心の隙間に入り込むホラー短編集

Wataru

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昨日、確かに電話したはずなのに

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仕事の引き継ぎで、昨日の夜、同僚の佐藤に電話した。

終業後だったが、急ぎの確認があった。

「もしもし、佐藤?」

『はい』

いつも通りの声だった。

「明日の案件だけど、資料って共有フォルダに入ってる?」

『あー、まだ。今から入れときます』

「助かる」

『他は?』

「いや、大丈夫」

『了解です』

通話は二分もなかった。

だから、間違いない。

確かに電話した。



翌日。

出社してすぐ、佐藤に声をかける。

「昨日ありがと。資料助かった」

佐藤は首をかしげた。

「何の話?」

「電話しただろ?」

「え?」

本気で分からない顔をする。

「昨日、電話なんてしてないよ」

笑っている様子もない。

「いや、したって」

スマホを出す。

「ほら、履歴……」

言葉が止まる。

昨日の夜の通話履歴だけ、綺麗に空いている。



「でも資料は?」

共有フォルダを開く。

資料は確かにある。

更新時間は昨日の夜。

作成者名を見る。

 

自分の名前だった。

 

「……え?」

覚えがない。

昨日は帰宅してから、パソコンなんて開いていない。



気味が悪くなり、その日は早めに帰った。

家に着き、鍵を開ける。

部屋に入る。

電気をつける。

机の上に、ノートパソコンが開いたままだった。

昨日使った記憶はない。

画面には、会社の共有フォルダ。

資料作成履歴。

更新時間。

昨日の夜。

操作ユーザー。

 

自分。

 

背中が冷たくなる。

その瞬間。

スマホが鳴った。

着信表示。

 

佐藤。

 

震える手で通話に出る。

「……もしもし」

数秒、沈黙。

そして佐藤の声。

 

『昨日、電話くれたよね?』

 

全身の血の気が引く。

 

『でもさ』

 

少し間があって、続く。

 

『お前、昨日休みだったよな?』

 

言葉が出ない。

そのまま固まっていると、佐藤が何気ない調子で言った。

 

『……あれ?』

 

 

『今、お前んちの前にいるんだけど』

 

 

その瞬間。

 

玄関のドアノブが、

ゆっくり回った。
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