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第二章 子守唄
一話 問題児
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◇
朝から何もやる事がない。
そう気付いたのは、昼が過ぎてからだった。
先日クビになったばかりで次の仕事もまだ決まっておらず、玖々莉は自分が怠惰な一日を過ごしている事にようやく気付いた。
仕方なくお昼の用意をしに台所へと向かう。
手狭なスペースに小さな一人暮らし用の冷蔵庫。
だが開けてみると、中には二リットルボトルの水しか入っていなかった。
仕方なくお昼の買い出しをする為に出掛ける準備をする。
着慣れている二回り程大き目のTシャツにダウンを羽織り、短パンで過ごしていた下をジーンズに履き替える。
煩わしさを軽減する為に、ピンクのウェーブ掛かった長い髪は一纏めにして。
ゆっくりとした動作でボロボロのスニーカーを履き、そのまま鍵も閉めずに家を空けた。
普段から行っている近場のコンビニへと赴く。
いつもツナおにぎりしか食べない為、勿論今日もツナおにぎりを買うつもりでいた。
暇な玖々莉とは対照的にスーツ姿の人々や専業主婦の方々は忙しそうで、平日の昼間は効率重視に動きを取る人ばかりなのであろう、何となくそんな事を考えながら歩いていた。
そんな中、向かう道中でダウンのポケットからスマホが鳴り出す。
ゆっくりとした動作でそれを取り出し、何時の時代からもお馴染みの平凡なトゥルル……という着信音が4コール鳴って、それからようやく相手先の名前を確認した。
「――もしもし玖々莉?あんたまたバイトクビになったって?」
着信の相手は玖々莉の唯一の友人雑賀美冬であった。
彼女は中学時代の同級生であり、生徒会長を務めていた秀才。
そんな美冬は常にぼーっとしている玖々莉を放って置けなかったのか、その頃からよく面倒を見てくれていた。
ちなみに魂鎮メとは関係のない一般人である。
「今度は何したの?はー、まったく。せっかく紹介してもすぐダメにするんだから」
「うん、ゴメン。制服を忘れちゃって、取りに戻ったんだけど。そのまま行くのを忘れちゃってた」
「はあ!?社会性以前の問題じゃない……。あんた、そんなんじゃ老後どころか30まですら生き残れないわよ?」
美冬には魂鎮メの事は話していない。
なので本当は間に『本業に行っていた為』が入るのだがそこは伏せる。
「それで?次のバイト先もまだ探してないんでしょ?生活費、大丈夫なの?」
「うん。貯金、少しはあるから」
勿論少しではない。
魂鎮メの報酬料は莫大である。
加えて裏家業故に頻度は少ないものの、案件がなくなる事は決してない。
それだけ人はろくな死に方を選べていない証明に他ならないのだが。
「いい加減、一つの場所に落ち着かなきゃ。私らだってもう大人になってるんだから、社会で生きていく術を身につけなさい。いいわね?」
「うん、がんばる。でもちょっと、お腹空いたからコンビニ行くね」
「はー。どうせまたあんた、おにぎりしか食べてないんでしょ?いいわ、今度なんか作りに行ってあげるから」
「え、でも、悪いかなって――」
「つべこべ言わない!それじゃ、またね」
ツー、ツー。
通話が切れた事を確認して、玖々莉は耳元からスマホを下ろす。
相も変わらず友人は面倒見がいい。
そう思いながらスマホをポケットにしまい、再びコンビニを目指した。
小さなビニール袋を片手に家へと帰る。
他にやる事もなく行く場所も特にはないので、今日はご飯を食べたら何をしようか。
そんな事を考えながらアパートの前に辿り着き、二階への階段を昇る。
ギシギシと音を立てながら、そのまま真ん中の202号室のドアを開けて中へと入った。
「――あ、お帰りなさーい。勝手ながらお邪魔してましたー」
家の中に不法侵入者が一名、当然見知った顔ではあるが。
「玖々莉さん、鍵くらい閉めた方がいいですよー?もし泥棒が入ったらどうするんですかー」
既に近しい者に入られているのだが玖々莉は大して気にした素振りもみせず、そのまま六畳一間に置かれた小さなテーブルへと着く。
ビニール袋からおにぎりを一個取り出して開封し、それを一気に頬張った。
「モキュモキュ……。ふぁべる?」
「いえ、お昼は家で済ませて来ましたので」
そう断りを入れて来たのは魂鎮メの人間である。
八重桜の管轄に所属する甘草家の最年少当主、甘草手毬14歳。
黒髪ショートにグリーンのインナーカラーがトレードマークの、ちょっとやんちゃな中学二年生の少女だ。
手毬は昔から玖々莉に懐いており、なので玖々莉にとっては妹のような存在であった。
「それにしても、またツナおにぎりですかー?よく飽きないですねー。玖々莉さん、きっと前世はネコですね。ネコ科の遺伝子を感じます」
「おいしいよ。食べる?」
「めちゃくちゃ勧めてきますね。でもご遠慮させて頂きまーす」
別段珍しい訳でもない手毬の来訪、だが玖々莉には少しだけ違和感があった。
今日は平日であり、普段なら手毬は学校へ行っている時間である。
何かしらの急用があると見るべきか。
こう見えて案外そういう所にはすぐに勘付く玖々莉であった。
「で、どうしたの?何かあった?」
そうは言ってもおにぎりを食べ終える事が今は何よりの優先事項であり、玖々莉は一個目を食べ終えてからようやく本題へと話を振った。
二個目のツナおにぎりを開封しながらも、ちゃんと話は聞くつもりである。
手毬もそれは分かっていたようで、向かい合って座りながらもずっと一個目を食べ終えるのを待っていた。
「それがですねー、どうやら藍葉家が緊急招集を掛けておりまして。四世家及びその管轄下の当主は全員集合らしいんですよー。てゆーか蒼さんから連絡来てないんですか?」
「私、藤堂さんしか連絡先知らない」
「それは問題ですねー。今まで四世家の連携とか会合とかどうしてたんですか?」
「リモート参加」
「時代ですねー」
「ほぼ寝てるだけ」
「ただの問題児じゃないですかー」
手毬の言う通り、玖々莉は問題児だ。
だがその実力がそれらの行為を許してしまう。
まあ一部の人間しか知らない別の理由もあるのだが。
兎にも角にもそれ程までに玖々莉の霊装時の特性は、他の追随を許さなかった。
そして言い合った挙句、玖々莉は渋々手毬に引っ張り出されて藍葉家へと出頭するハメとなった。
だがこの時既に事は動いており、新たな禁地での戦いの幕は着実に上がり始めていた――。
朝から何もやる事がない。
そう気付いたのは、昼が過ぎてからだった。
先日クビになったばかりで次の仕事もまだ決まっておらず、玖々莉は自分が怠惰な一日を過ごしている事にようやく気付いた。
仕方なくお昼の用意をしに台所へと向かう。
手狭なスペースに小さな一人暮らし用の冷蔵庫。
だが開けてみると、中には二リットルボトルの水しか入っていなかった。
仕方なくお昼の買い出しをする為に出掛ける準備をする。
着慣れている二回り程大き目のTシャツにダウンを羽織り、短パンで過ごしていた下をジーンズに履き替える。
煩わしさを軽減する為に、ピンクのウェーブ掛かった長い髪は一纏めにして。
ゆっくりとした動作でボロボロのスニーカーを履き、そのまま鍵も閉めずに家を空けた。
普段から行っている近場のコンビニへと赴く。
いつもツナおにぎりしか食べない為、勿論今日もツナおにぎりを買うつもりでいた。
暇な玖々莉とは対照的にスーツ姿の人々や専業主婦の方々は忙しそうで、平日の昼間は効率重視に動きを取る人ばかりなのであろう、何となくそんな事を考えながら歩いていた。
そんな中、向かう道中でダウンのポケットからスマホが鳴り出す。
ゆっくりとした動作でそれを取り出し、何時の時代からもお馴染みの平凡なトゥルル……という着信音が4コール鳴って、それからようやく相手先の名前を確認した。
「――もしもし玖々莉?あんたまたバイトクビになったって?」
着信の相手は玖々莉の唯一の友人雑賀美冬であった。
彼女は中学時代の同級生であり、生徒会長を務めていた秀才。
そんな美冬は常にぼーっとしている玖々莉を放って置けなかったのか、その頃からよく面倒を見てくれていた。
ちなみに魂鎮メとは関係のない一般人である。
「今度は何したの?はー、まったく。せっかく紹介してもすぐダメにするんだから」
「うん、ゴメン。制服を忘れちゃって、取りに戻ったんだけど。そのまま行くのを忘れちゃってた」
「はあ!?社会性以前の問題じゃない……。あんた、そんなんじゃ老後どころか30まですら生き残れないわよ?」
美冬には魂鎮メの事は話していない。
なので本当は間に『本業に行っていた為』が入るのだがそこは伏せる。
「それで?次のバイト先もまだ探してないんでしょ?生活費、大丈夫なの?」
「うん。貯金、少しはあるから」
勿論少しではない。
魂鎮メの報酬料は莫大である。
加えて裏家業故に頻度は少ないものの、案件がなくなる事は決してない。
それだけ人はろくな死に方を選べていない証明に他ならないのだが。
「いい加減、一つの場所に落ち着かなきゃ。私らだってもう大人になってるんだから、社会で生きていく術を身につけなさい。いいわね?」
「うん、がんばる。でもちょっと、お腹空いたからコンビニ行くね」
「はー。どうせまたあんた、おにぎりしか食べてないんでしょ?いいわ、今度なんか作りに行ってあげるから」
「え、でも、悪いかなって――」
「つべこべ言わない!それじゃ、またね」
ツー、ツー。
通話が切れた事を確認して、玖々莉は耳元からスマホを下ろす。
相も変わらず友人は面倒見がいい。
そう思いながらスマホをポケットにしまい、再びコンビニを目指した。
小さなビニール袋を片手に家へと帰る。
他にやる事もなく行く場所も特にはないので、今日はご飯を食べたら何をしようか。
そんな事を考えながらアパートの前に辿り着き、二階への階段を昇る。
ギシギシと音を立てながら、そのまま真ん中の202号室のドアを開けて中へと入った。
「――あ、お帰りなさーい。勝手ながらお邪魔してましたー」
家の中に不法侵入者が一名、当然見知った顔ではあるが。
「玖々莉さん、鍵くらい閉めた方がいいですよー?もし泥棒が入ったらどうするんですかー」
既に近しい者に入られているのだが玖々莉は大して気にした素振りもみせず、そのまま六畳一間に置かれた小さなテーブルへと着く。
ビニール袋からおにぎりを一個取り出して開封し、それを一気に頬張った。
「モキュモキュ……。ふぁべる?」
「いえ、お昼は家で済ませて来ましたので」
そう断りを入れて来たのは魂鎮メの人間である。
八重桜の管轄に所属する甘草家の最年少当主、甘草手毬14歳。
黒髪ショートにグリーンのインナーカラーがトレードマークの、ちょっとやんちゃな中学二年生の少女だ。
手毬は昔から玖々莉に懐いており、なので玖々莉にとっては妹のような存在であった。
「それにしても、またツナおにぎりですかー?よく飽きないですねー。玖々莉さん、きっと前世はネコですね。ネコ科の遺伝子を感じます」
「おいしいよ。食べる?」
「めちゃくちゃ勧めてきますね。でもご遠慮させて頂きまーす」
別段珍しい訳でもない手毬の来訪、だが玖々莉には少しだけ違和感があった。
今日は平日であり、普段なら手毬は学校へ行っている時間である。
何かしらの急用があると見るべきか。
こう見えて案外そういう所にはすぐに勘付く玖々莉であった。
「で、どうしたの?何かあった?」
そうは言ってもおにぎりを食べ終える事が今は何よりの優先事項であり、玖々莉は一個目を食べ終えてからようやく本題へと話を振った。
二個目のツナおにぎりを開封しながらも、ちゃんと話は聞くつもりである。
手毬もそれは分かっていたようで、向かい合って座りながらもずっと一個目を食べ終えるのを待っていた。
「それがですねー、どうやら藍葉家が緊急招集を掛けておりまして。四世家及びその管轄下の当主は全員集合らしいんですよー。てゆーか蒼さんから連絡来てないんですか?」
「私、藤堂さんしか連絡先知らない」
「それは問題ですねー。今まで四世家の連携とか会合とかどうしてたんですか?」
「リモート参加」
「時代ですねー」
「ほぼ寝てるだけ」
「ただの問題児じゃないですかー」
手毬の言う通り、玖々莉は問題児だ。
だがその実力がそれらの行為を許してしまう。
まあ一部の人間しか知らない別の理由もあるのだが。
兎にも角にもそれ程までに玖々莉の霊装時の特性は、他の追随を許さなかった。
そして言い合った挙句、玖々莉は渋々手毬に引っ張り出されて藍葉家へと出頭するハメとなった。
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