【証拠はいらない】見ていただけ

Wataru

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【証拠はいらない】見ていただけ

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 夜の路地裏で、声が跳ねた。

「いいから出せって」
「持ってんだろ」

 学生服。
 三人と、一人。

 逃げ道は、塞がれていた。

 俺は少し離れた自販機の前で、缶コーヒーを選ぶふりをした。
 近づかない。
 急がない。

 ――殴る距離じゃない。

「……マジでないって」

 取られる側の声は、震えていた。
 怒鳴らない。
 泣かない。
 ただ、必死に立っている。

 その横顔を見て、分かった。

 もう、かなり耐えてる。

 俺は、缶を取り出してから言った。

「こんばんは」

 三人が一斉に振り向く。

「は?」

 一番前の男が、睨んでくる。

「何だよ、おっさん」

「楽しそうなことやってるから、見に来た」

「関係ねぇだろ」

「そうそう。関係ない」
「だから、続けて」

 沈黙。

「……チッ」

 前の男が舌打ちした。

「行こうぜ」

 仲間が戸惑う。

「え、いいのかよ」

「いいから」

 三人は、ぞろぞろと去っていった。
 振り返らずに。

 路地裏に、二人だけが残る。

 俺は、近づかないまま言った。

「怖かったな」

 学生は、何も言わなかった。
 でも、肩がわずかに落ちた。

「よく耐えた」

 それだけ言って、背を向ける。

「……ありがとうございました」

「礼はいらない」

 俺は歩き出す。

「君のせいじゃない」

 それだけ置いて、路地を抜けた。



 少し先で、相棒が待っていた。

「やるじゃん」

「何もしてないよ。見てただけだ」

 夜風が、少し冷たい。

「殴らなくても」
「人は、立てる」

 相棒は、何も言わなかった。

 路地裏には、もう誰もいない。

 それでいい。

 証拠はいらない。
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