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第三章 鳥籠詩
十話 若さ故の過ち
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◇
渚は危機感を覚えていた。
この女子高生の制服は、見紛う事なく自身の通っていた高校の物だ。
何故週末に制服を着てこんな廃墟に来ているのか。
おかんに部活行ってくると偽って心霊スポット巡りに来たのだろうか。
とにかく渚は、一生懸命顔を逸らし続けていた。
「芽唯ちゃん、なんで芸能界引退してもうたの?ウチめっちゃ応援しとったから、めっちゃショックやってんけど~!あ~でもおかげで会えたから、それはそれで嬉しいけど~!う~ん、複雑やわー」
「あんた、ここがどこか分かってる?そんな事話してる場合じゃないから」
「そんな事ちゃうわー!ウチ真剣やでー!」
幸い今芽唯に注意が引かれているので、このまま何となく出口まで送れば問題ないだろう。
そう思った渚は黒子に徹した。
気配を消して、息を潜める。
そうする事で渚は、炭坑の壁になった。
今なら壁の気持ちが分かる。
こんなにいっぱい落書きされて辛かったな?誰も来ない場所に居続けて寂しかったな?
黄泉ノ国なんて知らんもんに急に巻き込まれてしんどかったな?と。
渚は親身になって壁の悩みを聞き続けた。
「ところで、あなたはどなたですか?芽唯ちゃんのお友達の方?」
「……。」
渚は決して女子高生の方を見なかった。
相手が諦めるまで目を逸らし続ける所存であった。
「あ。遅くなりましたがウチ、瀬名実里いいます。〇〇高校の二年生です」
聞きたくない、だから渚は耳を塞いだ。
もういっそ目も閉じよう。
だが明らかに芽唯は渚の一連の行為を不審がっていた。
「……ねえ、渚――」
「ちゃう!ウチの名前は和田秋子や!誰かと間違えてます!」
「……実里ちゃん、実里ちゃんの高校に何か伝説的な話ってある?何かしでかして有名になった女の先輩の話とか」
「伝説??あーそう言えば、ウチの何年か前の先輩で興梠渚って人がいたらしいんですけど、陸上種目の記録をことごとく塗り替えたとか。何でも走り高跳びで九メーター、走り幅跳びで三十メーター、百メートル走で二秒台の記録が出たとか」
「ふーん……」
――……あかん、全部バラされた。ウチはもう、破滅や……破滅や……破滅や……。
当時、調子に乗っていた渚は霊を多用していた。
試しに陸上部に入部し、霊の力を借りて高跳びからやってみた。
とんでもない記録が出た、世界記録の四倍だった。
でも周りが褒めてくれるから、渚は更に調子に乗った。
結果、大変な事になってしまった。
流石にやり過ぎたと思い、次の日からは陸上部に行けなくなっていた。
しつこく戻って来いと言われるも避け続け、何とか卒業まで逃げ切ったのだ。
「……ねえ、和田さん」
「……はい。何でしょうか白百合さん」
「私さー、ちょっと疲れちゃって肩揉んで欲しいんだけど」
「……はい。よろこんで」
そう言って渚は芽唯の肩を一生懸命になって揉んだ。
それを見ていた実里は言う。
「ああ、マネージャーさんでしたか。あれ?てことはまだ芽唯ちゃん芸能活動してるん??」
そうして奇妙な空気が生まれる炭坑なのであった。
誰か炭坑の壁の気持ちにもなって欲しい――。
渚は危機感を覚えていた。
この女子高生の制服は、見紛う事なく自身の通っていた高校の物だ。
何故週末に制服を着てこんな廃墟に来ているのか。
おかんに部活行ってくると偽って心霊スポット巡りに来たのだろうか。
とにかく渚は、一生懸命顔を逸らし続けていた。
「芽唯ちゃん、なんで芸能界引退してもうたの?ウチめっちゃ応援しとったから、めっちゃショックやってんけど~!あ~でもおかげで会えたから、それはそれで嬉しいけど~!う~ん、複雑やわー」
「あんた、ここがどこか分かってる?そんな事話してる場合じゃないから」
「そんな事ちゃうわー!ウチ真剣やでー!」
幸い今芽唯に注意が引かれているので、このまま何となく出口まで送れば問題ないだろう。
そう思った渚は黒子に徹した。
気配を消して、息を潜める。
そうする事で渚は、炭坑の壁になった。
今なら壁の気持ちが分かる。
こんなにいっぱい落書きされて辛かったな?誰も来ない場所に居続けて寂しかったな?
黄泉ノ国なんて知らんもんに急に巻き込まれてしんどかったな?と。
渚は親身になって壁の悩みを聞き続けた。
「ところで、あなたはどなたですか?芽唯ちゃんのお友達の方?」
「……。」
渚は決して女子高生の方を見なかった。
相手が諦めるまで目を逸らし続ける所存であった。
「あ。遅くなりましたがウチ、瀬名実里いいます。〇〇高校の二年生です」
聞きたくない、だから渚は耳を塞いだ。
もういっそ目も閉じよう。
だが明らかに芽唯は渚の一連の行為を不審がっていた。
「……ねえ、渚――」
「ちゃう!ウチの名前は和田秋子や!誰かと間違えてます!」
「……実里ちゃん、実里ちゃんの高校に何か伝説的な話ってある?何かしでかして有名になった女の先輩の話とか」
「伝説??あーそう言えば、ウチの何年か前の先輩で興梠渚って人がいたらしいんですけど、陸上種目の記録をことごとく塗り替えたとか。何でも走り高跳びで九メーター、走り幅跳びで三十メーター、百メートル走で二秒台の記録が出たとか」
「ふーん……」
――……あかん、全部バラされた。ウチはもう、破滅や……破滅や……破滅や……。
当時、調子に乗っていた渚は霊を多用していた。
試しに陸上部に入部し、霊の力を借りて高跳びからやってみた。
とんでもない記録が出た、世界記録の四倍だった。
でも周りが褒めてくれるから、渚は更に調子に乗った。
結果、大変な事になってしまった。
流石にやり過ぎたと思い、次の日からは陸上部に行けなくなっていた。
しつこく戻って来いと言われるも避け続け、何とか卒業まで逃げ切ったのだ。
「……ねえ、和田さん」
「……はい。何でしょうか白百合さん」
「私さー、ちょっと疲れちゃって肩揉んで欲しいんだけど」
「……はい。よろこんで」
そう言って渚は芽唯の肩を一生懸命になって揉んだ。
それを見ていた実里は言う。
「ああ、マネージャーさんでしたか。あれ?てことはまだ芽唯ちゃん芸能活動してるん??」
そうして奇妙な空気が生まれる炭坑なのであった。
誰か炭坑の壁の気持ちにもなって欲しい――。
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