崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ

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第三話 誇りとプライドを胸に

その頃、赤き戦士は……

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 ~☆~☆~☆~☆~☆~

 鬱蒼とした森林の中にある小さな集落。普通の木造建築だけでなく、地方特有のツリーハウスという、木の上に立った建物もある。
 
 ここはスラガン地方の東にある、面積のおよそ九十パーセントが森に覆われた大森林であるポーツ地方。夜は光がほとんど無いため真っ暗になるが、昼間は木漏れ日が心地よい。気温が高いスラガン地方と反対の低気温で住みやすく、平和な雰囲気も相まって移住を志す人も多かった。……が、大森林ゆえに物流が悪く外界との接点があまり無い上、選べる職業も少ない。
 
 村の隅っこに、小さな家があった。レンガの屋根と壁で、部屋はリビングと寝室とバスルームの三つしかない、とても小さな家だ。……しかしその中には家具も装飾もカーペットもない、空っぽの空間となっている。
 外に出てみると、近くに十字架の墓碑があった。木材を打ちつけただけのモノとは違う、しっかりとした石材で作られた頑丈な高級品だ。

 そして、その前には花束を抱えたジョーが一人で立っている。首元には、普段スカーフに隠しているペンダントが揺れていた。そのホルダーには、透き通ったオレンジ色の宝石トパーズがついている。ジョーは口元を隠したマスクを下ろす。……隠れていた右頬には、とても大きく、やけに真っ黒な火傷の跡があった。

「……姉さん。この家、取り壊すことにしたよ。家具もエルフの商人さんが、全部引き取ってくれたんだ。結構なお金になったよ」
 墓碑に向かって、ポツポツと語るジョー。普段のクールな姿からは想像もできないくらい優しく、弱々しい雰囲気だった。
「これで残ってる姉さんとの繋がりは、このペンダントだけだ」
 ジョーは花束を墓前に添えて、ペンダントをぎゅっと握りしめた。
「村の女の子達が、ここを花畑にしてもいいかって言ってたよ。もうオッケーしちゃったけど、良いよな?」
 明るい声のジョー。当然、それに答えるものは誰もいない。

「姉さん……どうしてこんなことになったんだよ? まだまだ返しきれないほど、助けてもらってたのに。……これから俺が、なんだってしてあげられたのに」
 声音がぐっと低くなる。どれだけ自分を誤魔化しても、心にへばりついた悲しみは消えなかった。
「……」
 チャキッ……。
 ジョーは無言で腰のダガーを抜き……自分の首筋に構えた。
 冒険者家業のおかげで、もはや死の恐怖など感じなくなった。ここで首を落とせば、姉に会えるかもしれない。いや……散々姉の足を引っ張り迷惑をかけた自分が行くのは、天国ではなく地獄だろうか……。

「……いや、ダメだな」
 しかし、ジョーはその姿勢から動けなかった。彼の脳裏によぎったのは、あの冒険者……ナガレの言葉だ。

『ジョー、お前ともっと話したいんだ。ゼッタイ来いよ、な! 約束だぞ!』

 ジョーはダガーを鞘に納め、そのまま後ろを向いた。黒いマスクをつけ、ペンダントを再びスカーフの下に入れて隠す。
「……ごめん、姉さん。まだ一つ約束があった。それが過ぎたら……な」
 独り言のように呟き、ジョーは一人で歩き出した。

「ジョーおにいちゃん、どこかでかけるのー?」
 村の入り口まで来たところで、小さな女の子数人に囲まれてしまった。先ほど彼がボソボソ話していた、姉の墓前を花畑にしたいという少女だ。まだ五歳くらいで、エルフでもない真人間である。
「……う、うん。ちょっとスラガン地方まで行かなくちゃ行けないんだ。もしかしたら、ずーっと帰って来ないかもしれない……」
 ジョーの態度は意外なほど塩らしい。彼にとって、未来あるキラキラした女の子たちは別世界の存在なのかもしれない。……と、女の子たちは「えー⁉︎」「うそー⁉︎」と驚いた様子だ。
「いまスラガンちほうにいくのは、やめといたほうがいいよ! きょう、しんぶんをよんでたママがいってたもん」
「わたし、しってる! こわいモンスターがでたんでしょ? ちかくのギルドから『でんれい』のおにいさんがいいにきたって、ママがいってたよ!」
「……なんだって⁉︎ それは……それは本当かい?」
「うん! だからいかないほうがいいんじゃない?」
 嫌な予感を感じるジョー。冒険者の頃は、この直感に何度も助けられた……この機嫌を感じ取る第六感は、どんな事前情報よりも信用できる。わーわー言っている女の子を放置して、急いで家に戻る。すぐに荷物をまとめて飛び出した。(どうせ荷物などそう無かったのだが)
「ジョーおにいちゃん、スラガンちほうにいくの?」
「ああ、そこで約束があるんだ。破っちゃいけない約束がね。ありがとう。綺麗な花畑、楽しみにしてるよ!」
 そう言い残し、ジョーは近場のギルドに向かって全力疾走! 人間離れしたスピードで、薄暗い森林を突き進む。
 (伝令用の早馬なら、普通の駅馬車よりずっと速い! いや、俺には駅馬車を待っている時間など無いんだ! 奪ってでも急がねば……)
 たった一つの『約束』のため、森林を駆けるジョー。片手で数えるほどしか会ったことない男との約束に、どうしてこうも焦るのか。それはジョー自身にも分からなかった。……いや、今の彼にとって、そんなことはどうでもいいようだ。
(俺の人生で、最期の約束だ……! 万が一なんて事態もあってはならない! 何もないと良いが……無事でいろよ、ナガレ!)
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