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甘いカクテル
しおりを挟む___今はどうしても飲みたい気分だった。
夜の十時。行きつけのバーへと足を運ぶ。そこは私の癒しの場所だ。
勤めている会社と最寄り駅は同じなのに、駅を挟んで反対側に位置しているせいか、今まで知り合いと出くわしたことは一度もなかった。
私だけが知る隠れ家のような店。誰かに教えるのはもったいなくて、そこは私だけの秘密の場所だった。
”OPEN”と札の掛かった扉を開けると、カランカラン…と耳慣れた鈴の音が頭上で鳴る。それはこの店に客が訪れたことを知らせる音。
その後に続くのは、いつも決まって低くて心地の良い、マスターの落ち着いた声……の、はずだった。
「いらっしゃ……どうしたんだ!?」
こんなにも慌てているマスターを見るのは初めてだ。
はっきりとした年齢を聞いたことはないが、恐らく三十代前半、体格の良い長身の男性がここのマスター。
黒のパリッとしたYシャツに、腰から巻いた同色のエプロンを着こなす彼は、いつ見てもモデルのよう。たまに見かける他の従業員の男性も同じ格好をしていたが、どう見てもマスターのエプロンの丈が、他の人よりも少し短く感じてしまうのは、それが彼の足の長さを物語っているからなのか…と、今はそんなことどうでもよかった。
グラスを割ってしまったアルバイト君にも、酔っぱらって騒ぎを起こしかけた客にも、いつだって平静で穏やかに、スマートに対応していたあのマスターが、目を見開くほど驚いている。
それだけ今の私が酷いのだと、ここへ来て、ようやく気が付いた。
「あっ…はは……ちょっと、転んじゃいました…」
シワシワによれたスーツに、膝丈のタイトスカートから覗く伝線したパンスト。膝から流れ出る赤い血が、痛々しさを滲ませる。
今更ながらに恥ずかしさが込み上げて来て、乱れた髪を手櫛で直そうとするが、そんなのは気休めにしかならなかった。
「ご、ごめんなさい、こんな格好で…やっぱり、帰…」
「待って!」
手首を掴まれて、ドキッとする。
「心配だから、俺に手当させて」
私より頭一つ分大きな彼を見上げて、その真剣な表情に、気付けばコクンと頷いていた。
* * *
店内には私以外、誰もいなかった。マスターは私をソファーのあるテーブル席へとエスコートすると、一度裏へ救急箱を取りに姿を消した。
戻って来たマスターは、私に跪くような恰好で、こちらを見上げて来る。いつもと違う彼のアングルに、妙に胸がざわついた。
「脱いで」
「は……はぃ!?」
さっきまでの紳士な対応はいずこへ。急に発せられた言葉に、動揺を隠せない。
「…ん?あー…、この破れたパンスト、な?別に、他も脱いでくれるってんなら、俺は構わないけど」
ニヤつきを見せるその表情に、顏が赤くなるのを止められない。プイッと顏を背けて、精一杯の反抗を見せる。
「…痛くて脱げない、です」
「ふーん…?」
すると、彼の指が、私の怪我をした方の足のふくらはぎに触れた。
「っ!」
静電気とはまた違った、ピリッとした痺れが体中を駆け巡る。
そして次の瞬間、ビリビリビリッと、パンストが破ける音がした。
「あっ…な、…っ」
「女のパンストを破くって、男のロマンだよな」
またからかわれている…そう思ったが、触れる手付きは優しくて。
彼は濡れたタオルで丁寧に傷口を拭ってくれた。
「消毒すっからちょーっと染みるかもな。あ、遠慮なく鳴いていいぞ?」
「っ、あなたが言うと、ちょっと意味合いがっ…っん!」
思わず漏れてしまった声。咄嗟に口元を覆うが、もう遅い。彼をチラリと見てみれば、口を緩めて笑っていた。
「…よし、これで完了」
「あ、ありがとう…ございます…」
「どーいたしまして。じゃあこれ片付けてくっから…その間に、脱ぐなら脱いじゃえば?」
「っ!お、お手洗いお借りします!」
「ついてこうか?」
「平気ですっ!」
クスクスと笑うマスターは、私の知る、いつものマスターだった。
* * *
「今日は何飲む?」
「え?」
「ん?」
お手洗いから戻ると、マスターはカウンターの向こう側で、いつものようにお酒を作る準備をしていた。
「なに?酒じゃなくて俺に会いに来たわけ?」
「ち、ちが!えっと、その…今日は飲みたい気分で…!」
「ふ~ん?」
なんだか今日はいつもより、マスターとの心の距離が近いような気がする。より砕けた会話やそんな雰囲気を感じてしまうのは、他にお客さんがいないからなのか、それともイレギュラーな登場をしてしまったせいなのか…。
私はいつのもカウンター席へと座った。
そしてこの際だ、と、雰囲気に身を任せ、思い切ったことを口にする。
「強いお酒ください」
「…何があった?」
「……言ったでしょう、飲みたい気分、なんです」
目線は合わせられなかった。
いつもならこんな注文なんてしない。それはマスターも分かってるはず。
だけどマスターはそれ以上、追及はして来なかった。
必然的に会話は途切れ、緩やかなBGMが空間を包む。
マスターはいつものようにお酒を作り始めた。彼が奏でるその音を、私は静かに聞いていた。
そうしてスッと目の前に置かれたのは、レッドチェリーが飾られた、鮮やかな赤色のカクテル。その見た目はとても可愛らしくて、落ちた気分を上げてくれるような、そんな気持ちにさせてくれるカクテルだった。
マスターが作るお酒は味ももちろん別格だけど、見た目も宝石のように美しくて、毎度のことながら飲むのが惜しいと思ってしまう。今日は余計に、そう思ってしまった。
カクテルをしばらく見つめていると、カウンター越しにいたマスターが、こちら側、私の隣の席に腰を下ろした。その手には私とは違う種類のお酒が入ったグラスを持っている。
「マスターも飲むんですか?」
「飲みたい気分なもんで」
目を細めて笑うマスターは、そう言ってお酒を飲み始めた。私もそれにつられて、ようやく目の前のカクテルに口を付ける。
ほのかな甘みが口の中に広がった。
「___昨日、お付き合いしていた人と別れたんです。浮気でした」
グラスに沈むレッドチェリーを見つめて、昨日のことを思い出す。
私のことが好きだと言っていた元恋人。だけど彼は他の子も同時に愛していた。私だけじゃなかった。
「一応、その人とは結婚、とかも考えてはいたんですけど……どうしてか私、全然泣けなくて」
浮気の事実を目の前にして、怒りも悲しみも沸いてこなかった。ただ、はい、そうですか、じゃあ別れましょうって、まるで事務処理するかのような対応しかできなかった。
「こんな薄情な人間だから、浮気されるのかなぁって……今日は仕事でもミス連発するし、転ぶし、怪我するし……もう、全部嫌になっちゃって…」
気付けば足がここに向いていた。今日をこのまま終わらせたくないと、そう思ったから___
「っ、ごめんなさい、こんな話急に……えっと、今日はお客さんいないんですね?いつもならこの時間、それなりにいるのに…」
「あぁ、駅の向こう側の河原で、花火大会だったらしいぞ。今日は客入り悪いと思って早めに店閉めするつもりだったんだが……開けといて正解だったな」
カウンターテーブルに肘を置き、頬に手を当てコテンと首を傾げ、こちらを見て来る彼の視線に、今更ながらにいたたまれなさが込み上げてきた。
「その…ご迷惑をお掛けしました…」
「もっとかければいい」
「え?」
「迷惑だなんて思ってないから。頼ってくれたら、俺は嬉しいよ。だからいつでもおいで」
そんな風に言ってもらえるなんて、思ってなかった。
それは……客として、だよね?厚かましくも常連だと言えるほど通い詰めてる私だから、そのお礼?的なあれ?
勘違いしてしまいそうになる真っ直ぐな視線に耐えられなくて、私は飲みかけのカクテルを全て喉に流し込んだ。
「こ、これ、すごくおいしいです!もう一杯お願いしてもいいですか?」
「飲み口は軽いけどそこそこの度数だから、調子乗ると痛い目見るぞ?」
「痛い目ならもう十分見てます!今ぐらい羽目を外したっていいでしょう?今日はミスしたせいで中々仕事が終わらなくて、ご飯食べる時間もなかったんですから…!」
「は?」
席から立ち上がったマスターと、私の酔いが回ったのはきっと同じ時。ふらっと横に傾いた体を、マスターは片腕で支えてくれた。
「食べてないならそう言えよ……失敗した…」
「ん…あれぇ…?マスターって、こんなマッチョさんだったんですか?」
「あ、こら、何して…」
「むぅ…、私には脱げって言ったくせに、自分は脱げないっていうんですかぁ?」
逞しい彼の胸に寄りかかりながら、目の前の黒いワイシャツをゆっくりと上から脱がしていく。そこから覗いたのは、引き締まった胸元だった。
「キレー…」
ペタペタと、無遠慮に触りまくる私に、目の前の彼はされるがまま。
「……満足したかい?お嬢様。……さっきは意地悪してごめん。だからそれ以上は…」
「それ以上は…?」
顏を上げ、彼と視線を交わす。密かに眉間に皺を寄せ、何かを耐えるような、そんな表情を浮かべる彼と見つめ合う。
言葉の続きが気になって、瞬きすらも忘れてその瞳を見つめ続けた。
「……どうなっても知らないよ」
甘く、お腹に響く声が、耳元で囁かれた。
いつも”いらっしゃい”と言って迎えてくれるあの声と同じなのに、今はちっとも落ち着かない。だけどもっと聞きたいとも思ってしまう。
この感情は、なんだろう?
「……ない…」
「ん?」
「分かんないから……教えて…?」
そうお願いすれば、一瞬彼の瞳が揺らいだ気がした。
何かを考えるかのように口を閉ざした彼は、数秒の沈黙後、態勢はそのままに、私がさっきまで飲んでいたグラスに手を伸ばした。
グラスの中にはレッドチェリーだけがポツンと残されていた。最後に味わおうと、あえて取って置いたもの。好きな物は最後に食べる派だから。
果たして、それを目の前の彼が知っていたかどうかは分からないが___その実を自らの口に運んだ彼は、そのまま私に影を落としたのだった。
互いの唇が重なった。ほのかに香るアルコールの匂い。僅かに開いた唇の隙間から、さっき彼が口に含んだ柔らかい実が移される。互いの舌でその実を転がしながら、どんどんキスは深くなっていった。
「ふ…ぅ……んっ…」
レッドチェリーの果汁が、口の中に広がる。それと同時に互いの唾液が混ざり合って、クチュクチュと音を鳴らし始める。
差し込まれた熱い舌が、私の舌ごと味わうかのように動き回って、私から呼吸を奪っていった。
ギュッと目の前のシャツを握る。二人で一つの実を分け合うような、そんなキスをいつまでも繰り返した。
やがて原型を失ったその実は、二人に甘さだけを残す。
どうしてだろう。酸素が上手く吸えなくて、苦しいはずなのに、このままでいたいと思ってしまった。
もう何も考えられない。ただただ与えられるキスを受け入れるだけ。酔いが回ったのか、キスで思考がままならないのか、もう分からなかった。
「んっ……っはぁ…」
名残惜しくも離された唇。熱い吐息が零れる。
口内に残った果肉の欠片と、混ざり合った唾液をゴクンと飲み込む。
彼の瞳を覗いて見れば、熱の籠った視線で私を見ていた。
「あっ…」
額に、頬に、目尻に、いくつものキスが降り注ぐ。
そっとサイドの髪を耳に掛けられて、晒されたそこを甘噛みされる。そのまま耳の中を彼の熱い舌がねっとりと犯していった。
鼓膜にダイレクトに響く水の音が、腰の辺りに甘い痺れを呼ぶ。私は抵抗もせずに、完全に彼に身を委ねていた。
そうしてしばらくその行為を堪能した彼は、最後に熱い息を吹きかけると、私の肩に顏を埋めた。
「…分かったか?」
「ぇ……?」
「その手を離してくれないと……俺は今夜、君を抱く」
ストレートに告げられた言葉が、胸の中心にストンと落ちる。
ずっと握り締めたままだった彼のシャツ。彼の言葉に、一瞬掴む力が緩んだけれど、離そうとは思わなかった。むしろもう一度、ギュッと握り締める。
「さっき…の、本当は違うの…」
「え…?」
「明日、私誕生日で…一人でいたくなくて……ここへ来たら、あなたに会えると思って…だから…」
「顏、見せて」
クイッと、顎に添えられた指で上を向かされる。今の私は酷く赤い顏をしているだろう。
「俺に、会いに来てくれた?」
期待と熱の籠った瞳に見つめられ、どうしていいか分からなくて、握ったままのシャツにもう一度力を込めた。
それを返事だと捉えた彼は、再び私の唇を塞いだ。さっきまでの味わうようなキスではなく、今度は貪るような激しいキス。後頭部に手を回されて、離さないと言わんばかりの深い口づけに、私は彼のシャツにしがみ付いて必死に応えた。
口内で暴れ回る舌が息継ぎの暇さえも与えてはくれない。何度も何度も角度を変え、求められるままに舌を絡め合う。
そんなキスに夢中になっていると、いつの間にか彼のもう片方の手が、私の腰のラインを撫で、ゆるゆると上へ上って来た。乳房の形に添って大きな手が何往復も行ったり来たりを繰り返し、その度に腰が揺れてしまうのを止められなかった。
それを察した彼は私のスカートにしまわれていたブラウスの裾を引き出すと、手のひらをその中へと忍ばせた。
大きくて固い、骨ばった手が素肌を滑っていく。背中に到達すると、一瞬でブラのホックが外されてしまった。
胸の締め付け感から解放され、代わりに大きな手のひらがその実を包む。やわやわと揉まれ、時折固くなった中心に指が触れた。
その刺激にビクッと体を震わすと、彼はようやく唇を離してくれた。口回りは互いの唾液で濡れていたが、一滴残らず綺麗に舐め取られる。
肩で呼吸をする私とは違い、一つも息が上がっていない彼は、待ったをかける暇もなく私の胸を弄ぶ。固くなった中心を指で摘ままれると、口からあられもない声が零れた。
「あっ…!」
「腰が、揺れてる。気持ちいいんだ?可愛い」
「んっ…ぁ…っはぁ…」
「もしかして…ちょっと痛い方が良かったり、する?」
「んぁっ…!」
急に先っぽに力を込められて、体中に電気が走った。
ビクビクと体を震わす私を見て、彼はニヤリと笑った。
「ヘンタイ」
「…っ!」
そうさせた張本人は至極楽しそうに、敏感になったその場所を爪で弾いた。
「ぁっ…」
「どうしてそんなに可愛いかな…もっと、見たい」
彼はブラウスの中から手を引き抜くと、私を軽々と抱きかかえた。
ゆったりとしたソファーがある席へと移動すると、そこに私を座らせ、足を開かせた。
「あっ…やっ…!」
タイトスカートが捲り上げられ、隠れていた下着が晒される。そこを彼の指が一撫でした。
「もうこんなに濡らして…パンツ、ぐしょぐしょだな。やっぱり、さっき全部脱いだ方が良かったんじゃないか?」
そういえば、今日は色の淡い下着だった。だからよりはっきりと染みが浮かび上がっているに違いない。それを見られていると思うと、より蜜が溢れ出てくるような、そんな気がした。
丁寧に下着を下ろされ、隠れていた茂みが露わになる。足をさっきよりも大きく左右に開かされて、濡れている秘所が彼の目に晒された。覆う物を失ったそこは、空気に触れてスースーする。
「あ…見ない…で…」
「…分かった」
そう言ったはずの彼は、その場所に自らの顏を近づけた。
「あっ…だめっ…!」
熱い舌が秘所を這う。さっきまで散々私の口内と耳の中を犯していったあの同じ舌が、今度は下の口を犯していく。唾液とは比べ物にならない量の蜜が既にそこにはあって、彼の舌が暴れ回る度に卑猥な音を次々と奏でていった。
グッと膣の中に舌が挿入されると、何度も何度も中をかき回すかのように舌は動き続けた。時折彼の鼻が上に隠された芽に擦れて、私の上の口からは、上擦った甘い声が吐息と共に何度も零れた。
今まで感じたことのない何かがせり上がってくる気がした。私は彼の頭を太ももで挟むことでなんとかこの快感から逃れようと、腰をくねらせた。
しかしそれはあまり意味をなさなかったようで、彼の舌がより奥深くに到達したその時、同時に鼻の先で芽も押し潰されて、あっけなく私は達してしまった。
私の体が大きく跳ねたその瞬間、より多くの蜜が溢れ出て、ようやく舌を離した彼の顏は、私の蜜液で酷く濡れたいた。
どんな顏をすればいいのやら分からないでいると、彼はそれを気に留める様子もなく、自らのシャツを脱ぎ捨て、ついでにエプロンも外した。それをハンカチ代わりにしてべたつく顏を軽く拭き取って見せた後、今度はベルトに手を掛けた。
既に盛り上がっていたそこが締め付けから解放されて、下着の中から勢いよく姿を現す。天を仰ぐその熱情は、どこか凶器のようにも思えた。
ソファーがギシッと音を鳴らす。
「挿入れるよ…」
「あっ…そんな、おっきいの…入らないっ…」
「だめ、逃げないで。…絶対、気持ちよくさせるから」
指の間に互いの指を絡ませて、まるで恋人かのようにぎゅっと手のひらを握られて、啄むような短いキスが降って来る。
「もう…我慢できない」
子宮が、きゅうぅっと疼いた。
「あっ…ぁ、ぁあっ…!」
固い熱情の塊が、秘所の花弁を左右にかき分け、ゆっくりと押し入ってくる。舌とは比べ物にならないその太さに、下腹部が悲鳴を上げる。
「あっ…いた…ぃ…もぅ、むりぃっ…!」
「っ…ごめん、俺の方が無理」
滲む涙を拭う指は優しいのに、挿入ってくる熱情はちっとも優しくない。それは私の溢れ出た蜜をまとって、どんどん奥深くへと進んでいく。
圧迫感で今にも意識が飛びそう。けれど私の体は彼を飲み込もうとそれを離そうとはしなかった。逆にギュウギュウと締め付けて、彼の方が苦しそう。
「そんなに…美味しい…?」
「ぇ…?」
「腹…減ってるだろ?すぐに満たしてやるから…」
ナニを、とは言わなかった。
聞くより先に、彼の先が私の最奥に到達してしまった。
「あっあぁぁっ!」
体が弓なりに跳ねた。
最後はズンッとひと思いに挿入って来た彼。怖くなって目の前の逞しい体にしがみ付く。
「っ…はっ…ぁ……むりって、言ったのにぃ…」
「ごめんって…でも、全部挿入ったよ。頑張ったな」
頭をよしよしと撫でられる。彼を受け入れた状態で子供のような扱いをされることに、なんとも言えない感情が沸き上がる。
「ここに…」
「…?」
「ここに、俺のをたっぷり注いで、腹いっぱいにしてやるから」
ちょうど彼で満たされているお臍の下辺りを撫でられて、カァッと顏が熱くなった。
彼は笑みを浮かべ、私の耳元で囁く。
「動くよ」
その言葉が、合図だった。
彼の熱情が激しく前後に揺さぶられて、何度も何度も膣の中を擦られる。その度にグチュグチュと鳴る蜜の音が、その行為の激しさを物語る。
腰を振る彼に、逃げそうになる私。だけどそれを許さないと彼は私の腰を掴み強引に引き寄せる。何度も何度もぶつかり合う音が室内に響いた。
気付けば着ていたブラウスのボタンはどこかへ行ってしまったようで、前ははだけ、ブラは鎖骨辺りにまでずれ、彼の目の前で露わになった二つの実は、その律動に合わせプルプルと揺れていた。
ふいに赤く熟れた片方の中心に舌を這わせた彼は、じゅるじゅるじゅるっとその実を吸い尽くす。下の動きも休まることなく動き続けるものだから、ひと際大きな声が出てしまうのは、もうどうしようもなかった。
「そんなっ…吸わない…でぇ…!」
「感じちゃうから?……あぁ、痛い方が好きなんだったな」
「あっ、ちがっ…ぁんっ!」
痛いくらいに噛まれて、目の前がチカチカとする。離れる際に同じ場所にチュッとキスを落としていくものだから、堪らず声が漏れた。
「…こっちはどう?」
彼の指が繋がった場所のすぐ上、小さく主張するその芽を刺激する。
「ぷっくり膨れてて…ここも可愛い。もっと可愛がってやろうか」
そう言って、そこを重点的に攻めて来た。摘まんでクリクリと擦ってみては、軽く引っ張って、かと思えば今度はギュウッと押し潰される。
「んぁぁっ、ゃ、あっ…そこっ…」
「あぁ…そんなに感じちゃって…やっぱりヘンタイ、だな」
「ぁぁっ…や、だぁっ……もぅ…っ!」
「そうだな、一緒にイこうか」
その刺激を止めて欲しかっただけ。だけどそれをいい方に解釈した彼は、私を更に快楽の高みへと誘う。
腰の動きを速め、摘まんだ芽を捻り上げ、さっきとは逆の乳首を噛み潰す。
快楽の波に、溺れそうだった。
「ぁ、あっ、ぜんぶっ、いっぺんにっ、ゃっ、だ、だめぇぇぇっ!!」
「くっ…!」
絶頂を迎えたのと中にドプッと熱い何かが吐き出されたのはほぼ同時。それが彼の精液だと、すぐに分かった。
頭がぼーっとする。肩で呼吸をする。
今回はさすがに汗を流す目の前の彼は、髪をかき上げふぅ…っと息を溢す。その姿は色気の暴力と言っても過言ではなく、本当にこんな素敵な男性と事を致してしまったのだと、酔いが醒めてきてなんだか恥ずかしさが込み上げて来た。
なんであんな大胆なことが言えたんだ私…。
自分を褒めるべきか叱るべきか、頭を悩ませていると、彼の熱情が私の中でその固さを取り戻していることに気付く。
「え…なん……」
「まさか、終わりだなんて言わないよな?」
グッと顏を近づけられて、ドキッとする。その瞳は変わらず熱を孕んでいた。
「言っただろ?腹いっぱいにしてやるって」
グイッと腕を引っ張られ、今度は彼がソファーに座り、その上に跨ぐ形で座らされる。もちろん繋がったままで、だ。
「あっ…やっ…!」
「ほら、まだ足りないだろ?」
「そんな、ことっ…もぅ、お腹いっぱい、だからぁ!」
「ふっ…遠慮するなよ、好きなだけ、食え」
底なしの体力に、めまいがした。
再び揺さぶられる腔内。もう私の体力は残っていないはずなのに、膣の方はまだ余力があったようで、逃げようにも私自身が彼の熱情を離そうとはしなかった。
何度も上下運動を繰り返し、幾度もなくキスを繰り返す。
時折痛いほどの刺激を受けて、彼の精液をこれでもかというほど子宮の奥に流し込んだ。
お腹が膨れたんじゃないかと錯覚し始めた頃、私のお腹を撫でて満足そうな表情を浮かべる彼とキスを交わしたのを最後に、私の意識は途切れたのであった。
* * *
目が覚めると、そこは知らない場所だった。
六畳ほどの一室に置かれたソファベッドの上。見慣れた黒のYシャツを着て、タオルケット一枚が体に被せられていた。
下腹部に残る鈍い痛みに昨夜の記憶を思い出す。赤くなる顏を止められず、その場で蹲っていると、部屋の扉がゆっくりと開かれた。
「お、起きたんだな」
「あ…」
マスターだった。その手には軽食を乗せたトレーを持っていた。
「飯、食えそうか?」
「は、はい…」
なんだかいつもと変わらない雰囲気のマスターに、どんな顏を向ければいいのか分からなかった。自分の格好と節々の痛みから、昨夜の出来事が決して夢ではなかったと、それだけは分かるのだけれど。
もしかして、マスターはなかったことにしたいのかな…?
一応、店主と客の関係だものね、いくら私が誘惑…したからと言って、越えてはならない一線を越えてしまったわけで。
憐れに思った私をマスターは慰めてくれただけ。ただ、それだけ。
……なんでこんな気持ちになるの、私。
「…食べないのか?」
「え?あっ…」
「さすがに空腹だろう、と思ったんだがな。……腹いっぱいか?」
私の横に座ってしたり顏を見せるマスター。下腹部が疼いた。
「あ…や…えっと…その…」
「誕生日おめでとう」
ふっと笑ったマスター。その笑みはさっきまでの意地悪なものではなく、でも決してただの客に見せるような笑みでもなかった。
「昨日、言いそびれたからな」
「あ……ありがとう、ございます…」
「いくつになったんだ?」
「え?それ、聞きます…?……二十五です」
「へぇ、じゃあ俺と一回り違うんだな」
さらっと年齢公表されたけど…一回りって……三十七歳!?え!?三十七であの絶倫並みの精力なの!?
「今、何考えてるか当ててやろうか」
「へ!?」
「ものすごーくエロい顏してる」
「!?」
高速で自分の両頬に手を当てる。そんな私を見て、彼はクスクスと笑い出した。
「クッククッ…」
「……からかってます?」
「あながち間違いでもねぇだろ?」
なにも言い返せないのが辛い。もう黙って食べることにする。
用意してもらったサンドイッチに手を伸ばした。
「いただきます。………ん、美味しいっ!お酒だけじゃなくて、料理も上手なんですね、マスター…」
ふいに、口元を親指で拭われた。ソースでもついていたのか、そのままその指をペロッと自らの舌で舐めた彼。
「今はマスターじゃねぇよ」
「え…?」
胸が高鳴る。
彼を見つめる。
それは、営業時間外だから?それとも___
「ほら、呼んでごらん?」
朝日が射す時間帯。初めて見る夜以外の彼。
とびっきり甘い声で、”マスター”じゃない彼は、本当の彼を私に見せてくれるのだった___
ロブ・ロイ___カクテル言葉『あなたの心を奪いたい』
___これは、紳士でちょっと意地悪な、マスターの本音を知った話。
end.
イラスト:邪十
20
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