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第三章 リシュとザンヴァルザン妃王の君13
しおりを挟むそんな話をしていたら。
リシュが、あ、と声を上げた。
「どうしたの?」
「火が、消えそうだ」
そう言われて、私たちも炎を――蛇を見る。
制御を手放さない限り、対象を燃やし尽くすまで消えない彼岸の炎が、熾火のようになって、消えた。
後には、灰だけが残っている。
キールが、ぽつりと、
「……倒し、ましたね。本当に。ルリエルが……」
ダンテも、
「……ああ。悪魔を。倒した。人間……が。信じられん……」
リシュは、蛇の灰の上にかがみ込んだ。
「有史以来存在し続けた、残り六体の悪魔……そのうち、二体を……ルリエルが」
そして、三人同時に私の手を取り、
「倒したあああああ!」
地表の光源は、今さっきの、明り取りの灯だけが残っている。
空には月が出ていた。それに、星も。無数に。
段々と、暗闇に目が慣れてきて、お互いの顔がよく見えた。
キールが、腰に下げた袋から、なにかを取り出しながら言う。
「魔力の動きや炎が見えなくなったら、迎えに来るように、トリスタンに言ってあります。様子がおかしければ、逃げるようにとも言ってありますが。ともあれ、もう少ししたら魔法師団がやってくるでしょう。ルリエル、もう一つ火を出してもらえますか」
「いいけど。なにするの?」
「祝杯をあげましょう」
「え。お酒!?」
キールが手に取ったのは、ガラスのボトルと、銅製のカップが五つだった。
「いえ、コーヒーです。トリスタンが、本当は明日の朝飲むために、水出しで入れていてくれました。ダンテ、申し訳ありませんが、紅茶がなくて」
「はっ。いいって。砂糖あるか?」
「ありますとも」
「あ、おれも砂糖欲しい」とリシュ。
私も、今日は珍しく砂糖を入れることにした。体もだけど、もっと根本的な、魂の疲れのようなものを感じて、糖分が欲しかった。
コーヒーを移し入れたカップを、焼け残っていた石くれを組んだ小さなかまどに乗せ、火加減に気をつけながら温める。
その周りに、みんなで座った。
五等分したために、一人分のコーヒーは、カップに半分もなかった。
リシュだけは、不思議に思ったようで、
「なあ、なんで五人分なんだ?」
と訊いてきた。
キールが、
「挨拶が済んだら、一杯分は、四人で分けましょう」
と微笑んで、温まったコーヒーを配る。
リシュはなおさら不思議がって、「なんでわざわざ?」と首をひねる。
四人で一つずつカップを持ち、残った一つは石で組んだ小さな台に置いて、私が言った。
「献杯」
それで伝わったと思う。
これは、今夜、この瞬間に交わす必要のある献杯だ。
苦くて甘い、暖かい液体を、体の中に入れる。
きっとこれは、なにか、魔法のかかった飲み物なのだろう。
だって、目の前の銀髪の少年が、音もなく泣いて、……彼が失くしたものへの愛おしさを、彼を通してほんの少しだけは分かち合えたような、そんな気持ちが、夜の中に満ちていたから。
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