自分らしく居られる場所を

親の目を盗んで

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二章

アレンとクラリス

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「っ!?誰ですか?」

クラリスは急な事態にもかかわらず、冷静であった。魔物に襲われかけたことが影響しているのだろうか。

「ああ、よかった。本当に無事だった。…クラリス、俺だ。アレンだよ。」

アレンは心底安心したようで、クラリスに歩み寄ろうとする。

「来ないでください!」

クラリスはアレンから距離を取り、手をかざす。…もっとも、攻撃魔法はまだ使えないのだが。

「え、ど、どうしたんだ!?俺はアレンだって!子供の頃から一緒だっただろ!?」

クラリスにそんな態度をとられたアレンは、クラリスが自分がアレンだと気づいていないのだと思った。…しかし、

「そんなことは分かっています。ですが、こんな時間に女性の部屋に侵入するなんて、いくら幼馴染でも許されることではありません。」

その言葉でアレンは自分が浅はかだったと自覚した。そしてクラリスに何か変わったことも無いと分かり、安心していた。

(馬鹿みたいだな、俺。心配することなんて何も…)

「それに、村長から私に近づくなと言われませんでしたか?」

クラリスがアレンに問いかける。

「え?…いや、そんなことは言われなかったけど。」

クラリスは、それが村長の優しさだと分かってはいたが、自分の口から伝える方が酷だろうと思った。だが、クラリスはそれを承知で話す。

「公爵様は私を気に入ってくださいました。…なので、あの人が私を迎えに来てくださるまで、あなたとは会えません。」

クラリスは淡々と、そして冷たく言い放つ。

「ど、どういうことだ!?…公爵?一体、何の話なんだ?」

アレンは急な話の展開についていくことができていなかった。

そして、クラリスは畳みかけるように続けて述べる。

「公爵様がオークに襲われていた私を助けてくださり、村まで送っていただいたのです。…もっとも、あなたはその公爵様を攻撃したのですが。」

「…は?え、いや、まさか、あの悪党が公爵なのか?」

アレンはようやく理解が追いついたようだ。

「あの方は悪党ではありません!少し変わった人ですが、あなたが思っているような人間ではないです!」

クラリスは温厚な性格だ。アレンは彼女が怒鳴るなど、見たこともなかった。

「やっぱり、君はあいつに騙されているんだ!君はそんな人間じゃなかったはずだ!また魔法を使おうとして、無茶してるじゃないか!…もう、心配させないでくれ。」

アレンはそう言う。必死なのだろう。だが、彼はクラリスに向けて言ってはいけないことを言った。…もう取り返しはつかない。

「ふざけないでください!私に、あなたの理想を押し付けないでください!…それに、私が何をしようと、あなたには関係のない話じゃないですか!」

クラリスは、アレンが自分の変化に気が付いていないと分かった。…いや、彼はずっと『理想の私』を見ていたのだろう。レイのように、『今の私』を見て、肯定してはくれないのだろう。

「関係ないわけじゃないか!俺は、俺は、ずっと…君のことが好きなんだ。」

アレンはずっと胸の内に秘めていた思いを打ち明けることにした。

「私のことが好き?あなたがですか?」

クラリスはアレンに問う。

「う、うん。」

「笑わせないでください!…あなたが、今の私の何を知っているというんですか!」

「え?」

アレンはそのクラリスの一言の意味が分からなかった。

「なんだ!?どうした、クラリス!…っ!?アレン!お前、クラリスに近寄るな!」

さすがに二人が大声で言い争いをしていたらばれるだろう。村長がクラリスの部屋に入ってきた。

そして、アレンは村長に引っ張られるが、もちろん抵抗する。

「やめてくれ、村長!俺は…」

「アレン」

クラリスはアレンの声を遮る。

「もう二度と、来ないでください。」

「え…」

アレンは村長に引っ張られ、家の前に放り出される。

しかし、アレンは何の抵抗もしない。それどころか、他の村人がそれを見かけるまで、立ち上がりもしなかった。
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