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■■■
こんにちは。
「……どなたですか? あれ、ここどこ?」
ここはあなたの夢の中です、江藤樹里――ユーフィニアさん。
「……それで、あなたは?」
神です。
「……なんの用ですか?」
この度は大変なことになってしまいまして。
「それって、転生のことですか? ……まったくですよ」
結論から言いますと、神であっても、たとえば、あなたをもとの世界に戻したり、ここに来る前に時間を戻したりということはできません。
また、この世界に大幅な改変を加えることも不可能です。つまり、ユーフィニアが品行方正な世界線でこの世界を作り直すとかも無理です。
「……そうですか。いきなりそんなこと言われてもって感じですけど……」
ですが、このようなことになりましたお詫びに、なにかこの神にできることがありましたら、お役に立とうと思いまして。
「それこそそんなこと言われても。ここまでのお話からすると、失礼ながら神様の割に、できることが少なそうな気がしてしまうんですけど」
ああ、はい。あくまでこの世界の神なので、現実世界にはほぼ干渉できませんのです。
といって、一度造形された世界というのは、創造主といえどもそうそう被造物を好きにいじることはできないんですよね。
世知辛いものです。
「ううんと……。あ、なら、どうして私は現実世界からゲームの中に来てしまったのか、教えてもらえませんか?」
承りました。
実はユーフィニアなのですが……極端なキャラ設定をしたせいで、ヘルハウンズや小国連合どころか大陸全体へ、予想以上に、非常にとっても非常に大変、悪評が轟いてしまいまして。
リルベオラスをはじめとする彼女の周辺人物たちのシナリ――人生が悪影響を受けまくって、このままではどうにものっぴきならないままバッドエンドにしかならないくらい、たちの悪い人物として仕上がってしまったのです。
「聞いてる感じだと、そうみたいですね」
そこで、勝手ながら、ユーフィニアには消えてもらう……というより、初めからいなかったことにさせてもらいました。
しかし、一度造形された人物というのは、ただ消すというのが意外に難しく。彼女の消滅を断行したことによって、この世界の均衡が崩れてしまうところだったのです。
そんな時、この世界に非常に力強い愛着を持っている方がおられました。
ゆがんだ世界に空いた空隙は、なんと、その方の魂の一部をこの世界に引っ張り込んでしまったのです。
「それが、つまり……」
そう。あなたです。
「それなら、ずっと気になっていたんですけど、元のユーフィニアは、もう……」
ええ、元の彼女はもう存在しません。この世界にいる「ユーフィニア」は、あなた一人です。
「そうですか。……あの、今言っていた、私がこの世界に引っ張り込まれたっていう」
ええ。予期せぬイレギュラー、としか言えませんが。
「魂の一部って言いましたよね? そうしたら、『残り』は現実世界に今もあるんですか?」
あります。その通りです。今のあなたは分身みたいなものですからね。
今ここにいるあなたとは別に、「江藤樹里」さんは引き続き現実世界で生きています。
「……ほっとしたような、寂しいような……。でも、家族とかが私がいなくなったことで悲しんだりしないで済んでいるなら、それはいいことなんでしょうね。……ちなみに」
なんでしょう?
「現実の私は、変わりなく過ごしているんでしょうか? 元気ですか?」
……。
「あの」
……少々……申し上げにくいのですが。
「な、なんですか。まさか、もう死んでるとか!? あ、でも生きてるって言ってたっけ……じゃ、じゃあ、重い病気にかかったとか大けがしてるとか?」
聞かないでおくのもいいかと思いますが……。
「いいです、言ってください! それも私のことなんですから!」
分かりました。お教えしましょう。
……画家になりました。
「……え?」
ひと月ほど前のことです。
あなたはなんの気なく、昔描いた絵を一枚、あるSNSに投稿したのです。
すると、それを美術好きのインフルエンサーが見つけて、熱く激しく紹介しました。
それを見た人たちから、ほかにはないのかとせっつかれ、あなたは戸惑いながらも何枚かの昔の絵をさらに投稿。
「それは……戸惑ったでしょうね……」
どれもこれも反響を呼び、一躍時の人と化したあなたには、有償での絵の依頼がいくつも舞い込んできました。
「え、凄い」
これまた戸惑いながらも再び絵筆をとったあなたは、手に入りやすいアルコールマーカーや水彩で描き上げた絵を依頼者に提供しましたが、しばらく描いていなかった反動からか、凄まじい気合とセンスが込められた名画を連発。
一躍、人気絵師の仲間入りをしたのです。
まあここひと月ほどのことなので、この後どれほど安定した評価を得るかは不明ですが、個展の話も来ているようですね。
「こてん……?」
結構大きめのやつですよ。
街中の小規模なギャラリーとかではなくて、都内の有名な展示場でやるみたいですから。
「そ、……んな……。そんなことに、なってるなんて……」
……申し訳ありません。だから、言うのは気が進まなかったのです。この世界へ引き込まれたりしなければ、樹里さんの一部であるあなたも、同じ栄光に浴していたはずなのですから。
現実世界のあなたのことは、少々調べさせていただきました。そして、今の通りのことを知り、愕然としました……。
どう償っていいのかわかりません。我々が作ったこの世界のせいで、あなたは、子供のころからの夢をかなえる瞬間を味わうことが、できなくなってしまった……。
「……神様」
はい。お怒りも、お嘆きももっともです。
なんなりと。
「なにか誤解していませんか? 私、今、生まれてから今までで最高中の最高の気分なんですよ」
え?
「だって、『私』がかなえたいと思っていたことが、全部かなったことが分かったんですから! 現実世界での画家の夢も! ハイグラの中の憧れの人に会うことも、幸せになって欲しい人たちに幸せになってもらうことも!」
江藤樹里さん……。
「神様、ここにいる私は、もう江藤樹里じゃありません。絵を描くのはたぶんずっと変わらずに好きでいるだろうし、過去の思い出もなくなりはしないけど……でも今の私は、ほかの誰でもなく、ハイグラの世界のユーフィニアですよ!」
ユー……フィニア……。
「あなたがこの世界を作ってくれたのなら、私からあなたに贈るのは、感謝だけです。ほかにはなにもありません。本当にありがとう。私、ユーフィニアになれて、本当によかったです!」
……なんと言っていいのか……。
そんなことを言われるつもりでは、全然なかったのに……。
あなたがこんなことになって、この世界を作ったことさえ、僕は……。
「だから私のことはもう、あまり気にしないでください。なんとか生きていきますから。きっと大丈夫ですよ。だって私、この世界が、大好きですから!」
……決めました。
この世界を、僕の定めた摂理から解放します。
「え? なんですか? 神様、だんだん声が、遠くなってきて……」
すべての決まりごとをなくすのです。
愛の結末も、運命の到来も、誕生も死も、この世界のすべてを、僕は僕の思うままに決定してきた。誰と誰が出会い、どう別れ、誰と結ばれるか、などもね。
しかし、僕は僕の――神の見えざる手を破棄します。
「神の、手……?」
すでにその予兆はあったんです。リルとアリスの出会いのように。
あなたたちの生きる道は、あなたたちが切り開いたとおりになるでしょう。
みんな、自分たちの求めるものを、求めるとおりに生きて――
「神様、声が……」
――そして、幸せになってください。
こんにちは。
「……どなたですか? あれ、ここどこ?」
ここはあなたの夢の中です、江藤樹里――ユーフィニアさん。
「……それで、あなたは?」
神です。
「……なんの用ですか?」
この度は大変なことになってしまいまして。
「それって、転生のことですか? ……まったくですよ」
結論から言いますと、神であっても、たとえば、あなたをもとの世界に戻したり、ここに来る前に時間を戻したりということはできません。
また、この世界に大幅な改変を加えることも不可能です。つまり、ユーフィニアが品行方正な世界線でこの世界を作り直すとかも無理です。
「……そうですか。いきなりそんなこと言われてもって感じですけど……」
ですが、このようなことになりましたお詫びに、なにかこの神にできることがありましたら、お役に立とうと思いまして。
「それこそそんなこと言われても。ここまでのお話からすると、失礼ながら神様の割に、できることが少なそうな気がしてしまうんですけど」
ああ、はい。あくまでこの世界の神なので、現実世界にはほぼ干渉できませんのです。
といって、一度造形された世界というのは、創造主といえどもそうそう被造物を好きにいじることはできないんですよね。
世知辛いものです。
「ううんと……。あ、なら、どうして私は現実世界からゲームの中に来てしまったのか、教えてもらえませんか?」
承りました。
実はユーフィニアなのですが……極端なキャラ設定をしたせいで、ヘルハウンズや小国連合どころか大陸全体へ、予想以上に、非常にとっても非常に大変、悪評が轟いてしまいまして。
リルベオラスをはじめとする彼女の周辺人物たちのシナリ――人生が悪影響を受けまくって、このままではどうにものっぴきならないままバッドエンドにしかならないくらい、たちの悪い人物として仕上がってしまったのです。
「聞いてる感じだと、そうみたいですね」
そこで、勝手ながら、ユーフィニアには消えてもらう……というより、初めからいなかったことにさせてもらいました。
しかし、一度造形された人物というのは、ただ消すというのが意外に難しく。彼女の消滅を断行したことによって、この世界の均衡が崩れてしまうところだったのです。
そんな時、この世界に非常に力強い愛着を持っている方がおられました。
ゆがんだ世界に空いた空隙は、なんと、その方の魂の一部をこの世界に引っ張り込んでしまったのです。
「それが、つまり……」
そう。あなたです。
「それなら、ずっと気になっていたんですけど、元のユーフィニアは、もう……」
ええ、元の彼女はもう存在しません。この世界にいる「ユーフィニア」は、あなた一人です。
「そうですか。……あの、今言っていた、私がこの世界に引っ張り込まれたっていう」
ええ。予期せぬイレギュラー、としか言えませんが。
「魂の一部って言いましたよね? そうしたら、『残り』は現実世界に今もあるんですか?」
あります。その通りです。今のあなたは分身みたいなものですからね。
今ここにいるあなたとは別に、「江藤樹里」さんは引き続き現実世界で生きています。
「……ほっとしたような、寂しいような……。でも、家族とかが私がいなくなったことで悲しんだりしないで済んでいるなら、それはいいことなんでしょうね。……ちなみに」
なんでしょう?
「現実の私は、変わりなく過ごしているんでしょうか? 元気ですか?」
……。
「あの」
……少々……申し上げにくいのですが。
「な、なんですか。まさか、もう死んでるとか!? あ、でも生きてるって言ってたっけ……じゃ、じゃあ、重い病気にかかったとか大けがしてるとか?」
聞かないでおくのもいいかと思いますが……。
「いいです、言ってください! それも私のことなんですから!」
分かりました。お教えしましょう。
……画家になりました。
「……え?」
ひと月ほど前のことです。
あなたはなんの気なく、昔描いた絵を一枚、あるSNSに投稿したのです。
すると、それを美術好きのインフルエンサーが見つけて、熱く激しく紹介しました。
それを見た人たちから、ほかにはないのかとせっつかれ、あなたは戸惑いながらも何枚かの昔の絵をさらに投稿。
「それは……戸惑ったでしょうね……」
どれもこれも反響を呼び、一躍時の人と化したあなたには、有償での絵の依頼がいくつも舞い込んできました。
「え、凄い」
これまた戸惑いながらも再び絵筆をとったあなたは、手に入りやすいアルコールマーカーや水彩で描き上げた絵を依頼者に提供しましたが、しばらく描いていなかった反動からか、凄まじい気合とセンスが込められた名画を連発。
一躍、人気絵師の仲間入りをしたのです。
まあここひと月ほどのことなので、この後どれほど安定した評価を得るかは不明ですが、個展の話も来ているようですね。
「こてん……?」
結構大きめのやつですよ。
街中の小規模なギャラリーとかではなくて、都内の有名な展示場でやるみたいですから。
「そ、……んな……。そんなことに、なってるなんて……」
……申し訳ありません。だから、言うのは気が進まなかったのです。この世界へ引き込まれたりしなければ、樹里さんの一部であるあなたも、同じ栄光に浴していたはずなのですから。
現実世界のあなたのことは、少々調べさせていただきました。そして、今の通りのことを知り、愕然としました……。
どう償っていいのかわかりません。我々が作ったこの世界のせいで、あなたは、子供のころからの夢をかなえる瞬間を味わうことが、できなくなってしまった……。
「……神様」
はい。お怒りも、お嘆きももっともです。
なんなりと。
「なにか誤解していませんか? 私、今、生まれてから今までで最高中の最高の気分なんですよ」
え?
「だって、『私』がかなえたいと思っていたことが、全部かなったことが分かったんですから! 現実世界での画家の夢も! ハイグラの中の憧れの人に会うことも、幸せになって欲しい人たちに幸せになってもらうことも!」
江藤樹里さん……。
「神様、ここにいる私は、もう江藤樹里じゃありません。絵を描くのはたぶんずっと変わらずに好きでいるだろうし、過去の思い出もなくなりはしないけど……でも今の私は、ほかの誰でもなく、ハイグラの世界のユーフィニアですよ!」
ユー……フィニア……。
「あなたがこの世界を作ってくれたのなら、私からあなたに贈るのは、感謝だけです。ほかにはなにもありません。本当にありがとう。私、ユーフィニアになれて、本当によかったです!」
……なんと言っていいのか……。
そんなことを言われるつもりでは、全然なかったのに……。
あなたがこんなことになって、この世界を作ったことさえ、僕は……。
「だから私のことはもう、あまり気にしないでください。なんとか生きていきますから。きっと大丈夫ですよ。だって私、この世界が、大好きですから!」
……決めました。
この世界を、僕の定めた摂理から解放します。
「え? なんですか? 神様、だんだん声が、遠くなってきて……」
すべての決まりごとをなくすのです。
愛の結末も、運命の到来も、誕生も死も、この世界のすべてを、僕は僕の思うままに決定してきた。誰と誰が出会い、どう別れ、誰と結ばれるか、などもね。
しかし、僕は僕の――神の見えざる手を破棄します。
「神の、手……?」
すでにその予兆はあったんです。リルとアリスの出会いのように。
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