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第二章 ダンテと離婚希望の君2
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彼女は、すぐに私のすぐ目前までやってきた。胸の前で両手を組み、小さくぴょんぴょんと跳ねる。
「やっぱりぃ! 先日、広場の不埒者を、魔道で吹っ飛ばしていた方ですよね!」
「うっ! なぜそれを……!」
「だって、空気中の魔素が収束していく先を見たら、あなたがいたんですもの」
そうなのだ。
魔素の動きは常人には見えないけれど、ある程度熟達した魔法使いなら、色のついた水が流れるのが見えるように、魔素の流れを目で追える。
それが術士の手でどう構成され、どう錬成され、どう発動するのかも見える。中には、特別訓練しなくても生まれつき見える人や、カンでなんとなくとらえられる人もいるらしいけれど、それらはかなりの特例だ。
つまり、この人は結構やり手の魔法使いってことなんだろう。
「凄かったですぅ、もう、魔力の流れが整然として、迅速で、高精度で……あんなの、見たことありません! 炎を飛ばすんじゃなくて、対象の足元に錬成した魔素を到着させてから発動させることで、いきなり足元を爆破するんですねぇ! あれじゃ、防ぐのは難しいですよねぇ……!」
おお、見られている。めっちゃ解読されている。
本当にできる人っぽいな。ただ、初見でそこまで看破されると、ちょっと背筋が冷えるけど。
「申し遅れましたぁ、あたし、ブリーズといいますっ。ブリーズ・ブラッサムですぅ」
銀髪の女性は、そう名乗った。
表情が豊かなので幼い印象もあるけれど、多分私と似たような年齢っぽい。
「どうも、……私は、ルリエルです。ルリエル・エルトロンド。初めまして」
「はい、初めましてっ。……え? ルリエル……?」
彼女は、小さく小首をかしげた。
「あ、そうだブリーズ。あなたが見ていたあの子、知り合い?」
「そういうわけじゃないんですけどぉ……。なにか、様子が変だなと思って。でもあたし、用事があって、もう行かなくちゃいけないものですから……」
確かに。
ヴァルジはそれなりに治安はいいけど、あんな年恰好の女の子が一人で心細げにしていたら、悪い輩が寄って来かねない。
私はコーヒー代をアーシェさんに払うと、ブリーズには、こっちは任せて用事とやらに行くように言って、別れた。
女の子に近づいてみた。ベルリ大陸ではたいてい、日本人よりも年齢ごとの平均身長が高いけど、この子はそれを勘定に入れてみても十三四歳くらいの子供に見える。
「あのー、あなた、なにか困ってるの?」と声をかけてみた。
すると、女の子はびくりと肩を上げてから、おそるおそる私のほうを振り向いてくる。
やっぱり、その眼には涙が溜まっていた。
「あ、あたし?」
「うん。もし、なにか手助けできるならと思って。……なにしてるの、お酒屋さんの前で?」
「なに……してるんでしょう、あたし……? お姉さんに、なにをしてもらったらいいんだろう……?」
少女は、余計に混乱を深めていた。
いきなり声をかけて、驚かせちゃったかな。ちょっとアプローチが直接的過ぎたかもしれないと、私は少し反省した。
けれど。
「あ、あたし、……お母さんのお金で、お母さんもあたしも飲まない、お酒を買ってる……あたし、なにしてるんでしょう……?」
■
十五分ほど後。
ヴァルジの中央通りにある、カフェを併設したベーカリーで、私とその女の子――セレラは、一緒にソーダを飲んでいた。
ここにはパンや小麦粉の買い出しによく来るのでハルピュイア御用達で、私が趣味で買うパンやケーキも経費で落としていたりする。まあ、最終的に私の財産から出していることになるので、意味があるのかどうかはよく分からないけど。
未成年の子を連れまわすのはどうかと思ったけど、あの場であれ以上の騒ぎになるのもよくなかろうというのと、近くに親もいないようだったので、やむを得ず。
……ただ、その親のほうにそれなりに問題がありそうだな、という気もした。
それにしても、互いに簡単に自己紹介してから落ち着いてよくよく見てみると、セレラはなかなかかわいい子だ。
ハニーブロンドの髪を背中まで伸ばしていて、目がくりっとして愛嬌がある。着ている服はレモンイエローの長袖ボーダーシャツに、足首までのオレンジのロングスカートで、シンプルながら快活な女の子然としていた。
それだけに、どうもびくびくとなにかに怯えている様子なのが痛々しい。
「つまり、セレラはお使いに来てたんだ?」
「は、はい。お父さんがよくお酒を飲むので……でもそのせいで、うちにはお金がなくって……お母さんは私には服を買ってくれるんですけど、自分はお化粧もあんまりできないんです」
うーん。
よく聞く話だけど、あんまりよくあって欲しくはないパターンだ。
「んー……セレラのお父さんは、お仕事とかは、あまりしてない感じ?」
「お仕事、あんまり……というか全然言ってないと思います。去年、お母さんと結婚してから、ずっとうちにいてお酒ばかり飲んでるし……。お母さん、もともとお仕事してたんですけど、今度の結婚してからもっとお仕事入れなくちゃいけなくなって、大変で……」
「あ、お母さん再婚なんだ?」
「はい。あたしも、お母さんが好きになった人なら、新しいお父さんになってもいいと思ったんですけど、……でも……」
セレラがグラスを持つ手が震える。
「お母さん、幸せそうに、見えません……本当は、お父さんお給料の高いお仕事してるはずだったのに、実はしてないって……嘘つかれたって、言ってましたし……。あたしがお父さんの言うこと聞かなかったりすると、お母さんが怒られるのが凄くつらくて……できるんだったら、またお母さんと二人で暮らしたい……」
おお。
おお、なんたるくず男。
「あ、で、でも、あたし、お給料のいいお父さんが欲しかったわけじゃないんです。そりゃ、お金持ちになれたらうれしいなって思います。欲しいもの、あたしたくさんあるし……でも、お母さんと結婚するなら、お母さんに嘘つかないで、好き合ってる人がいい、……です」
くっ。なんだこの子。いい子だな。
こんな子に、仕事もしないでぐーたらしてる(と思われる)くず男が、妻の稼ぎでお酒買って来させて、仕事もしないでぐーたらしてるのか……と思うと、こめかみの辺りがぴきぴきと引きつった。
「ちなみに、セレラは、お母さんとは仲いいの?」
すると、それまで曇っていた少女の顔がぱあっと輝いた。
「お母さんのことは、大好きです! 子供が大きくなると、親と仲悪くなったり、けんかしてばらばらになっちゃうことも多いっていうのは、知ってます。でもあたしは、お母さんとはずっと仲良しでいたいんです!」
う、うわああああ、かわいい。
なんて笑顔で笑うんだろう、この子。
そっか、お母さんが大好きなだけに、そのお母さんのことを思うと、くず親父(予想)にも色々と気を遣っちゃうわけか。
どうにかならないかな、と思ってベーカリーの窓から外を見ると、そこに唐突に、知った顔を見つけた。
「ダンテ!」
「お、ルリエル。このベーカリーに買い出しに来る当番は、今日はおれだったはずだが。なにか買い物か? ……誰だその女の子?」
私は、ダンテが身内であることをセレラに告げて――さすがに仕事のことは伏せつつも――、セレラの了解をもらってから、簡単にダンテに事情を説明した。
ダンテも同じテーブルについて、ソーダを頼んだ。「なんだか懐かしいな」と言いながら喉を鳴らすダンテに、セレラが、ちょっと見とれている。
うんうん、分かるよ、至近距離のいい男は心の栄養だよね。
「とりあえずセレラ、ちゃん。今この時間がお使いの予定時間外なんだったら、少なくともお母さんには連絡を入れたほうがいいんじゃないか?」
「あ、はい、そ、そうします」
このぎこちない「ちゃん」のつけ方、ダンテは、この年頃の女の子にあまり慣れていないな。
私はベーカリーのマスターに鳥の書筒便をお願いして、セレラのお母さんの仕事先に飛ばしてもらった。自宅にいるはずの父親宛ではないほうがいいだろう。
やがて、返信が返ってきた。
今日は早めに上がるので、あと一時間もすれば迎えに来るから、今いるベーカリーから動かないようにとのことだった。
「じゃ、私とダンテは、ちょっと離れたところにいるとしよーか」
「だな」
「えっ? どうしてですか?」
私は自分とダンテを交互に手のひらで示し、
「だって、こんなローブ着た魔道士丸出しのやつと、筋肉太郎と。お母さんから見たら不審者にしか見えない二人が、かわいい娘と一緒にいたら怖いでしょ」
「筋肉太郎……」
ダンテがなにやら呟いたけど、まああまり気にしないでおこう。
「そ、そんなことありませんっ! 私、お母さん以外の人と、お店でソーダなんて飲んだの、初めてです。こんな、こんな感じなんだなって……なんだか、変な言い方ですけど、楽しくて……ルリエルさん、ずっと優しくしてくれましたし、ダンテさんだって。そんなに大きいのに、全然怖くありませんし」
「ふっ、そうだろう。頑健な肉体というのは、なにかを守るためのものであって、傷つけるものではないからな。おれの体は、それを雄弁に物語っているということだ」
「それはよく分からないですけど、怖くないのは本当です。今のお父さんなんて、……体は別に大きくないのに、……怖いです」
セレラが、二の腕をさするようにして、自分の体をそろそろと抱いた。
ダンテの目の中にも、ちらりと、怒りの炎が燃えるのが見えた。
彼も直感している。セレラの父親は、単に態度や命令などだけではなく、もっと直接的にセレラを傷つけている。この天気のいい日に、足首までのスカートや長袖のシャツでいるのは、不自然だった。もっとも、ここでそんなことには触れられないけど。
ハルピュイアに住んでいるメンバーは、私も含めて性格も考え方もそれは全然違ったりするけれど、こういうところの感じ方はとても似ている。だから、一緒にいられるんだろうと思う。
「セレラ、そう言ってくれるのは、私たちはすっごく嬉しいよ。でもね、言いたくないけど、こんなことは、悪い大人もよくすることではあるんだ。セレラみたいに、お母さんのことを一生懸命に考えてあげる子の気持ちにつけ込んで、子供を傷つけたり、時には誘拐したりする。世の中、そういうことがあるのは、あなたのお母さんも知ってる。だからお母さんのためにも、私たちはちょっとだけ離れたところにいたほうがいいんだ。大丈夫、お母さんが来るまでは、ベーカリーの中にいるから」
セレラは、唇を引き結びながら、こくりとうなずいた。
私たちはにっこりと笑顔を見せて、壁際の別の席まで移動する。
「やっぱりぃ! 先日、広場の不埒者を、魔道で吹っ飛ばしていた方ですよね!」
「うっ! なぜそれを……!」
「だって、空気中の魔素が収束していく先を見たら、あなたがいたんですもの」
そうなのだ。
魔素の動きは常人には見えないけれど、ある程度熟達した魔法使いなら、色のついた水が流れるのが見えるように、魔素の流れを目で追える。
それが術士の手でどう構成され、どう錬成され、どう発動するのかも見える。中には、特別訓練しなくても生まれつき見える人や、カンでなんとなくとらえられる人もいるらしいけれど、それらはかなりの特例だ。
つまり、この人は結構やり手の魔法使いってことなんだろう。
「凄かったですぅ、もう、魔力の流れが整然として、迅速で、高精度で……あんなの、見たことありません! 炎を飛ばすんじゃなくて、対象の足元に錬成した魔素を到着させてから発動させることで、いきなり足元を爆破するんですねぇ! あれじゃ、防ぐのは難しいですよねぇ……!」
おお、見られている。めっちゃ解読されている。
本当にできる人っぽいな。ただ、初見でそこまで看破されると、ちょっと背筋が冷えるけど。
「申し遅れましたぁ、あたし、ブリーズといいますっ。ブリーズ・ブラッサムですぅ」
銀髪の女性は、そう名乗った。
表情が豊かなので幼い印象もあるけれど、多分私と似たような年齢っぽい。
「どうも、……私は、ルリエルです。ルリエル・エルトロンド。初めまして」
「はい、初めましてっ。……え? ルリエル……?」
彼女は、小さく小首をかしげた。
「あ、そうだブリーズ。あなたが見ていたあの子、知り合い?」
「そういうわけじゃないんですけどぉ……。なにか、様子が変だなと思って。でもあたし、用事があって、もう行かなくちゃいけないものですから……」
確かに。
ヴァルジはそれなりに治安はいいけど、あんな年恰好の女の子が一人で心細げにしていたら、悪い輩が寄って来かねない。
私はコーヒー代をアーシェさんに払うと、ブリーズには、こっちは任せて用事とやらに行くように言って、別れた。
女の子に近づいてみた。ベルリ大陸ではたいてい、日本人よりも年齢ごとの平均身長が高いけど、この子はそれを勘定に入れてみても十三四歳くらいの子供に見える。
「あのー、あなた、なにか困ってるの?」と声をかけてみた。
すると、女の子はびくりと肩を上げてから、おそるおそる私のほうを振り向いてくる。
やっぱり、その眼には涙が溜まっていた。
「あ、あたし?」
「うん。もし、なにか手助けできるならと思って。……なにしてるの、お酒屋さんの前で?」
「なに……してるんでしょう、あたし……? お姉さんに、なにをしてもらったらいいんだろう……?」
少女は、余計に混乱を深めていた。
いきなり声をかけて、驚かせちゃったかな。ちょっとアプローチが直接的過ぎたかもしれないと、私は少し反省した。
けれど。
「あ、あたし、……お母さんのお金で、お母さんもあたしも飲まない、お酒を買ってる……あたし、なにしてるんでしょう……?」
■
十五分ほど後。
ヴァルジの中央通りにある、カフェを併設したベーカリーで、私とその女の子――セレラは、一緒にソーダを飲んでいた。
ここにはパンや小麦粉の買い出しによく来るのでハルピュイア御用達で、私が趣味で買うパンやケーキも経費で落としていたりする。まあ、最終的に私の財産から出していることになるので、意味があるのかどうかはよく分からないけど。
未成年の子を連れまわすのはどうかと思ったけど、あの場であれ以上の騒ぎになるのもよくなかろうというのと、近くに親もいないようだったので、やむを得ず。
……ただ、その親のほうにそれなりに問題がありそうだな、という気もした。
それにしても、互いに簡単に自己紹介してから落ち着いてよくよく見てみると、セレラはなかなかかわいい子だ。
ハニーブロンドの髪を背中まで伸ばしていて、目がくりっとして愛嬌がある。着ている服はレモンイエローの長袖ボーダーシャツに、足首までのオレンジのロングスカートで、シンプルながら快活な女の子然としていた。
それだけに、どうもびくびくとなにかに怯えている様子なのが痛々しい。
「つまり、セレラはお使いに来てたんだ?」
「は、はい。お父さんがよくお酒を飲むので……でもそのせいで、うちにはお金がなくって……お母さんは私には服を買ってくれるんですけど、自分はお化粧もあんまりできないんです」
うーん。
よく聞く話だけど、あんまりよくあって欲しくはないパターンだ。
「んー……セレラのお父さんは、お仕事とかは、あまりしてない感じ?」
「お仕事、あんまり……というか全然言ってないと思います。去年、お母さんと結婚してから、ずっとうちにいてお酒ばかり飲んでるし……。お母さん、もともとお仕事してたんですけど、今度の結婚してからもっとお仕事入れなくちゃいけなくなって、大変で……」
「あ、お母さん再婚なんだ?」
「はい。あたしも、お母さんが好きになった人なら、新しいお父さんになってもいいと思ったんですけど、……でも……」
セレラがグラスを持つ手が震える。
「お母さん、幸せそうに、見えません……本当は、お父さんお給料の高いお仕事してるはずだったのに、実はしてないって……嘘つかれたって、言ってましたし……。あたしがお父さんの言うこと聞かなかったりすると、お母さんが怒られるのが凄くつらくて……できるんだったら、またお母さんと二人で暮らしたい……」
おお。
おお、なんたるくず男。
「あ、で、でも、あたし、お給料のいいお父さんが欲しかったわけじゃないんです。そりゃ、お金持ちになれたらうれしいなって思います。欲しいもの、あたしたくさんあるし……でも、お母さんと結婚するなら、お母さんに嘘つかないで、好き合ってる人がいい、……です」
くっ。なんだこの子。いい子だな。
こんな子に、仕事もしないでぐーたらしてる(と思われる)くず男が、妻の稼ぎでお酒買って来させて、仕事もしないでぐーたらしてるのか……と思うと、こめかみの辺りがぴきぴきと引きつった。
「ちなみに、セレラは、お母さんとは仲いいの?」
すると、それまで曇っていた少女の顔がぱあっと輝いた。
「お母さんのことは、大好きです! 子供が大きくなると、親と仲悪くなったり、けんかしてばらばらになっちゃうことも多いっていうのは、知ってます。でもあたしは、お母さんとはずっと仲良しでいたいんです!」
う、うわああああ、かわいい。
なんて笑顔で笑うんだろう、この子。
そっか、お母さんが大好きなだけに、そのお母さんのことを思うと、くず親父(予想)にも色々と気を遣っちゃうわけか。
どうにかならないかな、と思ってベーカリーの窓から外を見ると、そこに唐突に、知った顔を見つけた。
「ダンテ!」
「お、ルリエル。このベーカリーに買い出しに来る当番は、今日はおれだったはずだが。なにか買い物か? ……誰だその女の子?」
私は、ダンテが身内であることをセレラに告げて――さすがに仕事のことは伏せつつも――、セレラの了解をもらってから、簡単にダンテに事情を説明した。
ダンテも同じテーブルについて、ソーダを頼んだ。「なんだか懐かしいな」と言いながら喉を鳴らすダンテに、セレラが、ちょっと見とれている。
うんうん、分かるよ、至近距離のいい男は心の栄養だよね。
「とりあえずセレラ、ちゃん。今この時間がお使いの予定時間外なんだったら、少なくともお母さんには連絡を入れたほうがいいんじゃないか?」
「あ、はい、そ、そうします」
このぎこちない「ちゃん」のつけ方、ダンテは、この年頃の女の子にあまり慣れていないな。
私はベーカリーのマスターに鳥の書筒便をお願いして、セレラのお母さんの仕事先に飛ばしてもらった。自宅にいるはずの父親宛ではないほうがいいだろう。
やがて、返信が返ってきた。
今日は早めに上がるので、あと一時間もすれば迎えに来るから、今いるベーカリーから動かないようにとのことだった。
「じゃ、私とダンテは、ちょっと離れたところにいるとしよーか」
「だな」
「えっ? どうしてですか?」
私は自分とダンテを交互に手のひらで示し、
「だって、こんなローブ着た魔道士丸出しのやつと、筋肉太郎と。お母さんから見たら不審者にしか見えない二人が、かわいい娘と一緒にいたら怖いでしょ」
「筋肉太郎……」
ダンテがなにやら呟いたけど、まああまり気にしないでおこう。
「そ、そんなことありませんっ! 私、お母さん以外の人と、お店でソーダなんて飲んだの、初めてです。こんな、こんな感じなんだなって……なんだか、変な言い方ですけど、楽しくて……ルリエルさん、ずっと優しくしてくれましたし、ダンテさんだって。そんなに大きいのに、全然怖くありませんし」
「ふっ、そうだろう。頑健な肉体というのは、なにかを守るためのものであって、傷つけるものではないからな。おれの体は、それを雄弁に物語っているということだ」
「それはよく分からないですけど、怖くないのは本当です。今のお父さんなんて、……体は別に大きくないのに、……怖いです」
セレラが、二の腕をさするようにして、自分の体をそろそろと抱いた。
ダンテの目の中にも、ちらりと、怒りの炎が燃えるのが見えた。
彼も直感している。セレラの父親は、単に態度や命令などだけではなく、もっと直接的にセレラを傷つけている。この天気のいい日に、足首までのスカートや長袖のシャツでいるのは、不自然だった。もっとも、ここでそんなことには触れられないけど。
ハルピュイアに住んでいるメンバーは、私も含めて性格も考え方もそれは全然違ったりするけれど、こういうところの感じ方はとても似ている。だから、一緒にいられるんだろうと思う。
「セレラ、そう言ってくれるのは、私たちはすっごく嬉しいよ。でもね、言いたくないけど、こんなことは、悪い大人もよくすることではあるんだ。セレラみたいに、お母さんのことを一生懸命に考えてあげる子の気持ちにつけ込んで、子供を傷つけたり、時には誘拐したりする。世の中、そういうことがあるのは、あなたのお母さんも知ってる。だからお母さんのためにも、私たちはちょっとだけ離れたところにいたほうがいいんだ。大丈夫、お母さんが来るまでは、ベーカリーの中にいるから」
セレラは、唇を引き結びながら、こくりとうなずいた。
私たちはにっこりと笑顔を見せて、壁際の別の席まで移動する。
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