~魂鎮メノ弔イ歌~

宵空希

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第三章 鳥籠詩

十一話 開戦

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芽唯たちは一先ず、実里を帰す事にした。
どうやら実里は友人を探しにここまで来ていたらしいのだが、あまりにも危険すぎるのでその役は自分たちが担う事を伝え、何とか納得してもらった。
なので三人は今、来た道を引き返していた。

「でも、芽唯ちゃんがお祓い家業やったなんて。最初は何かの撮影かと思ったわ」

霊装時の芽唯が見える、つまり実里は霊感がある。
今までの解釈であればそうだった。
だが実里自身そのような体験を一度もした事がないらしく、恐らくだが禁地特有の影響が何かしらあるのだろう、二人はそう結論付けた。

「いい?ここでの出来事は他言無用だからね?」

「言わへん言わへん!そんなん誰も信じんしなぁ。ウチと芽唯ちゃんだけの秘密やね!」

「……ウチもおるねんけど」

「あ、すいません和田さん!でもマネージャーさんも一緒で安心しました!芽唯ちゃんまた芸能界に戻るって事やろ?」

「……まあ、考え中」

会話を交えながらも、レール沿いを歩き続ける。
意外とそれなりに進んでいたようで、未だ入り口は見えて来ない。
随分な時間ロスになってしまった、まあ時間は止まっているのだが。
芽唯はそう思ったが仕方ないと、助けられただけラッキーだったと思う事にした。

そうして歩き続けていると、前方から気配を感じ取る。
芽唯は実里を庇うように前に出て、渚へと声を掛ける。

「和田さん、準備して!」

「ほいな、白百合さん!」

渚はお札を取り出すと、それを宙に放り投げた。
その札が怪しげな光を放ち、渚を直に包み込む。

「憑着――鬼嫁おによめ

渚は怨霊の霊力を纏い、姿を変えた。
黒の着物に身を包み、頭には白無垢の綿帽子とも思えるようなフードを。
けれどその隙間からは赤い鬼の角のようなものが二本出ており、花模様の髪飾りがそこから垂れ下がる。
手には巨大な両刃の斧が握られていた。

そうして霊力を得た渚は、不敵な笑みを浮かべる。

「おっしゃ!やったるでー!ウチの新必殺技、コブラさんツイストで返り討ちに――」

「待って。ふつうの気配じゃない」

若干の薄暗さの中、気配は前方からゆっくりと近づいて来る。
不穏な感覚だ、瘴気も濃くなった。
地面から漂うような、そんな霧状の瘴気が赤みを帯びて来る。
薄暗かった空が、真っ赤な色に染まる。
芽唯は感覚的に覚えていた、これは間違いなく異形の気配であると。

「……リベンジ前の試し打ちやな」

「失敗したら、私もあんたもああなるけどね」

やがて気配は姿を見せる距離までやって来た。
ボロボロの作業着に身を包み、眼は赤く光っている。
手にはツルハシを持ち、それを引きずりながらこちらへと近づいて来た者は、纏う瘴気からして正しく異形であった。

芽唯は武器を構える。
まずは楓救出の為の第一歩、そんな外せない一戦が始まる――。
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