自分らしく居られる場所を

親の目を盗んで

文字の大きさ
17 / 20
三章

再びのテラーズ村

しおりを挟む
季節は巡り、同年、冬。

レイとクラリスが出会って半年が過ぎた頃…

「よし。いくぞ、お前たち。」

レイはエルロンドとサーシャに短く告げる。

「おう。」

「うん。」

もちろん二人はそれに応じる。

三人は公爵家の家紋のついた、豪華な馬車に乗り込む。目指す場所は…

「御者、テラーズ村までだ。」

レイはそう言った。

さながら、未来で起こったことの再現のように。

馬車は進む。

…小石を踏んだのか、馬車が大きく揺れる。

雨雲が太陽を隠す。

雪が降り始める。

積もりはしない。…それも知っている。

さあ、これからどうなる?

……

…何も起こらない。

未来のレイはここで魔物を殲滅したはずだ。大規模で派手な炎の魔術で。

だが、魔物一匹に遭遇することなく、テラーズ村に着いた。

やはり、未来改変による修正力のようなものはそこまで強くないらしい。

少なくとも、辻褄の合わない、『ありえないこと』は起こらないようだ。

なぜなら、ここらの魔物は前日にエルロンドとサーシャによって殲滅されたからだ。

…それに、このレイを含む三人の存在だって脅かされていない。レイの見た未来での三人はここまでの強さを持ってはいなかった。

ひとえに、レイによる未来の確変のせいだ。

なら、もはやレイが処刑されることなど、決闘で負けることなどありはしない。

だがそれでもレイは油断しない。気を緩めなかった。過度な慢心は『神童』をも殺す。それはもはや、レイの心の中にこびりついてしまっているようだ。

死ぬのが怖いわけではない。ただ、自分が『自分』であることの証明が欲しかった。魂の融合が起きてから、『自分』が具体的に何なのか、分からなくなってしまった。

だが、自分が『レイ・アドバンス』であるならば、ここで逃げたりなどしない。

『自分』は、最高で、最強の『神童』なのだから。



アレンは、その並外れた聴力で馬車が走る音を村のはずれから聞いた。アレンは嫌な予感がした。


「おお、すげえ馬車だな。」

「お貴族様がいらっしゃったのか?」

「こんな村に…なんで?」

その豪華な馬車は村長の家の前に止まった。

そして、中から『アイツ』が出てきた。

むかつくほど整った顔、決して筋骨隆々ではなく、しかし確かに鍛えられており、無駄のない肉体。

その男はレイ・アドバンス。

アレンにとって、その男はどうしようもない程に憎しみの対象だった。

「ああああああああああ!」

アレンは半年前と同じように、しかし、比べ物にならないほどの速さで剣をレイに振るう。

「おっと、そうはさせねえぜ。」

そこに、馬車から降りてきた巨漢、エルロンドがその剣を弾く。

「動かないで。」

そしてサーシャはアレンの背後に回り、その首筋に短剣を添える。

「ッ!?き、君は…」

アレンはその少女が、かつて自分が救えなかった女の子であることに気づいた。

レイに攫われた後、彼女がどうなったのか、アレンはずっと心に残っていた。

(よかった。殺されてはいなかったみたいだ。けど…)

「無理矢理従わされているのか?なら、もうそんな奴に…」

アレンは説得を試みた。彼は本物の、正義に生きる者だ。そこに打算は無く、ただただ少女の身を案じての言葉だった。

しかし、その言葉はサーシャに届かない。届きようがない。貧民街で生きてきた彼女は綺麗ごとだけに意味はないと学んでいた。今の彼女にとって大切なことは、あの幼い三人に幸せになって欲しいということ。

そして、レイに従えばそれは叶えられる。目の前の男についていく利点は何一つなかった。

それに、彼女自身、今の生活を気に入っているのだ。毎日三食、美味しいものを食べられる。おやつだって食べていい。風呂にだって自由に入れるし、衣服も皆に可愛いものを着せられる。誘拐なども気にしなくていい、安全な環境。

なにより、あの三人の笑顔が毎日見られる。

今では、レイに感謝すらしているのだ。

「ボクは今の生活を捨てる気はない。…それに、『あなたには関係ないよ』。」

サーシャの辛辣な言葉。サーシャは静かに怒っていた。レイは変な人間だが、自分の恩人だ。よく知りもしない人に『そんな奴』呼ばわりされて黙ってはいられなかった。

「ッ!……そうか。君もそいつに騙されているんだね?」

アレンの胸中は穏やかではなかった。かつて、自分の最愛の幼馴染と同じことを言われたのだ。その時も、アレンの心はそれに耐えられなかった。

だから、全てはレイのせいだと思うことで心を守ってきた。

だが、それでも、その言葉はアレンにとってトラウマのようなものになっていた。

アレンは息を整え、剣を構える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...