心の隙間に入り込むホラー短編集

Wataru

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この部屋、鍵が増えるらしい

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 引っ越して一週間。

 ワンルームの古いアパートだが、駅から近く、家賃も安い。特に不満はなかった。

 違和感に気づいたのは、その夜だった。

 仕事から帰り、いつも通り玄関のドアを開ける。

 鍵を閉め、靴を脱ぎ、部屋に上がろうとして――ふと、ドアの内側を見る。

「……あれ?」

 鍵が、増えている。

 もともと、このドアには内側から閉める鍵が一つしか付いていなかったはずだ。

 だが今、チェーンロックの下に、見覚えのない簡易ロックが付いている。

 後付けのような、小さな銀色の鍵。

(……最初からあったか?)

 いや、こんなものがあれば気づくはずだ。

 引っ越し初日、何度も鍵を確認した。

 防犯は気になる性格だ。

 それなのに。

 そこには確かに、もう一つ鍵がある。

 触ってみる。

 冷たい。

 そして――普通に使える。

 嫌な汗が背中を伝った。

 翌日、管理会社に連絡した。

 午後、管理人が部屋を確認しに来る。

「ここです」

 玄関を開け、問題のドアを指さす。

 だが。

「……どれです?」

 管理人が不思議そうな顔をする。

「だから、この鍵――」

 言いながら、ドアを見る。

 そこには、

 元からあった鍵しかなかった。

 増えていたはずのロックは、消えている。

 何事もなかったかのように。

 管理人は笑った。

「気のせいじゃないですか?」

「でも昨日、確かに……」

 言いかけて、言葉が止まる。

 証拠がない。

 写真も撮っていない。

「この部屋、前の住人も似たこと言ってましたよ」

 管理人が、何気なく言った。

「鍵が増えるって」

 ぞくり、とした。

「……どういう意味です?」

「いやぁ、分かんないですけど」

 管理人は肩をすくめる。

「気味悪がって、すぐ出ていきましたね」

 確認が終わり、管理人は帰っていった。

 部屋に一人残る。

 静かだ。

 気のせいだったのかもしれない。

 疲れていただけだ。

 そう思うことにした。

 その夜。

 ベッドに入り、眠りに落ちかけたころ。

 玄関の方から音がした。

 カチャ。

 金属が回る音。

 ゆっくり。

 確かに。

 内側から、鍵が回る音だった。
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