自分らしく居られる場所を

親の目を盗んで

文字の大きさ
11 / 20
一章

衝突

しおりを挟む
クラリスはその乱入者が自分の幼馴染だと知り、驚愕した。そして、なぜレイを攻撃したのか分からなかった。

アレンは正義感の強い男である。見知らぬ人間を急に攻撃するような人間ではないはずだ。

「お前!クラリスから手を放せ!この悪党が!」

アレンはレイを睨みつける。

「…」

「アレン、やめて!」

クラリスはレイの前に出て、守るように立つ。

「クラリス!?なんでそんな奴を庇うんだ!そいつは悪党だ!俺はそいつが女の子を攫っていったのを見たんだぞ!?」

アレンは決して間違いではないことを言った。

「え?…それは、レイさん、本当なんですか?」

クラリスは後ろにいるレイの方を振り返る。

「む、攫った…といえば、攫ったことになる、のか?まあ、彼女は自分で選んで俺についてくること決めたんだ。無理矢理ではないさ。」

レイは二人に向けてそう言った。

「嘘だ!あの子は助けてって言ってた!」

「その後、少し話をして、そのまま帰るか俺に雇われるかを決めさせただけだ。選択は与えたぞ?」

「戯言を!」

アレンはもはや冷静な状態ではなかった。アレンは土魔法を発動させ、レイの足元を隆起させ、その隙を狙って攻撃する。

「いったん寝てろ。」

レイは隆起した地面の勢いを流し、その力を利用し、アレンに急接近する。そして、その勢いのままアレンの腹に一撃を入れる。

魔法は一切使われていない。全て技術だ。

「がはっ!?」

アレンは地に伏せる。だが、まだ意識はあるようだ。

「く、くそ、このぉ…」

アレンは再び起き上がろうとし、本気の魔法を目の前の男に向ける。

その瞬間、アレンに、文字通り冷や水がかけられる。

水魔法で空中にできた水球が自由落下でアレンの頭部にぶつけられた。

アレンはその魔法が、自分の幼馴染が行使したものだと分かった。

「え、クラリ…」

「もう、やめてください。こんなあなた、見たくありませんでした。」

クラリスは涙ながらに、しかし何かを決意したような目をしていた。


アレンは立ち上がれなかった。目の前の少女が魔力切れで倒れようとしても。そして、その体を憎むべき男が受け止めたとしても、声一つ、発することができなかった。

「アレン、これが答えだ。」

レイはそう言い、クラリスを抱き上げ、村に向かう。

「ま、待て、やめてくれ。クラリスは、俺の…」

レイは何かを言っているアレンを無視した。



ザワザワ、ガヤガヤ…

「だから、あの子がまだ帰ってきていないんだ!薬草採取をしているときに何かあったのかもしれん。みんな手分けして探しているが…」

「クラリス~!どこだ~!返事してくれぇ。」

近づいてみると、村はずいぶんと騒がしくなっているようだ。それも、クラリスを探してのことのようだ。

「あ!クラリスおねえちゃんいた!」

幼い少女がレイの方を指さし、そう言った。

「え!?」
「どこだどこだ!?」

それを聞いた数人がこちらにやってくる。

「失礼ですが、あなたは、どちら様ですかな?」

「そ、村長…」

どうやら村長らしい、中年の男性が尋ねてきた。

「俺はレイ。Sランク冒険者だ。依頼中、魔物に襲われていたこの娘を見かけたのでな。…それより、村長よ。話がしたい。人目のつかないところに案内してくれ。」

「え、Sランク…わ、わかりました。では、私の家にご案内します。」

村長はこの村で一番立派な建物に向けて歩き出す。



「レイ様、クラリスを助けてくださって、ありがとうございます。」

ここは村長の家。レイと村長は対面に座り、クラリスは横に寝かせてある。

村長はレイが座った瞬間、頭を下げ、レイに感謝を伝えた。

「ああ、それはもう分かった。…改めて自己紹介しよう。俺はSランク冒険者ではあるが、それは裏の顔だ。俺の本名はレイ・アドバンス。アドバンス公爵家現当主だ。」

「っ!?…こ、公爵様とは知らず、数々の無礼を、どうかお許しください。」

さすがは村長といったところか。普通の人間では固まっているだろう。

「そ、それで、なぜ公爵様がこのような村に?」

村長はある可能性が頭によぎったが、それを振り払おうと必死であった。

「…クラリスの体質についてだ。」

レイはそう言った。

「!!」

「もう既にほとんどの貴族の知るところとなっている。そのうち手を出してくるだろう。」

「そ、そんな…」

村長は親のいないクラリスを実の娘のように育て、愛してきた。その上でこの事実を知らされるのは酷だろう。

「…それと、前当主からの指示だ。後日、俺はクラリスを妾として迎える。」

「っ!?」

村長は自分の耳を疑った。まさか公爵家までクラリスを狙っているとは思ってもいなかったのだ。

「クラリスの身の安全は保障しよう。もちろん、村にもそれなりの報酬を用意しよう。…どうだ?」

「…」

公爵家の当主からの指示だ。断れるはずもない。それでも、村長の中には確かな葛藤があった。

「…はい。どうか、クラリスをお願いします。」

村長が何とか絞り出した言葉。最後までクラリスのことを思い続けたのだろうことが分かる。

「ああ、わかっている。だが、『後日』と言っただろう?正式に迎えに来るのはまだ先だ。」

「っ、はい。そうでした。申し訳ありません。」

村長は自分があまりにも必死だったことを知り、自分に落ち着くよう努めた。

「村長には頼みごとがある。」

レイは話を進める。

「はっ、何なりと。」

村長はもちろん、こう言うしかないのだ。

「俺がクラリスを迎えに来るまでの間、他の男を近づけさせるな。妙な虫がつかぬよう対処しておけ。」

「っ!!…はい、わかりました。」

村長は一瞬、アレンの顔を思い浮かべ、頭の中で彼に謝罪した。

「よし、これはその依頼料だ。成功すればこの倍をさらに追加しよう。」

レイは金貨の袋をとこからともなく取り出す。無属性魔法『ストレージ』だ。

「な!?こ、こんなにも、よろしいので?」

「ああ。だが、失敗は許さん。」

レイは軽く圧をかける。

「は、はい!」

「よし、それではもう行く。俺は忙しい身なのでな。」

レイはそう言い残し、村長の家から、村から立ち去った。

村長の家には、緊張が解けへたりこんだ村長と、耳まで真っ赤にしてパニックになっているクラリスの姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...