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序章
レイ・アドバンスという少年
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レイ・アドバンス
彼は見た。今から八年後、自分が十八歳の時、自分が処刑される様を。そしてそれまでの経緯を。
メイドは見た。自分がこれからどうなるのかを。目の前にいる少年に残虐な拷問をされ、殺されるのを。
彼は、メイドは恐れた。
そして、片やそれを認めず、抗うことを誓い、片やそれを受け入れ、絶望する。
「おい。」
少年はメイドに呼びかける。メイドにとっては、それは死神の笑い声にすら聞こえた。
「は、はぃ。」
彼女はもう全て諦め、せめて痛くないといいなと思っている。
「この国で一番強いやつを連れて来い。」
「はい。…え?」
もう逆らう気もない娘は返事をする。だが、予想外の言葉に彼女は混乱する。
「いいから、父上に伝えろ。…殺されたいのか?」
少年のその言葉と殺気で冷や水を頭からかぶせられたような思いをしたメイドは、震える足ですぐに立ち上がり、
「ひゃ、はい!た、直ちに!」
メイドは当主様がいるであろう執務室に走っていった。
「この俺が、決闘で、負ける、だと?そんなことがあってたまるか。俺は『神童』だぞ?」
誰にも負けたことのない『レイ・アドバンス』はそう言った。だが、そんな未来が見えたのだ。
そして、もう一人の記憶の中の『自分』は何度も負けていた。
「世界は、広いのだな。」
少年、レイ・アドバンスはぼそりとつぶやいた。
彼は今、地面に大の字になって横たわっている。なにも好きになってそうなっているのではなく、目の前の人物に手合わせをして、完膚なきまでに負けたからだ。
「そりゃ、そうさ。ずっと引きこもってる坊ちゃんには、わからんだろうがな。」
そのつぶやきに答えたのが『エルロンド・ミラー』だ。
彼は『最強の傭兵』という二つ名を持っている。アドバンス公爵が長期的に彼を雇っているため、幼い頃より顔見知りではあった。
「エルロンド・ミラー。貴様、言葉が過ぎるのではないか?」
レイは立ち上がり、怒気を孕んだ声でその男を睨む。
「謝罪してほしければ、一本取ってみることですよ?」
「ふん。」
再び、二人の模擬戦用の剣がぶつかる。
その日の夕暮れ
二人の手合わせはまだ続いていた。。
「な、なあ、坊ちゃん?いつまで、続けるんですかい?こちとら、もう魔力がないんですが…」
もうかれこれ休憩無しで五時間通して行われていたのだ。それも、最後の方はかなり際どい戦いであった。
「む、『最強の傭兵』とはこの程度か?俺の魔力はまだまだ残っているぞ?…と言いたいところだが、この状態のお前に勝っても何の自慢にもならん。なら明日、日の出とともに再開だ。遅れるなよ。」
レイはそう言い残し、立ち去った。
「え、マジかよ…」
最強の傭兵エルロンドが弱音を吐いたのはいつぶりだろうか。
「だがしっかし、あの努力する必要もないような『神童』様がどうしてまたこんな事…」
レイの剣は見事だった。十歳とは思えないほどの速さ。そして何より重かった。常時強力な身体強化魔法を使い続けていたのだろう。恐ろしい魔力量だ。
それもそうだ。魔力量は魂の大きさによって決まる。レイ・アドバンスの魂はもともと大きかったが、そこに規格外の大きさの『日本人』の魂と融合したのだ。
さらに、その魂はとても強いものになった。魂は強ければ強いほど魔力の生産力は上昇する。体が壊れない程度の強化倍率の身体強化魔法より、生産力の方が上回っていた。
…だが、それだけだ。剣術自体は拙いものだった。あれで自分は倒せない。
エルロンドはしばらく考えたが、何かの気まぐれだろう。どうせ長くは続くまい。そう結論付けた。
それは半分正解で、半分間違いであった。確かに二人の手合わせは明日で終わることになる。だが、それは誰も予想だにしていない結果になる。
…レイ・アドバンスを除いて。
あいつと手合わせして分かった。今の俺には二つの武術が混在してしまっている。
一つは『アドバンス流剣術』。レイ・アドバンスが父の剣を見て覚え、独自に改良したものである。
もう一つは『合気道』。眠っていた『日本人』の経験と記憶に、より濃密に存在していたもの。
アドバンス流剣術は攻めの型が多い。合気の術とは合わない。
…いや、古くから受け継がれてきた技術、型は無意味なものではない。それどころか、とても合理的ですらある。
その二つの武術を一つに落とし込むなど、一朝一夕ではできない。
だが、そこにいたのは『神童』。既に大体の構成はできていた。あとは、実戦で粗を落とすのみだ。
次に魔法だ。『神童』たる俺は全ての属性の魔法を使う事ができる。
だが、それが原因で負けたまである。魔法が発動するまでが遅い。それは手札が多いから起きることである。
…最も得意な風属性を中心に鍛えていくか。
『日本人』の記憶がある。風魔法で気圧を下げれば誰であっても死ぬだろう。だがそれでは、それだけではだめだ。
「…『風装』」
自分の体に緑色の魔力を纏う。
成功だ。これで風の抵抗は自在。より自由に動けるだろう。身体強化魔法と併用すれば人間とは思えないような動きすらできるだろう。
そもそも魔法には、その属性ごとの習熟度と呼ばれるものがある。
魔法を行使するには、魔力を魂から肉体に取り出すというプロセスが必要になる。肉体には属性ごとの魔力抵抗があるため、この過程で魔法の行使に大きなロスができる。
だが、魔法を行使するたびに、その属性の魔力が少しずつ肉体に馴染み、消費魔力が小さくなるのだ。
消費魔力が小さく済むと、魔法の発動までの時間も短くなる。
そのため、複数の属性の魔法を使える者でもメインの属性は決まっているのだ。
レイは『風装』を解除せず、風属性の魔力を肉体に詰め込み続けながら睡眠をとった。
彼は見た。今から八年後、自分が十八歳の時、自分が処刑される様を。そしてそれまでの経緯を。
メイドは見た。自分がこれからどうなるのかを。目の前にいる少年に残虐な拷問をされ、殺されるのを。
彼は、メイドは恐れた。
そして、片やそれを認めず、抗うことを誓い、片やそれを受け入れ、絶望する。
「おい。」
少年はメイドに呼びかける。メイドにとっては、それは死神の笑い声にすら聞こえた。
「は、はぃ。」
彼女はもう全て諦め、せめて痛くないといいなと思っている。
「この国で一番強いやつを連れて来い。」
「はい。…え?」
もう逆らう気もない娘は返事をする。だが、予想外の言葉に彼女は混乱する。
「いいから、父上に伝えろ。…殺されたいのか?」
少年のその言葉と殺気で冷や水を頭からかぶせられたような思いをしたメイドは、震える足ですぐに立ち上がり、
「ひゃ、はい!た、直ちに!」
メイドは当主様がいるであろう執務室に走っていった。
「この俺が、決闘で、負ける、だと?そんなことがあってたまるか。俺は『神童』だぞ?」
誰にも負けたことのない『レイ・アドバンス』はそう言った。だが、そんな未来が見えたのだ。
そして、もう一人の記憶の中の『自分』は何度も負けていた。
「世界は、広いのだな。」
少年、レイ・アドバンスはぼそりとつぶやいた。
彼は今、地面に大の字になって横たわっている。なにも好きになってそうなっているのではなく、目の前の人物に手合わせをして、完膚なきまでに負けたからだ。
「そりゃ、そうさ。ずっと引きこもってる坊ちゃんには、わからんだろうがな。」
そのつぶやきに答えたのが『エルロンド・ミラー』だ。
彼は『最強の傭兵』という二つ名を持っている。アドバンス公爵が長期的に彼を雇っているため、幼い頃より顔見知りではあった。
「エルロンド・ミラー。貴様、言葉が過ぎるのではないか?」
レイは立ち上がり、怒気を孕んだ声でその男を睨む。
「謝罪してほしければ、一本取ってみることですよ?」
「ふん。」
再び、二人の模擬戦用の剣がぶつかる。
その日の夕暮れ
二人の手合わせはまだ続いていた。。
「な、なあ、坊ちゃん?いつまで、続けるんですかい?こちとら、もう魔力がないんですが…」
もうかれこれ休憩無しで五時間通して行われていたのだ。それも、最後の方はかなり際どい戦いであった。
「む、『最強の傭兵』とはこの程度か?俺の魔力はまだまだ残っているぞ?…と言いたいところだが、この状態のお前に勝っても何の自慢にもならん。なら明日、日の出とともに再開だ。遅れるなよ。」
レイはそう言い残し、立ち去った。
「え、マジかよ…」
最強の傭兵エルロンドが弱音を吐いたのはいつぶりだろうか。
「だがしっかし、あの努力する必要もないような『神童』様がどうしてまたこんな事…」
レイの剣は見事だった。十歳とは思えないほどの速さ。そして何より重かった。常時強力な身体強化魔法を使い続けていたのだろう。恐ろしい魔力量だ。
それもそうだ。魔力量は魂の大きさによって決まる。レイ・アドバンスの魂はもともと大きかったが、そこに規格外の大きさの『日本人』の魂と融合したのだ。
さらに、その魂はとても強いものになった。魂は強ければ強いほど魔力の生産力は上昇する。体が壊れない程度の強化倍率の身体強化魔法より、生産力の方が上回っていた。
…だが、それだけだ。剣術自体は拙いものだった。あれで自分は倒せない。
エルロンドはしばらく考えたが、何かの気まぐれだろう。どうせ長くは続くまい。そう結論付けた。
それは半分正解で、半分間違いであった。確かに二人の手合わせは明日で終わることになる。だが、それは誰も予想だにしていない結果になる。
…レイ・アドバンスを除いて。
あいつと手合わせして分かった。今の俺には二つの武術が混在してしまっている。
一つは『アドバンス流剣術』。レイ・アドバンスが父の剣を見て覚え、独自に改良したものである。
もう一つは『合気道』。眠っていた『日本人』の経験と記憶に、より濃密に存在していたもの。
アドバンス流剣術は攻めの型が多い。合気の術とは合わない。
…いや、古くから受け継がれてきた技術、型は無意味なものではない。それどころか、とても合理的ですらある。
その二つの武術を一つに落とし込むなど、一朝一夕ではできない。
だが、そこにいたのは『神童』。既に大体の構成はできていた。あとは、実戦で粗を落とすのみだ。
次に魔法だ。『神童』たる俺は全ての属性の魔法を使う事ができる。
だが、それが原因で負けたまである。魔法が発動するまでが遅い。それは手札が多いから起きることである。
…最も得意な風属性を中心に鍛えていくか。
『日本人』の記憶がある。風魔法で気圧を下げれば誰であっても死ぬだろう。だがそれでは、それだけではだめだ。
「…『風装』」
自分の体に緑色の魔力を纏う。
成功だ。これで風の抵抗は自在。より自由に動けるだろう。身体強化魔法と併用すれば人間とは思えないような動きすらできるだろう。
そもそも魔法には、その属性ごとの習熟度と呼ばれるものがある。
魔法を行使するには、魔力を魂から肉体に取り出すというプロセスが必要になる。肉体には属性ごとの魔力抵抗があるため、この過程で魔法の行使に大きなロスができる。
だが、魔法を行使するたびに、その属性の魔力が少しずつ肉体に馴染み、消費魔力が小さくなるのだ。
消費魔力が小さく済むと、魔法の発動までの時間も短くなる。
そのため、複数の属性の魔法を使える者でもメインの属性は決まっているのだ。
レイは『風装』を解除せず、風属性の魔力を肉体に詰め込み続けながら睡眠をとった。
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