6 / 23
6
しおりを挟む
翌日、事務所の掃除当番だったので一通りの清掃を終えると――なお、やっぱりこの会社では、掃除の仕方はなかなかに細かくマニュアル化されていた――、私と燎火はA3教室を見に行った。
教室の後ろのドアに開いたガラス窓から中を見ると、生島さんは懸命にタイピングに打ち込み、ちゃんと授業を受けていた。滝じいさんも、進行がしやすそうだ。
燎火が小さな声で、やったな、と言ってくる。私も、うん、と小さくうなずいた。
事務所に戻ると、デスクワークに取り掛かる。
燎火にコーヒーを入れて持っていこうかと思ったけど、小休止でのコーヒーブレイク以外の時は自分の分だけ入れるようにしよう、とやんわり断られた。
それに燎火いわく「戦闘能力で人間を上回るおれが有栖にコーヒーを入れてやるのは親切だが、逆におれが入れてもらうのは気が引ける」らしい。
腕力が親切の基準になるっていうのは、私としては違和感があるのだけど、ここは燎火の価値観を尊重することにした。
妖怪は妖怪の基準のもとに、いろいろ考えているものなんだ。
……まあ、戦闘能力云々については、燎火だけかもしれないけど。そういえば彼は昔から野良の妖怪とけんかすることは多くて、強い弱いに関しては結構こだわっていたほうだったな。
お昼休み、燎火と二人で会社の屋上に出た。
人間はみんなお昼に食事をするけど、妖怪の職員は、お昼ご飯を食べるかどうかはまちまち。
この日の屋上には、私たちだけしかいなかった。
つるつるに磨き上げられた明るい色の木製ベンチがあるので、燎火と並んで座る。
飲み物は、コーヒーではなくお茶にした。
聞いた話では、ドリップバッグのコーヒーよりもこのお茶のほうが一杯当たりの単価が高いらしい。
給湯室には、適温で入れられるように湯温計まで置いてあるし、蛇口に浄水器がついているのにミネラルウォーターのボトルも冷蔵庫に完備されている。
黒芙蓉支店長からは「好き好んでいい茶を買っているんだから、何杯でも飲むがいい!」と言われているけど、私は一日に一杯までにしていた。
私はサンドイッチ、燎火は丸く握ったおむすびの昼食を済ませ、くだんのお茶を飲んでいたら、生島さんの話になった。
「生島さんな、人間に愛着が湧いて現世で人間として過ごしてきたんだが、長く努めてきた工場が業績不振で、リストラ寸前で早期退職したらしい。上司が、少しでも手元に金が残る形で辞めさせてくれたんだとよ」
「そうなんだ……。他人事とは思えないなあ……」
もっとも、働いた期間も仕事の重さも、私とは大違いなのだろうけど。
「その時リストラ対象に挙がった理由の一つに、ベテランなのにパソコン一つまともに使えないってのがあったそうだ。それもあって、ハローワークでここの訓練を勧められたと。次の就職で、役に立つといいよな」
「うん。最近、どんな仕事でも、PCで基本的な入力くらいできないとって感じだもんね」
「ところで、有栖。生島さんと、子供――子狸か?――の頃の話なんてしたのか?」
したというか、私が生島さんのことを聞いただけなのだけど。
そう答えると、燎火が、それでかと微笑んだ。
「生島さんな、会社を辞めて、人間社会での地位も立場もなくして、毎日やることもなくなって、穴倉の中で震えてた子供のころみたいに無力になったと思ったんだってよ。だから、つい無理を言って甘えちまったのかもしれんとさ。有栖に、そう謝っておいてくれって言われた」
「謝ることなんてないのに……」
それは本当にそう思う。誰だって弱気になることがあって、そういう時に、自分ひとりの力で立ち直るのは意外に難しい。
生島さんが悪いほうに行かなくて済んだなら、よかった。
下手をしたら、最初はあの程度のレジスタンス――だかなんだか――でも、その後どんどん悪化してしまったかもしれないのだから。
「これが、燎火が言ってた、小さな奇跡ってことなのかな……。もしそうなら、これからも、時々でも起こしてみたいな」
裏界の、曇っているのに明るい空を見上げながら、そんなことを口にした。
隣にいる燎火が無言だったので、恥ずかしいことを言ってしまったから絶句されているのかと思って、そちらを見た。
燎火も私を見ていた。
「ど、どうしたの?」
風が吹く。
「見とれていただけだ」
「え? なに、風でよく聞こえな」
「よおくぞ言ってくれた、古兎さああああん!」
いきなり後ろから、そんな叫び声がした。
「きゃああっ!?」と悲鳴を上げながら振り向くと、私たちの背後にメートルほどのところに、黒芙蓉支店長が立っている。手に木の板の束――ハリセンを持って。
「な、なにかっ!? 私なにか言いましたっけ!? というかいつからそこに――」
私の後半の質問については、支店長はまったく耳に入っていないようで。
「奇跡! その通りだよ、そのささやかな奇跡の積み重ねが見たくて、わたくしたちはこの仕事をしているんだ! 正直言って裏界の訓練校には、どうしようもない生徒はわんさか来る! カスタマーハラスメントのおかげで、事務も講師も離職が珍しくない! だが、誰かがやるべき仕事なのだ! たとえ会社の内外から、あるべからざる迷惑行為を受けても!」
こぶしを握って勢いよくまくし立てられる支店長の言葉に、私は少し聞きとがめるところがあった。
「会社の……内外、ですか? 外はともかく、なんで内から……?」
その疑問に答えてきたのは支店長ではなく、隣に座っている燎火だった。
「これは裏界だけでなく、現世でもそうなんだけどよ。職業訓練てやたら運営に手間がかかる割に、それだけで会社がやっていけるような、ざくざく儲かる仕事じゃねえんだ」
「それは……原資が税金だもんね。あんまり儲かるようじゃ、おかしいのは分かるよ」
「だろ。だからたいてい、ほかに本業を持ってる会社が、空いてる建物とか会議室とかを利用して開講するんだよ。就妖社なら派遣業で、おれだってもともとはその営業だ」
まだ、私のかしげた首は戻らない。
「それが……なんで問題になるの?」
「本業側に勤めてる人間に、職業訓練の仕事をしてる職員を見下すやつがちらほらいるんだ。自分の仕事は会社のメイン、訓練はサブ。そういう意識がある。本業に誇りを持ってるやつほど、職業訓練なんて会社にとって不要で、手間と人手ばかりかかる不愉快な部署だと見ることもある。うちもそうだったぜ。だいぶよくなったけどな」
「それは燎火の働きぶりのおかげだねえ! 理不尽な冷遇に対して仕事で見返すとは、労働者の鏡だよ!」と、ようやく目の焦点がこちらと合った支店長が手を差し伸べながら言う。
「燎火も……そんなふうに見られてたの?」
燎火は肩をすくめた。
「んー、職業訓練の部署に移ったことを左遷扱いだと見られることが多かったし、嘲笑や陰口くらいはよく叩かれてたな。おれは腕っぷしが社内でも最強級に強いから、正面切って言われないだけで、そういう空気は確実にあった。心配しなくても、今はもう有栖をそんな目には遭わせねえから……なんだよ、目つきが怖いぞ」
「あっ、なっ、なんでもない。私のことなんて、別にいいんだけど」
燎火の腕っぷしが強いから、嘲笑や陰口で済んでいた。……それでも、充分たちが悪い。じゃあ、燎火が強くなかったら?
それを思うと、燎火が――妖怪が強さにこだわる理由も少し分かる。私が思う以上に、裏界では、強さの差が生きやすさの違いに直結しているのかもしれない。
……それにしたって、仕事の内容の違いで、燎火を社内の人が見下すとか見下されるとか、そんなの……。
「心配するな古兎さん! わたくしがいる限り、内だろうが外だろうが不遜な真似は許さん! 我が斬鉄丸は、常に血に飢えておるわ!」
「……斬鉄丸……?」
半眼で木製ハリセンを見る私に、燎火が耳打ちした。
「今のところ、実際にあれが振るわれたことはない。こだわりの能登ヒバでできてるから、そんなもんでなにかをぶっ叩くなんてことそうそうしねえよ。小学生が木の棒振り回して髭切の太刀だーとか言ってるのと変わらん」
「あ……そう……」
ヒゲキリノタチなんてものを掲げる小学生は見たことないな、などと考えていたせいで気の抜けた返事をする私に、燎火は、支店長の前だというのに堂々と言ってきた。
「有栖、一応言っておくぞ。やりがいや楽しさを見出すことはあっても、たかが一つの仕事だ。辞めたくなったらいつでも辞めろ。無理に耐えれば、有栖のほうがおかしくなる。ただでさえ人とじかに接する仕事は、ストレスの逃げ場がねえんだ。おれや支店長に遠慮せずに、すっぱり決断しろよな」
「あはは、なにそれ。心配しなくても、そんなにつらくなったら退職するよ」
「どうだかな。今さっきだって、自分の心配より先に、おれがどんな目に遭ってきたかを考えて怒ってたろ?」
うっ!?
「な、なんで燎火にそんなことが分かるの」
「さあて、なんででしょうねえ。とにかく、そういうところが心配なんだよ。自分の優先順位が低そうで」
自分の優先順位が低い……自分では、そう思えないけど。
「き……気をつけます」
「ぜひ。自分はいつでもほかに行ける場所がある、追い詰められてはいない、と思うだけでも、だいぶ違うぜ」
燎火が横顔で笑う。
うっとりとハリセンを見つめている支店長をよそに、私は、お茶の入った紙コップを手に取る。
湯温は、ちょうど人肌くらいになっていた。
鮮やかな香りと、心地よい深い味わいが、にぎやかながら穏やかな昼休みに似合っていた。
教室の後ろのドアに開いたガラス窓から中を見ると、生島さんは懸命にタイピングに打ち込み、ちゃんと授業を受けていた。滝じいさんも、進行がしやすそうだ。
燎火が小さな声で、やったな、と言ってくる。私も、うん、と小さくうなずいた。
事務所に戻ると、デスクワークに取り掛かる。
燎火にコーヒーを入れて持っていこうかと思ったけど、小休止でのコーヒーブレイク以外の時は自分の分だけ入れるようにしよう、とやんわり断られた。
それに燎火いわく「戦闘能力で人間を上回るおれが有栖にコーヒーを入れてやるのは親切だが、逆におれが入れてもらうのは気が引ける」らしい。
腕力が親切の基準になるっていうのは、私としては違和感があるのだけど、ここは燎火の価値観を尊重することにした。
妖怪は妖怪の基準のもとに、いろいろ考えているものなんだ。
……まあ、戦闘能力云々については、燎火だけかもしれないけど。そういえば彼は昔から野良の妖怪とけんかすることは多くて、強い弱いに関しては結構こだわっていたほうだったな。
お昼休み、燎火と二人で会社の屋上に出た。
人間はみんなお昼に食事をするけど、妖怪の職員は、お昼ご飯を食べるかどうかはまちまち。
この日の屋上には、私たちだけしかいなかった。
つるつるに磨き上げられた明るい色の木製ベンチがあるので、燎火と並んで座る。
飲み物は、コーヒーではなくお茶にした。
聞いた話では、ドリップバッグのコーヒーよりもこのお茶のほうが一杯当たりの単価が高いらしい。
給湯室には、適温で入れられるように湯温計まで置いてあるし、蛇口に浄水器がついているのにミネラルウォーターのボトルも冷蔵庫に完備されている。
黒芙蓉支店長からは「好き好んでいい茶を買っているんだから、何杯でも飲むがいい!」と言われているけど、私は一日に一杯までにしていた。
私はサンドイッチ、燎火は丸く握ったおむすびの昼食を済ませ、くだんのお茶を飲んでいたら、生島さんの話になった。
「生島さんな、人間に愛着が湧いて現世で人間として過ごしてきたんだが、長く努めてきた工場が業績不振で、リストラ寸前で早期退職したらしい。上司が、少しでも手元に金が残る形で辞めさせてくれたんだとよ」
「そうなんだ……。他人事とは思えないなあ……」
もっとも、働いた期間も仕事の重さも、私とは大違いなのだろうけど。
「その時リストラ対象に挙がった理由の一つに、ベテランなのにパソコン一つまともに使えないってのがあったそうだ。それもあって、ハローワークでここの訓練を勧められたと。次の就職で、役に立つといいよな」
「うん。最近、どんな仕事でも、PCで基本的な入力くらいできないとって感じだもんね」
「ところで、有栖。生島さんと、子供――子狸か?――の頃の話なんてしたのか?」
したというか、私が生島さんのことを聞いただけなのだけど。
そう答えると、燎火が、それでかと微笑んだ。
「生島さんな、会社を辞めて、人間社会での地位も立場もなくして、毎日やることもなくなって、穴倉の中で震えてた子供のころみたいに無力になったと思ったんだってよ。だから、つい無理を言って甘えちまったのかもしれんとさ。有栖に、そう謝っておいてくれって言われた」
「謝ることなんてないのに……」
それは本当にそう思う。誰だって弱気になることがあって、そういう時に、自分ひとりの力で立ち直るのは意外に難しい。
生島さんが悪いほうに行かなくて済んだなら、よかった。
下手をしたら、最初はあの程度のレジスタンス――だかなんだか――でも、その後どんどん悪化してしまったかもしれないのだから。
「これが、燎火が言ってた、小さな奇跡ってことなのかな……。もしそうなら、これからも、時々でも起こしてみたいな」
裏界の、曇っているのに明るい空を見上げながら、そんなことを口にした。
隣にいる燎火が無言だったので、恥ずかしいことを言ってしまったから絶句されているのかと思って、そちらを見た。
燎火も私を見ていた。
「ど、どうしたの?」
風が吹く。
「見とれていただけだ」
「え? なに、風でよく聞こえな」
「よおくぞ言ってくれた、古兎さああああん!」
いきなり後ろから、そんな叫び声がした。
「きゃああっ!?」と悲鳴を上げながら振り向くと、私たちの背後にメートルほどのところに、黒芙蓉支店長が立っている。手に木の板の束――ハリセンを持って。
「な、なにかっ!? 私なにか言いましたっけ!? というかいつからそこに――」
私の後半の質問については、支店長はまったく耳に入っていないようで。
「奇跡! その通りだよ、そのささやかな奇跡の積み重ねが見たくて、わたくしたちはこの仕事をしているんだ! 正直言って裏界の訓練校には、どうしようもない生徒はわんさか来る! カスタマーハラスメントのおかげで、事務も講師も離職が珍しくない! だが、誰かがやるべき仕事なのだ! たとえ会社の内外から、あるべからざる迷惑行為を受けても!」
こぶしを握って勢いよくまくし立てられる支店長の言葉に、私は少し聞きとがめるところがあった。
「会社の……内外、ですか? 外はともかく、なんで内から……?」
その疑問に答えてきたのは支店長ではなく、隣に座っている燎火だった。
「これは裏界だけでなく、現世でもそうなんだけどよ。職業訓練てやたら運営に手間がかかる割に、それだけで会社がやっていけるような、ざくざく儲かる仕事じゃねえんだ」
「それは……原資が税金だもんね。あんまり儲かるようじゃ、おかしいのは分かるよ」
「だろ。だからたいてい、ほかに本業を持ってる会社が、空いてる建物とか会議室とかを利用して開講するんだよ。就妖社なら派遣業で、おれだってもともとはその営業だ」
まだ、私のかしげた首は戻らない。
「それが……なんで問題になるの?」
「本業側に勤めてる人間に、職業訓練の仕事をしてる職員を見下すやつがちらほらいるんだ。自分の仕事は会社のメイン、訓練はサブ。そういう意識がある。本業に誇りを持ってるやつほど、職業訓練なんて会社にとって不要で、手間と人手ばかりかかる不愉快な部署だと見ることもある。うちもそうだったぜ。だいぶよくなったけどな」
「それは燎火の働きぶりのおかげだねえ! 理不尽な冷遇に対して仕事で見返すとは、労働者の鏡だよ!」と、ようやく目の焦点がこちらと合った支店長が手を差し伸べながら言う。
「燎火も……そんなふうに見られてたの?」
燎火は肩をすくめた。
「んー、職業訓練の部署に移ったことを左遷扱いだと見られることが多かったし、嘲笑や陰口くらいはよく叩かれてたな。おれは腕っぷしが社内でも最強級に強いから、正面切って言われないだけで、そういう空気は確実にあった。心配しなくても、今はもう有栖をそんな目には遭わせねえから……なんだよ、目つきが怖いぞ」
「あっ、なっ、なんでもない。私のことなんて、別にいいんだけど」
燎火の腕っぷしが強いから、嘲笑や陰口で済んでいた。……それでも、充分たちが悪い。じゃあ、燎火が強くなかったら?
それを思うと、燎火が――妖怪が強さにこだわる理由も少し分かる。私が思う以上に、裏界では、強さの差が生きやすさの違いに直結しているのかもしれない。
……それにしたって、仕事の内容の違いで、燎火を社内の人が見下すとか見下されるとか、そんなの……。
「心配するな古兎さん! わたくしがいる限り、内だろうが外だろうが不遜な真似は許さん! 我が斬鉄丸は、常に血に飢えておるわ!」
「……斬鉄丸……?」
半眼で木製ハリセンを見る私に、燎火が耳打ちした。
「今のところ、実際にあれが振るわれたことはない。こだわりの能登ヒバでできてるから、そんなもんでなにかをぶっ叩くなんてことそうそうしねえよ。小学生が木の棒振り回して髭切の太刀だーとか言ってるのと変わらん」
「あ……そう……」
ヒゲキリノタチなんてものを掲げる小学生は見たことないな、などと考えていたせいで気の抜けた返事をする私に、燎火は、支店長の前だというのに堂々と言ってきた。
「有栖、一応言っておくぞ。やりがいや楽しさを見出すことはあっても、たかが一つの仕事だ。辞めたくなったらいつでも辞めろ。無理に耐えれば、有栖のほうがおかしくなる。ただでさえ人とじかに接する仕事は、ストレスの逃げ場がねえんだ。おれや支店長に遠慮せずに、すっぱり決断しろよな」
「あはは、なにそれ。心配しなくても、そんなにつらくなったら退職するよ」
「どうだかな。今さっきだって、自分の心配より先に、おれがどんな目に遭ってきたかを考えて怒ってたろ?」
うっ!?
「な、なんで燎火にそんなことが分かるの」
「さあて、なんででしょうねえ。とにかく、そういうところが心配なんだよ。自分の優先順位が低そうで」
自分の優先順位が低い……自分では、そう思えないけど。
「き……気をつけます」
「ぜひ。自分はいつでもほかに行ける場所がある、追い詰められてはいない、と思うだけでも、だいぶ違うぜ」
燎火が横顔で笑う。
うっとりとハリセンを見つめている支店長をよそに、私は、お茶の入った紙コップを手に取る。
湯温は、ちょうど人肌くらいになっていた。
鮮やかな香りと、心地よい深い味わいが、にぎやかながら穏やかな昼休みに似合っていた。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる