
何せ一度死んでしまったら私という魂が消えて、もう生まれ変わる事が出来なくなるからだ。
話によれば最悪の場合に私と出逢った全ての人達から存在がなかった事になるらしいのです。
だからなかなか、あの世界に生まれ変わりたがる魂はいないという事です。
手続きを終え、私はいよいよ楽しみにしていた、あの世界へと旅立てるようです。
「レイ…あなたを見守る神様はあなたが、あの世界へ転生する事を承諾して下さいました。が、なるべく私共も無事にあなたが帰って来れるようにサポート致しますよ。」
「うん!ありがとう!」
「それでは………」
白衣を着た存在の合図と共に私の身体は小さな小さな光の玉となって転送されたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる