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第三話 誇りとプライドを胸に
その頃のアリッサたち
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「えーと……これで百二十人。あと七人は何をしているんだろう?」
ここは崖の上にある一時避難場所。少し遠くからバッファローの町を見下ろせる。そこでは町長であるルーカス氏が、集まった町民の点呼を取っていた。まん丸な目が無邪気でちょっと可愛いおっさんである。しかし、白髪混じりの髪はまだまだ生えそろっており、表情もなんだか若々しい。五十歳後半なのに三十代にしか見えないと、街中では評判だ。
「残ってらっしゃるのはあと五人よ」
その横にいたルーカスのお嫁さんである、町長夫人のアリーナ夫人が横からささやいた。彼女もまたルーカス氏と同い年でありながら、その性格キツめそうな吊り目以外は全く老いを感じさせない。
「老いない秘訣だって? ……夫婦円満かな」
これはルーカスの言葉である。
「いないのはあの冒険者どもか。ナガレのやつ……何やってんだよぅ」
「まさかどこかでケガして動けなくなったんじゃ! だ、大丈夫かな……」
「アイツがケガぐらいでへたり込むタマかよ! ナガレを動けなくするためには、鋼鉄のチェーンで大岩にくくりつけた上でサボテンの罠を仕掛けるしかあんめえ!」
避難民の一団の中、こそこそ話すルックとアリッサ。……すると、遠くからアルクルが坂を登ってやってくるのが見えた。ちっこいレンをおぶって歩いてくる。
「おーーい!」
「すまぬのう町長様。少々異変があったもので遅れてしまった」
「カーイセイン様! そちらの方こそ、迅速な避難勧告をありがとうございます」
ルーカス町長とレンはお互いに敬語だ。あんなオンボロギルドでも、一応はマスターであるため身分は高いらしい。
「ねえアルクル、カーイセインって誰?」
「はぁ? ねーちゃん……忘れたの? レンさんの苗字だよ! レン・アウラン・カーイセイン!」
「なんか違くない? フィレン・アンラウ・カーイセインじゃ……」
「そんなダサい名前だっけ……?」
正しくは『レン・アンラウ・カーイセイン』である。
「ところでカーイセイン様、冒険者の皆様がどこにいるか、ご存知ないですかな? ケオージさん、トーネトラさん、そしてウエストさんが未だ来られていないのです」
ルーカス町長の問いに、レンは「あー……それはじゃのう」と言葉を濁した。
「……彼らは、来ぬ」
「は?」
「あの、それはどういう……?」
ルーカス町長とアリーナ夫人は、キョトンとしてお互いに顔を見合わせた。
「落ち着いて聞いて欲しいのじゃ。ナガレ君はあの町を守るために、タネツ、ヒズマと共に町で待機しておる」
「えっ……えぇーーーーっ⁉︎」
「ま、マスター! そりゃあ本当かっ⁉︎」
こっそり聞いていたアリッサとルックが素っ頓狂な声を上げて、一気にレンへ詰め寄った。
「ど、どういうことなの! ギルドマスター、教えて! ナガレ君はどうなっちゃうの⁉︎」
「んなもん決まってんだろうが! アイツ死ぬ気か! マスターさんはどうして送り出したんだ!」
「落ち着きなさい、ミセス・ケランっ!」
二人の肩を掴んで静止したのは医者のマディソンだ。医療用品がたくさん詰まった大きなバックパックを背負っている。
「良いのじゃ、マディソン殿。アリッサちゃんたちが取り乱すのもよく分かる」
そう言ったレンは、ナガレたちについて話した。残る理由、ナガレの決意の表れも隠すことなく洗いざらい打ち明ける。アリッサとルックは呆気に取られた表情で、聞いているのかどうか分からなかったが。
「じゃが……止めても無駄じゃった。ナガレ君はとある約束をしていて、バッファローの町を守ると誓っておる。それを守るためなら命も惜しくない、そう感じているようなのじゃ」
「補足しとくと、そりゃあ本当だぜ。俺が保証する。約束ってのは……アリッサちゃんなら分かるんじゃねーの?」
レンに続いてアルクルもフォローを入れるが、それでも正気に戻った二人は収まらない。
「なんだ……なんだよ、ソレ! ねーちゃん、行こう!」
「よく言った我が弟よ! あのバカナガレ君を引っ叩いて連れ戻すよ!」
そう言って駆け出そうとする兄弟だが、マディソンが肩を握っているので動けない。虚しく足だけを動かしていた。……大した力は入れていないのに、である。
「落ち着くんだ、ミスター。……ミセス・カーイセイン。ギルドマスターである貴方がそう言うなら、嘘ではないのでしょう。ならば戦うことの出来ない我々がすることは、足手纏いにならないよう避難することだ」
「う……」
ようやくアリッサとルックも納得した。足を止めて、町長夫妻に頭を下げる。
「マディソンさんの言う通りだね……。ごめんなさい、もう騒ぎません」
「分かってくれたら良い。さ、行きましょう。一応全員の安否は確認できましたので……」
マディソンがそう言った時……。
ドガガガガーン!
「「「うわぁーっ⁉︎」」」
突然高台が大きく揺れた。みんないっせいにしゃがみ込む。
「なんだ、崖が崩れたか⁉︎」
ルックが辺りを見回す。しかし、揺れによって一部が崩れたものの、そう大きくないため全員無事だった。
「いや、違う……くそっ、ついにここまで来たか!」
しかし遠くを見据えるレンの、人間の数倍の視力を誇るエルフの目は、遠くに見えた存在をはっきりと捉えていた。
「アルクル、見えるか⁉︎」
「ええ、よーく見えますよ……! まさかここまで来ちまったか、ガラガラマムシ!」
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