自分らしく居られる場所を

親の目を盗んで

文字の大きさ
1 / 20
序章

プロローグ

しおりを挟む
ここは神達にすら認知されていない世界、『レリーズ』。地球と似たような生態系で、人間だっているが、確かに違うものもある。そんな世界。

『レリーズ』には多くの国があり、その一つに『グランドポート王国』がある。そして、その首都にひときわ大きな屋敷があった。

「おい!ぐずぐずするな!早く茶を持ってこい!」

まだ二桁にも届かない程度の年の少年が犬の獣人のメイドに怒鳴りかけている。

「は、はいぃ。」

そのメイドは新人のようで、年もまだ成人していないようだ。たどたどしい手つきで紅茶を淹れている。

「ふん、下賤な者が俺様に仕えられるのだ。命を懸けて仕事をするのが道理だろう?」

少年の名は『レイ・アドバンス』。アドバンス公爵家の跡取りであり、『神童』と人々から呼ばれている天才である。

…が、幼き頃より甘やかされ、何をしてもうまくいくという才能は彼を腐らせた。そのことも他の貴族どころか、民衆の間ですら有名であった。

「あ、あの、お茶です。」

緊張で顔を真っ青にしたメイドが彼の目の前に紅茶のカップを置く。

そして、メイドが後ろに下がろうとした瞬間、彼女はつまずき、ティーポットを落としてしまった。

「ああっ」

「ッ」

…百歩譲って、それだけならまだよかった。多少のお小言と、掃除。最悪、解雇されるかもしれないが、命までは取られないだろう。

だが、彼女は見てしまった。それを見た瞬間、彼女は自分の血の気が引く音を聞いた気がした。

おそらくティーポットの破片が飛んだのだろう。自分の主人である少年の右手の甲に切り傷ができている。

「あ、ああ…」

彼女は頭が真っ白になり、体が硬直し、謝罪すらもできないでいた。

少年の手から血が垂れる。

彼は驚いていた。生まれてからこの十年間、怪我という怪我はしたことがなかった。自分の血を見るのは初めてだった。

そのはずだ。

…本当にそうか?何かがおかしい。

「お、俺は…違う、これは俺じゃない!」

少年は叫ぶ。

「ヒッ!」

パニックになっていたメイドはその怒声に悲鳴を上げ、全身を震わせる。


この場には、魂があった。

メイドに一つ。少年に二つだ。

少年は生まれつき、その体に二つの魂を持っていた。

だが、それは本来ありえないことである。あったとしても、その人格は破綻しているだろう。

だが、今まで『レイ・アドバンス』として活動していた魂と、もう一つ。その魂はそれまで活動していなかったため、奇跡的にそんなことは起こらなかったのだ。

それほど、それらの魂の経験は似ても似つかなかった。この十年、その魂があることの違和感を感じることすらなかった。

『レイ・アドバンス』は自分の血を見たことが無いはずだ。だが、彼の中には確かに自分が血を流していた記憶がある。

だが、それは『レイ・アドバンス』のものではなかった。今まで眠っていた魂の、その前世の記憶である。

二つの魂にその記憶が共有された。

それは二つの魂につながりができたため。たった一滴の血が、二つの魂を一つにしたため。

もう、『レイ・アドバンス』はいない。そして、彼の内側に眠っていた『日本人』もいない。

そこにあるのは一つの魂。そのどちらよりも強く、大きな魂。

二人の記憶を引き継いだ、新しい『ナニカ』が生まれてしまった。

魂同士が融合するなど、あり得ない。なぜそうなったのか、誰も知らない。わからない。

だが、それにより世界が悲鳴を上げ、次元が歪む。それは瞬間的に現在と未来を繋げた。

彼と、その近くにいた者は知ることになった。未来を。自分の身に何が起きるのかを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

処理中です...