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三章
再びのテラーズ村
季節は巡り、同年、冬。
レイとクラリスが出会って半年が過ぎた頃…
「よし。いくぞ、お前たち。」
レイはエルロンドとサーシャに短く告げる。
「おう。」
「うん。」
もちろん二人はそれに応じる。
三人は公爵家の家紋のついた、豪華な馬車に乗り込む。目指す場所は…
「御者、テラーズ村までだ。」
レイはそう言った。
さながら、未来で起こったことの再現のように。
馬車は進む。
…小石を踏んだのか、馬車が大きく揺れる。
雨雲が太陽を隠す。
雪が降り始める。
積もりはしない。…それも知っている。
さあ、これからどうなる?
……
…何も起こらない。
未来のレイはここで魔物を殲滅したはずだ。大規模で派手な炎の魔術で。
だが、魔物一匹に遭遇することなく、テラーズ村に着いた。
やはり、未来改変による修正力のようなものはそこまで強くないらしい。
少なくとも、辻褄の合わない、『ありえないこと』は起こらないようだ。
なぜなら、ここらの魔物は前日にエルロンドとサーシャによって殲滅されたからだ。
…それに、このレイを含む三人の存在だって脅かされていない。レイの見た未来での三人はここまでの強さを持ってはいなかった。
ひとえに、レイによる未来の確変のせいだ。
なら、もはやレイが処刑されることなど、決闘で負けることなどありはしない。
だがそれでもレイは油断しない。気を緩めなかった。過度な慢心は『神童』をも殺す。それはもはや、レイの心の中にこびりついてしまっているようだ。
死ぬのが怖いわけではない。ただ、自分が『自分』であることの証明が欲しかった。魂の融合が起きてから、『自分』が具体的に何なのか、分からなくなってしまった。
だが、自分が『レイ・アドバンス』であるならば、ここで逃げたりなどしない。
『自分』は、最高で、最強の『神童』なのだから。
アレンは、その並外れた聴力で馬車が走る音を村のはずれから聞いた。アレンは嫌な予感がした。
「おお、すげえ馬車だな。」
「お貴族様がいらっしゃったのか?」
「こんな村に…なんで?」
その豪華な馬車は村長の家の前に止まった。
そして、中から『アイツ』が出てきた。
むかつくほど整った顔、決して筋骨隆々ではなく、しかし確かに鍛えられており、無駄のない肉体。
その男はレイ・アドバンス。
アレンにとって、その男はどうしようもない程に憎しみの対象だった。
「ああああああああああ!」
アレンは半年前と同じように、しかし、比べ物にならないほどの速さで剣をレイに振るう。
「おっと、そうはさせねえぜ。」
そこに、馬車から降りてきた巨漢、エルロンドがその剣を弾く。
「動かないで。」
そしてサーシャはアレンの背後に回り、その首筋に短剣を添える。
「ッ!?き、君は…」
アレンはその少女が、かつて自分が救えなかった女の子であることに気づいた。
レイに攫われた後、彼女がどうなったのか、アレンはずっと心に残っていた。
(よかった。殺されてはいなかったみたいだ。けど…)
「無理矢理従わされているのか?なら、もうそんな奴に…」
アレンは説得を試みた。彼は本物の、正義に生きる者だ。そこに打算は無く、ただただ少女の身を案じての言葉だった。
しかし、その言葉はサーシャに届かない。届きようがない。貧民街で生きてきた彼女は綺麗ごとだけに意味はないと学んでいた。今の彼女にとって大切なことは、あの幼い三人に幸せになって欲しいということ。
そして、レイに従えばそれは叶えられる。目の前の男についていく利点は何一つなかった。
それに、彼女自身、今の生活を気に入っているのだ。毎日三食、美味しいものを食べられる。おやつだって食べていい。風呂にだって自由に入れるし、衣服も皆に可愛いものを着せられる。誘拐なども気にしなくていい、安全な環境。
なにより、あの三人の笑顔が毎日見られる。
今では、レイに感謝すらしているのだ。
「ボクは今の生活を捨てる気はない。…それに、『あなたには関係ないよ』。」
サーシャの辛辣な言葉。サーシャは静かに怒っていた。レイは変な人間だが、自分の恩人だ。よく知りもしない人に『そんな奴』呼ばわりされて黙ってはいられなかった。
「ッ!……そうか。君もそいつに騙されているんだね?」
アレンの胸中は穏やかではなかった。かつて、自分の最愛の幼馴染と同じことを言われたのだ。その時も、アレンの心はそれに耐えられなかった。
だから、全てはレイのせいだと思うことで心を守ってきた。
だが、それでも、その言葉はアレンにとってトラウマのようなものになっていた。
アレンは息を整え、剣を構える。
レイとクラリスが出会って半年が過ぎた頃…
「よし。いくぞ、お前たち。」
レイはエルロンドとサーシャに短く告げる。
「おう。」
「うん。」
もちろん二人はそれに応じる。
三人は公爵家の家紋のついた、豪華な馬車に乗り込む。目指す場所は…
「御者、テラーズ村までだ。」
レイはそう言った。
さながら、未来で起こったことの再現のように。
馬車は進む。
…小石を踏んだのか、馬車が大きく揺れる。
雨雲が太陽を隠す。
雪が降り始める。
積もりはしない。…それも知っている。
さあ、これからどうなる?
……
…何も起こらない。
未来のレイはここで魔物を殲滅したはずだ。大規模で派手な炎の魔術で。
だが、魔物一匹に遭遇することなく、テラーズ村に着いた。
やはり、未来改変による修正力のようなものはそこまで強くないらしい。
少なくとも、辻褄の合わない、『ありえないこと』は起こらないようだ。
なぜなら、ここらの魔物は前日にエルロンドとサーシャによって殲滅されたからだ。
…それに、このレイを含む三人の存在だって脅かされていない。レイの見た未来での三人はここまでの強さを持ってはいなかった。
ひとえに、レイによる未来の確変のせいだ。
なら、もはやレイが処刑されることなど、決闘で負けることなどありはしない。
だがそれでもレイは油断しない。気を緩めなかった。過度な慢心は『神童』をも殺す。それはもはや、レイの心の中にこびりついてしまっているようだ。
死ぬのが怖いわけではない。ただ、自分が『自分』であることの証明が欲しかった。魂の融合が起きてから、『自分』が具体的に何なのか、分からなくなってしまった。
だが、自分が『レイ・アドバンス』であるならば、ここで逃げたりなどしない。
『自分』は、最高で、最強の『神童』なのだから。
アレンは、その並外れた聴力で馬車が走る音を村のはずれから聞いた。アレンは嫌な予感がした。
「おお、すげえ馬車だな。」
「お貴族様がいらっしゃったのか?」
「こんな村に…なんで?」
その豪華な馬車は村長の家の前に止まった。
そして、中から『アイツ』が出てきた。
むかつくほど整った顔、決して筋骨隆々ではなく、しかし確かに鍛えられており、無駄のない肉体。
その男はレイ・アドバンス。
アレンにとって、その男はどうしようもない程に憎しみの対象だった。
「ああああああああああ!」
アレンは半年前と同じように、しかし、比べ物にならないほどの速さで剣をレイに振るう。
「おっと、そうはさせねえぜ。」
そこに、馬車から降りてきた巨漢、エルロンドがその剣を弾く。
「動かないで。」
そしてサーシャはアレンの背後に回り、その首筋に短剣を添える。
「ッ!?き、君は…」
アレンはその少女が、かつて自分が救えなかった女の子であることに気づいた。
レイに攫われた後、彼女がどうなったのか、アレンはずっと心に残っていた。
(よかった。殺されてはいなかったみたいだ。けど…)
「無理矢理従わされているのか?なら、もうそんな奴に…」
アレンは説得を試みた。彼は本物の、正義に生きる者だ。そこに打算は無く、ただただ少女の身を案じての言葉だった。
しかし、その言葉はサーシャに届かない。届きようがない。貧民街で生きてきた彼女は綺麗ごとだけに意味はないと学んでいた。今の彼女にとって大切なことは、あの幼い三人に幸せになって欲しいということ。
そして、レイに従えばそれは叶えられる。目の前の男についていく利点は何一つなかった。
それに、彼女自身、今の生活を気に入っているのだ。毎日三食、美味しいものを食べられる。おやつだって食べていい。風呂にだって自由に入れるし、衣服も皆に可愛いものを着せられる。誘拐なども気にしなくていい、安全な環境。
なにより、あの三人の笑顔が毎日見られる。
今では、レイに感謝すらしているのだ。
「ボクは今の生活を捨てる気はない。…それに、『あなたには関係ないよ』。」
サーシャの辛辣な言葉。サーシャは静かに怒っていた。レイは変な人間だが、自分の恩人だ。よく知りもしない人に『そんな奴』呼ばわりされて黙ってはいられなかった。
「ッ!……そうか。君もそいつに騙されているんだね?」
アレンの胸中は穏やかではなかった。かつて、自分の最愛の幼馴染と同じことを言われたのだ。その時も、アレンの心はそれに耐えられなかった。
だから、全てはレイのせいだと思うことで心を守ってきた。
だが、それでも、その言葉はアレンにとってトラウマのようなものになっていた。
アレンは息を整え、剣を構える。
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