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初陣 赤炎郎との闘い2
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■
第二隊もまた、追っ手を森の中へ引きこんでいた。
こちらは道がないところを誘い込んだので、敵も味方も、数も配置も、互いに容易に目で追えない。
逃げていた犬妖五人が、ついに振り返り、矢をつがえた。
それを木立の間から見て取った追っ手二十匹は、一応防御の体制をとる。
矢はつがえてから撃つまでに隙ができる。一度撃たせ、それを外したなら、もはや数で勝る追っ手たちの優位は決まる。
二十匹の意識が、前方の矢に集中した時。
「ぎゃあ!」「え、ぐえっ!?」と悲鳴が響いた。
追っ手たちが慌てて振り返る。
するとそこには、人型をしながら死神の鎌のような尾を振りかぶった伊織と、黒い剣を手にした切風がいた。彼らが、後方にいた追っ手を二人、すでに切り倒していた。
茉莉は、樹上からの攻撃という優位がとれないこの第二隊には、直接の戦闘能力で勝負できる二人を配していた。
「行くねえ!」と切風が気合を吐く。
赤炎郎軍の中では、武器を持った妖怪がそれを構え、つぶてを持った妖怪が切風と庵に対して振りかぶる。
その背中へ、五人の犬妖の放った霊木の矢が突き刺さった。
「ぐぼっ」「が……」「ぎい」と呻いて、追っ手たちはばたばたと倒れた。
それに戸惑っている敵に、切風と伊織が切りかかる。
「伊織、左は任せた!」
「はっ! 承知!」
大きく湾曲した伊織の尾の鎌は、木立の間をすり抜けながら、瞬く間に二匹の腕を切り飛ばした。
「魏良党の仇! ……よくもみんなを!」
鎌は月明かりに閃きながら、一陣の風のように敵を切り裂いていく。
「こ、このカマイタチ風情が! お前ら、木を盾にしろ! 撤退だ、撤退する!」
追っ手の頭目らしい獣の変化がそう吠える間に、また二匹が射られて倒れた。
「はっは。伊織やるじゃん、さすが。……撤退? 逃がすわけねえよね」
切風は、左手で剣を構えた。彼には利き腕はなく、両方の手で自在に剣を扱える。
ゆるやかに脱力した状態から放たれた斬撃は、ブナらしい木の幹ごと、その奥にいた頭目を真横に両断した。
「な……な……」
急激に戦意を喪失していく追っ手たちを、切風はこともなげに、また木立ごと切り倒していく。
右手にいたムカデの変化を、剣を右に持ち替えて一撃。左手にいた猿の変化を、また左に持ち換えて一撃。
切風の一振りごとに、追っ手は一匹ずつ数を減らしていった。
「悪いんだけどさ、お前らは皆殺しな。中途半端なことすると、うちの軍師様に余計な負担がかかりそうだから」
別の猿が、震える声を絞り出した。
「ひ……き、貴様その刀……まさか……き、牙の……『牙の王』……!?」
「あ、知ってんだ、おれのこと。光栄だなあ。うれしいなあ。それだったら――」
にこやかなその口ぶりと表情に、猿は、助命を一瞬期待した。
しかし。
「――それだったら、こんなことしなけりゃよかったんだよ」
猿は、頭頂部から股間まで、一刀のもとに叩き切られた。
■
「おーい、茉莉。もういいよ」
「はい……」
茂みの間から茉莉が出てきた。
辺りに散らばる妖怪の亡骸は、すでに風化が始まって、塵となって空中に溶けていっている。思わず茉莉は眼を背けたが、しっかりと見るべきだと思い直して、大きく傷口を開けた動かぬけだものたちを直視した。
そのほとんどが一撃で倒されているのが、茉莉の目にも分かる。
「本当に強いんですね、切風さんて……」
「まーね。伊織がやったやつも結構いるけど。さて、向こうもそろそろかな」
切風がそう言ったのとほぼ同時に、ガアアと高い声が聞こえた。カラスの鳴き声だ。
茉莉がうなずく。
「あれ、雷蘭さんですよね。あちらも勝ったってことですね」
「ああ、手筈通りだね。行くか」
切風の言葉に、全員が前進を始めた。
残るは、敵の本丸のみだった。
「おれの家に居座ってるやつがどんなんなのかは知らねえけど。でも、たかが知れてるね。ただ座して待ってるだけの大将じゃ、うちの軍師とえらい違いだもん」
そうつぶやいて、切風は一党の先頭に立ち、速度を上げた。
■
赤炎郎の傍らで、カエルは、徐々に嫌な予感にとらわれ出していた。
一隊目も二隊目も、なんの連絡もよこさない。
敵を打ち破っていればもちろん、苦戦しているにしても、増援の依頼があってもよさそうなものではないか。
これは、奇襲を受けたという伝達がこの本陣に届かないよう、極力一人の敵も逃がすなと切風たちが心得ていたためなのだが、赤炎郎たちにはそんなことは知りようもない。
やがて、嫌な気配が近づいてきた。
音が聞こえるわけでも、目に見えているわけでもない。しかし、強力な妖気が迫ってきている。
こうした妖気は、その気になればある程度隠すことができる。
そうしないということは、相手は、気配を隠す必要がないということだ。
「せ、赤炎郎様」
カエルの声は震えていた。
赤炎郎が立ち上がる。「ああ」と応えた声が低い。前掲した姿勢には、早くも力が込められている。
「まさかとは思うが、さっき出てったやつら、皆殺しにされたのか? ……そうか。それで、この屋敷を挟み撃ちにしようってか」
にわかには信じられなかった。それなりにまとまった数の兵を出して、一人も逃げられずに全滅させられるなどとは。妖怪の戦い方は、おしなべて、よくも悪くも単純なものになりがちのはずだ。
避けるべきとした戦力分散の愚は、すでに犯してしまっていた。だが赤炎郎には、それを悔やむ時間も必要もない。
「出るぞ。全員だ」
「はっ!」
カエルを含めた側近が屋敷の正門から出る。
兵の数は、赤炎郎と側近を除いて十五匹。先の二隊からは、生き残りが戻ってくる様子もない。
五十匹以上の一大勢力が、わずかな時間に壊滅に近い状態になったことは、痛恨だった。赤炎郎以外の者たちには、明らかな動揺が広がっている。
「ちっ」
赤炎郎は、門から森へと続く道を歩き出した。
側近のカエルが、「危のうございます!」と慌てて護衛をやらせる。
その時、森の奥から、矢が放たれた。
赤炎郎が叫ぶ。
「四、いや五本! かわすか叩き落せ!」
赤炎郎が矢を二本弾く。
別の一本を避けきれず、護衛が一人討たれた。
それでも残りは矢をかわした。
「第二射が来やがるぞ! その前に殺せえええ!」
赤炎郎は、森に向かって突進した。
木立の間から弓射していた犬妖五人は、慌てて後方へ飛びすさる。
だが、赤炎郎の速さは圧倒的だった。
森の端に到達した熊の怪異は、木立をなぎ倒してなお突き進む。
ガア、とカラスの声。
それを合図にして、赤炎郎の背中に、どこからか五本の矢が放たれた。
赤炎郎は、振り向きざま、五本とも叩き落した。
「そうだよなあ! 二隊いたんだもんな、そう来るとおもったぜえ!」
切風と伊織、その後ろに隠れて茉莉が、赤炎郎が踏み込んだのとは逆側の森の端から姿を現している。射手たちはまだ森の中にいた。
切風たちと赤炎郎とは、犬神屋敷を挟んで、百メートル近く離れている。それでも、赤炎郎の配下たちが「あいつら!」「後ろに潜んでやがったか!」と騒ぎ出しているのが、茉莉にも聞こえた。
茉莉は、かなり距離はあったものの、赤炎郎をの姿を見て、鳥肌が立った。
見た目は、毛が赤みがかったツキノワグマだ。だが、ヒグマなどと比べればやや小柄な印象のあるツキノワグマとは違い、前傾した二足歩行で立つその体は、異様に節くれだって膨れていた。
ここが裏世界だからなのか、別の理由によるものなのか、赤炎郎の感情の読み取れない小さな目までがよく見える。
あれは、自分が知っているのとは違う世界の理の中に生きている。その実感が嫌というほど伝わってきた。しかも――とても危険な相手だ。
「あーあ。今のが刺さってくれれば、楽だったのになー」
切風が、右手に持った剣を振って、わざとらしく大声で言った。
カエルが、震える声を絞り出す。
「あ、あの、束も鍔もない黒い剣……まさか……」
それを聞いて、赤炎郎も気づいた。
「ほ? そうか、てめえ、切風とかいう野良犬か。てめえの名前はよく聞いたぜ、腑抜けになったって聞いたがな? まあいい、『赫の王』様の土産に首をもらってやろう」
「い、いけません赤炎郎様! あやつ、牙を取り戻しております!」
「ん。あの犬ころが牙を持ってたら、おれのなにがいけねえんだ?」
「あ、いえ、その……も、もちろん、赤炎郎様が不覚を取るなどありえませんが……」
言いよどむカエルに赤炎郎はつばを吐いてから、大音声をあげる。
「おらあ、野良犬! こっちに来ておれに切りかかって見せろ! 首領同士の決闘といこうじゃねえか!」
「ああん? じゃあお前がかかって来なよ。戦いってのは、格下が各上につっかかってくるもんでしょ」
挑発の声は自然だった。
にもかかわらず、赤炎郎が逆上して切風に向かっていかないのは、カエルには不思議だった。
赤炎郎は、鼻で笑いながら言う。
「なんだ、カエル。この赤炎郎様が野良犬に飛びかからねえのがそんなに気になるか」
「は、まあ、多少」
「さっきおれの背を狙った矢を見たろうが。もしおれを殺したかったら、矢なんぞじゃなくて、あの野良犬がその牙とやらで切りかかればよかったんだ。てめえらおれんとこのぼんくらどもは、犬どもにまるで気づいてなかったんだから、邪魔立てもされずによ。そうしなかったのには、理由があるんじゃねえのか?」
切風の表情は変わらない。だが、若い伊織は、わずかにたじろいだ。それを赤炎郎は見逃さない。
「野良犬はな、あそこから動けねえわけがあるんだよ。その理由は知ったこっちゃねえが、あいつはあそこから動けねえんだ」
まだ茉莉の存在までは、赤炎郎には気取られていない。
しかし茉莉は、胸中で冷や汗をかいていた。森のように遮蔽物が豊富ならともかく、開けた場所では、切風が戦うには自分も敵の前に身をさらけ出さなくてはならない。少なくとも、三十メートル以上は離れられない。
これは、切風という強力な武力にとって、大きすぎる足かせだった。
「分かったか、てめえら。ってことで、あの野良犬野郎は後でいい。先にぶち殺すのは――」
赤炎郎が、再び、森へと続く道の奥へと向き直り、切風に背を向ける。
「――こっちのやつらだああああ!」
赤炎郎が、突進を始めた瞬間。
切風もまた飛び出した。
切風の前方には、犬神屋敷と、その傍らに十匹ほどの妖怪。カエルと猿のそれが強力な妖気を持っている。この二匹は赤炎郎とやらの側近だろうな、と切風は値踏みした。
彼らのさらに向こうに、赤炎郎はいる。
カエルたちが、切風を迎え撃とうと構えた。
切風も黒い剣を振りかぶる。
しかしその時、切風の手の中から剣が消えた。茉莉から三十メートルを超えて離れたせいだった。
「え? な……?」
驚いてそううめいたのは、カエルたちだった。
なんのつもりか、と思考を巡らせた瞬間、切風の背後から走り寄ってくる人影が見えた。人間の少女だった。
なんだあの小娘は、とカエルは混乱する。人間に見えるが、切風の手下か? もしそうなら、なぜ今この時に、わざわざ危険に向かって走っているのか?
その様子を、赤炎郎は、首だけで振り向いた、自分の肩越しに見ていた。
そして叫ぶ。
「カエル、小娘だ! その小娘が、野良犬野郎の命綱だ! やれ!」
わけも分からないまま、しかし応戦するほかに仕方なく、カエルたち十匹ほどの一群が茉莉に襲いかかろうとする。
切風が後ずさるように跳躍し、茉莉と妖怪の間に立ちはだかる。
そうこうしているうちに、茉莉との距離が縮まった。
走る茉莉は、身を震わせて足元がおぼつかなくなりながらも、腹から黒い剣を引き抜いた。それを、背を向けている切風に投げる。
切風は、後ろを見もせずにそれを左手で受け取った、切風の体の陰になり、それはカエルたちには見えていない。
「おい!」切風が叫んだ。「そこの、猿とカエル! 名前なんて言うんだ!?」
疾走しながら、猿とカエルが答える。
「わしは金座!」と猿。
「わしはワタヌキよ! 貴様は――」とカエル。「――貴様は、切風か! なぜ名を問う!」
「当たり! なぜって、そりゃさ――」
切風が踏み込んだ。
そこへ、赤炎郎の大声が飛ぶ。
「おいぼんくらども! 散れ! そいつはもう刀を抜いて……」
だが、その声よりも、切風の剣のほうが速かった。
「――そりゃさ、新生切風党の初陣だもん! 敵の名前くらい知れてないとね!」
切風の動きをかろうじて目で追えたのは、離れていた赤炎郎だけだった。
黒い刃が翻る。
まず先頭にいた、虫の変化が、三匹まとめて一太刀で薙ぎ払われた。
続いて野犬の変化が二匹、食らいつこうとして大きく開けた口ごと、その頭を、返す刀で二匹まとめて横薙ぎに叩き切られる。
その後ろにいた獣の変化三匹を、切風は一呼吸で一度に突いた。三段突きは全て急所をえぐり、声も立てずに、獣の妖怪がその亡骸に変わる。
さらに切風が二度ずつ左右に剣を払うと、ワタヌキと金座以外の妖怪は全て切り倒されてしまった。
あんぐりと口を開けたまま、武器――錆びた鉄剣――を振り上げたカエルと猿が固まっている。
切風は微笑んでいた。
「お前ら、驚くくらい、すげえ弱かったね。さよなら、金座、ワタヌキ」
金座は振り向いて逃げようとした。
一方、ワタヌキには野望があった。このまま赤炎郎を盛り立てるか、あるいは、「赫の王」の目に留まって引き立ててもらい、さらに昇り詰めていきたい。
たとえ戦闘能力で他に劣っていても、腕力に優れたものにかしづくだけで暮らしていくのはごめんだった。
そのためには、ここで無様に逃げるわけにはいかない。そんな姿を見せれば、赤炎郎は二度と自分に目をかけることはなくなるだろう。
たとえ知恵者としての成り上がりを目指していても、どこかで体を張らねばならない時が来る。その覚悟はしていた。そして、今がその時だ。
ワタヌキは鉄剣を再び振り上げた。
「う、うおおおおおお~っ」
「ええ!? なんだよ、気合入ってんね!?」
ぱん。
切風の横薙ぎ剣が、あっさりとワタヌキの鉄剣を弾き飛ばした。
しまった。終わった。どんなに無様であろうと、逃げておくのだった。ワタヌキは、心底後悔したが。
切風は、剣先をぴたりとワタヌキに突きつけて言う。
「お前、ちょっとどっか行ってなよ。邪魔しないんなら、見逃してやる」
「……なぜ?」
「今の状況で逃げなかったのがなんでなのか、聞いてみてーもん。ただ、おれたちに攻撃したり、特にあの女の子に手え出したら、速攻殺す。さ、行こう茉莉。ごめんね、あんなでかい熊に近寄らせて。すぐ叩っ切ってやるからね」
「は、はいっ」
どうしていいか分からずに立ち尽くしているワタヌキの横を、やけにさわやかに笑いながら、切風がさっさと通り過ぎた。
その後についていった茉莉も、ワタヌキの横を通ったのだが、その時、小声でカエルの妖怪に告げる。
「あの、本当に、私たちに攻撃しなければ見逃してもらえると思いますよ。切風さん、そこまで気まぐれで無茶なタイプではないと思うので」
「はあ」
充分気まぐれではないかとワタヌキには思えたが、もう、戦う気がしないのは確かだった。
一方、金座は、赤炎郎の足元にすがりついていた。
「せ、赤炎郎様、赤炎郎様あああ。切風です、あいつがそうですうう」
「そうだな。猿、お前、もういいぞ」
もういいと言いますと? と言おうとした瞬間、猿の頭が、赤炎郎の右手で弾き飛ばされた。
森と平地の境目に、いびつな球体がごろごろと転がっていく。
その間に、赤炎郎と切風は十メートルほどの位置に接近していた。むろん、茉莉も、距離を置きつつもついてきている。
「野良犬。その小娘がなにかは知らんが、そいつを侍らせておかなければてめえは戦えねえんだろう」
「ご名答。少しは知恵が回るんだな」
赤炎郎が、べろりと舌なめずりをする。
「いいぜ、その女は狙わないでおいてやる。そんなのをひねっても面白くとも何ともないからな。さしの勝負といこうや、野良犬。てめえを潰せば、南信州は手に入れたも同然だろう」
「さあねえ、信州妖怪がそんなにたやすいと思ってんのはお前だけじゃないの。さて――」
第二隊もまた、追っ手を森の中へ引きこんでいた。
こちらは道がないところを誘い込んだので、敵も味方も、数も配置も、互いに容易に目で追えない。
逃げていた犬妖五人が、ついに振り返り、矢をつがえた。
それを木立の間から見て取った追っ手二十匹は、一応防御の体制をとる。
矢はつがえてから撃つまでに隙ができる。一度撃たせ、それを外したなら、もはや数で勝る追っ手たちの優位は決まる。
二十匹の意識が、前方の矢に集中した時。
「ぎゃあ!」「え、ぐえっ!?」と悲鳴が響いた。
追っ手たちが慌てて振り返る。
するとそこには、人型をしながら死神の鎌のような尾を振りかぶった伊織と、黒い剣を手にした切風がいた。彼らが、後方にいた追っ手を二人、すでに切り倒していた。
茉莉は、樹上からの攻撃という優位がとれないこの第二隊には、直接の戦闘能力で勝負できる二人を配していた。
「行くねえ!」と切風が気合を吐く。
赤炎郎軍の中では、武器を持った妖怪がそれを構え、つぶてを持った妖怪が切風と庵に対して振りかぶる。
その背中へ、五人の犬妖の放った霊木の矢が突き刺さった。
「ぐぼっ」「が……」「ぎい」と呻いて、追っ手たちはばたばたと倒れた。
それに戸惑っている敵に、切風と伊織が切りかかる。
「伊織、左は任せた!」
「はっ! 承知!」
大きく湾曲した伊織の尾の鎌は、木立の間をすり抜けながら、瞬く間に二匹の腕を切り飛ばした。
「魏良党の仇! ……よくもみんなを!」
鎌は月明かりに閃きながら、一陣の風のように敵を切り裂いていく。
「こ、このカマイタチ風情が! お前ら、木を盾にしろ! 撤退だ、撤退する!」
追っ手の頭目らしい獣の変化がそう吠える間に、また二匹が射られて倒れた。
「はっは。伊織やるじゃん、さすが。……撤退? 逃がすわけねえよね」
切風は、左手で剣を構えた。彼には利き腕はなく、両方の手で自在に剣を扱える。
ゆるやかに脱力した状態から放たれた斬撃は、ブナらしい木の幹ごと、その奥にいた頭目を真横に両断した。
「な……な……」
急激に戦意を喪失していく追っ手たちを、切風はこともなげに、また木立ごと切り倒していく。
右手にいたムカデの変化を、剣を右に持ち替えて一撃。左手にいた猿の変化を、また左に持ち換えて一撃。
切風の一振りごとに、追っ手は一匹ずつ数を減らしていった。
「悪いんだけどさ、お前らは皆殺しな。中途半端なことすると、うちの軍師様に余計な負担がかかりそうだから」
別の猿が、震える声を絞り出した。
「ひ……き、貴様その刀……まさか……き、牙の……『牙の王』……!?」
「あ、知ってんだ、おれのこと。光栄だなあ。うれしいなあ。それだったら――」
にこやかなその口ぶりと表情に、猿は、助命を一瞬期待した。
しかし。
「――それだったら、こんなことしなけりゃよかったんだよ」
猿は、頭頂部から股間まで、一刀のもとに叩き切られた。
■
「おーい、茉莉。もういいよ」
「はい……」
茂みの間から茉莉が出てきた。
辺りに散らばる妖怪の亡骸は、すでに風化が始まって、塵となって空中に溶けていっている。思わず茉莉は眼を背けたが、しっかりと見るべきだと思い直して、大きく傷口を開けた動かぬけだものたちを直視した。
そのほとんどが一撃で倒されているのが、茉莉の目にも分かる。
「本当に強いんですね、切風さんて……」
「まーね。伊織がやったやつも結構いるけど。さて、向こうもそろそろかな」
切風がそう言ったのとほぼ同時に、ガアアと高い声が聞こえた。カラスの鳴き声だ。
茉莉がうなずく。
「あれ、雷蘭さんですよね。あちらも勝ったってことですね」
「ああ、手筈通りだね。行くか」
切風の言葉に、全員が前進を始めた。
残るは、敵の本丸のみだった。
「おれの家に居座ってるやつがどんなんなのかは知らねえけど。でも、たかが知れてるね。ただ座して待ってるだけの大将じゃ、うちの軍師とえらい違いだもん」
そうつぶやいて、切風は一党の先頭に立ち、速度を上げた。
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赤炎郎の傍らで、カエルは、徐々に嫌な予感にとらわれ出していた。
一隊目も二隊目も、なんの連絡もよこさない。
敵を打ち破っていればもちろん、苦戦しているにしても、増援の依頼があってもよさそうなものではないか。
これは、奇襲を受けたという伝達がこの本陣に届かないよう、極力一人の敵も逃がすなと切風たちが心得ていたためなのだが、赤炎郎たちにはそんなことは知りようもない。
やがて、嫌な気配が近づいてきた。
音が聞こえるわけでも、目に見えているわけでもない。しかし、強力な妖気が迫ってきている。
こうした妖気は、その気になればある程度隠すことができる。
そうしないということは、相手は、気配を隠す必要がないということだ。
「せ、赤炎郎様」
カエルの声は震えていた。
赤炎郎が立ち上がる。「ああ」と応えた声が低い。前掲した姿勢には、早くも力が込められている。
「まさかとは思うが、さっき出てったやつら、皆殺しにされたのか? ……そうか。それで、この屋敷を挟み撃ちにしようってか」
にわかには信じられなかった。それなりにまとまった数の兵を出して、一人も逃げられずに全滅させられるなどとは。妖怪の戦い方は、おしなべて、よくも悪くも単純なものになりがちのはずだ。
避けるべきとした戦力分散の愚は、すでに犯してしまっていた。だが赤炎郎には、それを悔やむ時間も必要もない。
「出るぞ。全員だ」
「はっ!」
カエルを含めた側近が屋敷の正門から出る。
兵の数は、赤炎郎と側近を除いて十五匹。先の二隊からは、生き残りが戻ってくる様子もない。
五十匹以上の一大勢力が、わずかな時間に壊滅に近い状態になったことは、痛恨だった。赤炎郎以外の者たちには、明らかな動揺が広がっている。
「ちっ」
赤炎郎は、門から森へと続く道を歩き出した。
側近のカエルが、「危のうございます!」と慌てて護衛をやらせる。
その時、森の奥から、矢が放たれた。
赤炎郎が叫ぶ。
「四、いや五本! かわすか叩き落せ!」
赤炎郎が矢を二本弾く。
別の一本を避けきれず、護衛が一人討たれた。
それでも残りは矢をかわした。
「第二射が来やがるぞ! その前に殺せえええ!」
赤炎郎は、森に向かって突進した。
木立の間から弓射していた犬妖五人は、慌てて後方へ飛びすさる。
だが、赤炎郎の速さは圧倒的だった。
森の端に到達した熊の怪異は、木立をなぎ倒してなお突き進む。
ガア、とカラスの声。
それを合図にして、赤炎郎の背中に、どこからか五本の矢が放たれた。
赤炎郎は、振り向きざま、五本とも叩き落した。
「そうだよなあ! 二隊いたんだもんな、そう来るとおもったぜえ!」
切風と伊織、その後ろに隠れて茉莉が、赤炎郎が踏み込んだのとは逆側の森の端から姿を現している。射手たちはまだ森の中にいた。
切風たちと赤炎郎とは、犬神屋敷を挟んで、百メートル近く離れている。それでも、赤炎郎の配下たちが「あいつら!」「後ろに潜んでやがったか!」と騒ぎ出しているのが、茉莉にも聞こえた。
茉莉は、かなり距離はあったものの、赤炎郎をの姿を見て、鳥肌が立った。
見た目は、毛が赤みがかったツキノワグマだ。だが、ヒグマなどと比べればやや小柄な印象のあるツキノワグマとは違い、前傾した二足歩行で立つその体は、異様に節くれだって膨れていた。
ここが裏世界だからなのか、別の理由によるものなのか、赤炎郎の感情の読み取れない小さな目までがよく見える。
あれは、自分が知っているのとは違う世界の理の中に生きている。その実感が嫌というほど伝わってきた。しかも――とても危険な相手だ。
「あーあ。今のが刺さってくれれば、楽だったのになー」
切風が、右手に持った剣を振って、わざとらしく大声で言った。
カエルが、震える声を絞り出す。
「あ、あの、束も鍔もない黒い剣……まさか……」
それを聞いて、赤炎郎も気づいた。
「ほ? そうか、てめえ、切風とかいう野良犬か。てめえの名前はよく聞いたぜ、腑抜けになったって聞いたがな? まあいい、『赫の王』様の土産に首をもらってやろう」
「い、いけません赤炎郎様! あやつ、牙を取り戻しております!」
「ん。あの犬ころが牙を持ってたら、おれのなにがいけねえんだ?」
「あ、いえ、その……も、もちろん、赤炎郎様が不覚を取るなどありえませんが……」
言いよどむカエルに赤炎郎はつばを吐いてから、大音声をあげる。
「おらあ、野良犬! こっちに来ておれに切りかかって見せろ! 首領同士の決闘といこうじゃねえか!」
「ああん? じゃあお前がかかって来なよ。戦いってのは、格下が各上につっかかってくるもんでしょ」
挑発の声は自然だった。
にもかかわらず、赤炎郎が逆上して切風に向かっていかないのは、カエルには不思議だった。
赤炎郎は、鼻で笑いながら言う。
「なんだ、カエル。この赤炎郎様が野良犬に飛びかからねえのがそんなに気になるか」
「は、まあ、多少」
「さっきおれの背を狙った矢を見たろうが。もしおれを殺したかったら、矢なんぞじゃなくて、あの野良犬がその牙とやらで切りかかればよかったんだ。てめえらおれんとこのぼんくらどもは、犬どもにまるで気づいてなかったんだから、邪魔立てもされずによ。そうしなかったのには、理由があるんじゃねえのか?」
切風の表情は変わらない。だが、若い伊織は、わずかにたじろいだ。それを赤炎郎は見逃さない。
「野良犬はな、あそこから動けねえわけがあるんだよ。その理由は知ったこっちゃねえが、あいつはあそこから動けねえんだ」
まだ茉莉の存在までは、赤炎郎には気取られていない。
しかし茉莉は、胸中で冷や汗をかいていた。森のように遮蔽物が豊富ならともかく、開けた場所では、切風が戦うには自分も敵の前に身をさらけ出さなくてはならない。少なくとも、三十メートル以上は離れられない。
これは、切風という強力な武力にとって、大きすぎる足かせだった。
「分かったか、てめえら。ってことで、あの野良犬野郎は後でいい。先にぶち殺すのは――」
赤炎郎が、再び、森へと続く道の奥へと向き直り、切風に背を向ける。
「――こっちのやつらだああああ!」
赤炎郎が、突進を始めた瞬間。
切風もまた飛び出した。
切風の前方には、犬神屋敷と、その傍らに十匹ほどの妖怪。カエルと猿のそれが強力な妖気を持っている。この二匹は赤炎郎とやらの側近だろうな、と切風は値踏みした。
彼らのさらに向こうに、赤炎郎はいる。
カエルたちが、切風を迎え撃とうと構えた。
切風も黒い剣を振りかぶる。
しかしその時、切風の手の中から剣が消えた。茉莉から三十メートルを超えて離れたせいだった。
「え? な……?」
驚いてそううめいたのは、カエルたちだった。
なんのつもりか、と思考を巡らせた瞬間、切風の背後から走り寄ってくる人影が見えた。人間の少女だった。
なんだあの小娘は、とカエルは混乱する。人間に見えるが、切風の手下か? もしそうなら、なぜ今この時に、わざわざ危険に向かって走っているのか?
その様子を、赤炎郎は、首だけで振り向いた、自分の肩越しに見ていた。
そして叫ぶ。
「カエル、小娘だ! その小娘が、野良犬野郎の命綱だ! やれ!」
わけも分からないまま、しかし応戦するほかに仕方なく、カエルたち十匹ほどの一群が茉莉に襲いかかろうとする。
切風が後ずさるように跳躍し、茉莉と妖怪の間に立ちはだかる。
そうこうしているうちに、茉莉との距離が縮まった。
走る茉莉は、身を震わせて足元がおぼつかなくなりながらも、腹から黒い剣を引き抜いた。それを、背を向けている切風に投げる。
切風は、後ろを見もせずにそれを左手で受け取った、切風の体の陰になり、それはカエルたちには見えていない。
「おい!」切風が叫んだ。「そこの、猿とカエル! 名前なんて言うんだ!?」
疾走しながら、猿とカエルが答える。
「わしは金座!」と猿。
「わしはワタヌキよ! 貴様は――」とカエル。「――貴様は、切風か! なぜ名を問う!」
「当たり! なぜって、そりゃさ――」
切風が踏み込んだ。
そこへ、赤炎郎の大声が飛ぶ。
「おいぼんくらども! 散れ! そいつはもう刀を抜いて……」
だが、その声よりも、切風の剣のほうが速かった。
「――そりゃさ、新生切風党の初陣だもん! 敵の名前くらい知れてないとね!」
切風の動きをかろうじて目で追えたのは、離れていた赤炎郎だけだった。
黒い刃が翻る。
まず先頭にいた、虫の変化が、三匹まとめて一太刀で薙ぎ払われた。
続いて野犬の変化が二匹、食らいつこうとして大きく開けた口ごと、その頭を、返す刀で二匹まとめて横薙ぎに叩き切られる。
その後ろにいた獣の変化三匹を、切風は一呼吸で一度に突いた。三段突きは全て急所をえぐり、声も立てずに、獣の妖怪がその亡骸に変わる。
さらに切風が二度ずつ左右に剣を払うと、ワタヌキと金座以外の妖怪は全て切り倒されてしまった。
あんぐりと口を開けたまま、武器――錆びた鉄剣――を振り上げたカエルと猿が固まっている。
切風は微笑んでいた。
「お前ら、驚くくらい、すげえ弱かったね。さよなら、金座、ワタヌキ」
金座は振り向いて逃げようとした。
一方、ワタヌキには野望があった。このまま赤炎郎を盛り立てるか、あるいは、「赫の王」の目に留まって引き立ててもらい、さらに昇り詰めていきたい。
たとえ戦闘能力で他に劣っていても、腕力に優れたものにかしづくだけで暮らしていくのはごめんだった。
そのためには、ここで無様に逃げるわけにはいかない。そんな姿を見せれば、赤炎郎は二度と自分に目をかけることはなくなるだろう。
たとえ知恵者としての成り上がりを目指していても、どこかで体を張らねばならない時が来る。その覚悟はしていた。そして、今がその時だ。
ワタヌキは鉄剣を再び振り上げた。
「う、うおおおおおお~っ」
「ええ!? なんだよ、気合入ってんね!?」
ぱん。
切風の横薙ぎ剣が、あっさりとワタヌキの鉄剣を弾き飛ばした。
しまった。終わった。どんなに無様であろうと、逃げておくのだった。ワタヌキは、心底後悔したが。
切風は、剣先をぴたりとワタヌキに突きつけて言う。
「お前、ちょっとどっか行ってなよ。邪魔しないんなら、見逃してやる」
「……なぜ?」
「今の状況で逃げなかったのがなんでなのか、聞いてみてーもん。ただ、おれたちに攻撃したり、特にあの女の子に手え出したら、速攻殺す。さ、行こう茉莉。ごめんね、あんなでかい熊に近寄らせて。すぐ叩っ切ってやるからね」
「は、はいっ」
どうしていいか分からずに立ち尽くしているワタヌキの横を、やけにさわやかに笑いながら、切風がさっさと通り過ぎた。
その後についていった茉莉も、ワタヌキの横を通ったのだが、その時、小声でカエルの妖怪に告げる。
「あの、本当に、私たちに攻撃しなければ見逃してもらえると思いますよ。切風さん、そこまで気まぐれで無茶なタイプではないと思うので」
「はあ」
充分気まぐれではないかとワタヌキには思えたが、もう、戦う気がしないのは確かだった。
一方、金座は、赤炎郎の足元にすがりついていた。
「せ、赤炎郎様、赤炎郎様あああ。切風です、あいつがそうですうう」
「そうだな。猿、お前、もういいぞ」
もういいと言いますと? と言おうとした瞬間、猿の頭が、赤炎郎の右手で弾き飛ばされた。
森と平地の境目に、いびつな球体がごろごろと転がっていく。
その間に、赤炎郎と切風は十メートルほどの位置に接近していた。むろん、茉莉も、距離を置きつつもついてきている。
「野良犬。その小娘がなにかは知らんが、そいつを侍らせておかなければてめえは戦えねえんだろう」
「ご名答。少しは知恵が回るんだな」
赤炎郎が、べろりと舌なめずりをする。
「いいぜ、その女は狙わないでおいてやる。そんなのをひねっても面白くとも何ともないからな。さしの勝負といこうや、野良犬。てめえを潰せば、南信州は手に入れたも同然だろう」
「さあねえ、信州妖怪がそんなにたやすいと思ってんのはお前だけじゃないの。さて――」
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