崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ

文字の大きさ
57 / 1,728
第三話 誇りとプライドを胸に

ナガレの決意

しおりを挟む
「「「「えぇーーっ⁉︎」」」」
 みんな一斉に驚きの声を上げた。レンにいたっては文字通りひっくり返り、床に尻餅をつく。
「ふえぇ、何をいうのじゃナガレ君! 考え直すのじゃあ! ほ、ほら、ガラガラマムシは途中で引き返すかもしれぬし……」
「それでも不安だ。オレはここで待って、アイツが来たら迎え撃ってやる!」
「お、おい、何考えてんだよナガレ! 状況が分かってんのか! 相手はガラガラマムシだぜ⁉︎」
 タネツがナガレの胸ぐらを掴んで、焦ったまま激しく揺さぶった。
「そうよ、残ってどうするつもりなのーっ!  危険度S級ってどういうことか分かってる? Sクラス冒険者じゃないと歯が立たないってことよ! あなた、自分のランクが分かって言ってるの⁉︎」
 ヒズマもその横から攻め立てる。しかしナガレはタネツの手を掴み返した。
「そうだよ、オレはDランクでスキルも無くて素質も才能もない冒険者だよ!」 
「……っ!」
 タネツは手を離した。ナガレの目は真剣だ。危険度や実力差を理解した上で、ナガレは町に残ろうとしている。それを何とかしてやりたいと思っている本人だからこそ、タネツとヒズマは何も言えなくなってしまった。
「……どういう理由なんだ、ナガレ君? ヤケを起こしたってんなら俺が容赦しないぞ」
 ただ一人冷静なアルクルが尋ねた。心配だからこそ、厳しい目でナガレを見つめる。
「ヤケなんかじゃない、ジョーと約束したんだ、この町でまた会うって。オレは約束を破りたくはない」
「……この状況は、さすがに仕方ないんじゃねえのか? モンスターに襲われて、町がぶっ壊されちまった。これのどこにナガレ君を責める要素がある? そのジョーって奴のことは知らないけど、きっと許してくれるって」
 アルクルの言い分は正しい。モンスターに町が襲われるというのは、地震や豪雨と同じ突然起こること。半ば自然災害のようなものだ。もしナガレが凄腕の冒険者だとして、それで逃げたなら、少なからず批判はあるだろう。しかし彼はまだ駆け出しのDランク冒険者である。力が無いのは罪では無い。そんな彼が逃げたとして、誰が責められようか。
「だから、ここは逃げよう。もし戦うことになって死んじまったら、ナガレ君の成り上がりはどうなっちまうんだ」
「……ッ」
 成り上がりと聞いて、わずかにナガレの表情が歪む。努力でAランク冒険者まで成り上がる、それは彼自身の目標だった。
 だが、それでもナガレは首を横に振った。
「それでも、約束は守る。何としても守りたいんだよ! ジョーはオレと約束してくれた……それを破ったりしたくないっ!」
 ナガレの目には、固い決意が宿っていた。

 ずっと昔、彼がまだ子供だった頃に、あのアーバンが言ったのだ。友達との約束は、必ず守ると。今ここで逃げたら、それを否定することになる。ジョーが自分のことを何と思っているのかは分からないが、それでも彼は約束してくれた。……ナガレにとって、それはどんな言葉よりも重いものだった。
「……だから、どうか止めないでくれ。ここで逃げたら、オレは自分を許せなくなる。一生後悔するに決まってる……だから、頼むよ」

「ナガレ……」「ナガレ君……」
 一同、何も言えなかった。止めたい気持ちは山々だが、何を言ってもナガレは止まらないだろう。それを理解したのだ。

「……はぁ~っ、この分からず屋のバカチンめ。命より大切なもんなんて無いに決まってンだろうが」
 沈黙を破ったのは、アルクルの大きなため息だった。
「分かった……俺はもう止めねえ。お前にとってその約束は、その命よりも、俺たちの言葉よりもずーーっと大事なもんなんだな。……ああクソ、よーく分かったよ」
「アルクル……ごめん、ありがとう!」
 パッと顔が明るくなったナガレ。アルクルは「た、だ、し!」と一本指を立てた。
「逃げろとは言わねえ。だが……倒れても傷ついても町がぶっ壊れても、たとえその約束を破ることになろうとも……必ず生きて帰れ。これだけ約束しろ」
「……分かった!」
「私も、もう何も言うまい……。じゃが分かってくれナガレ君、君がもし死んだら悲しむ人間……いや、エルフはここに一人いる。それを忘れないでほしいのじゃ」
 続いてレンも力無く肩を落とした。ナガレを信じて送り出すことにしたのだ。
「マスター……すいません、感謝します。タネツさんもヒズマさんも、ここはオレに任せてください……って、ん?」
 ナガレは先輩二人の方を見る。……なぜかヒズマもタネツも明らかなほどガチガチに緊張している。
「あ、あのー?」
「な、ナガレ君……本当に、怖く無いのか?」
 タネツの言葉に、ナガレは少しだけ下を向いた。

「そりゃ……ショージキ、オレだって怖いです。相手は自分よりもずーーっと強いし、下手したら死んじゃうかもしれない。情けないっすけど……オレ、死ぬのが怖いです」
 そこまで行ったナガレは、初めてブルブルと震えた。
「そうよね。そんなの絶対に怖いわ。それでも行くんでしょ? ……勇気があるのね」
 ヒズマは本気で感心して、一人でうんうん頷いた。どんな偉人でもどんな最強戦士でも、死ねばそれまで、一貫の終わり。恐れるのは仕方がない……自分がナガレの身分なら、ヒズマは一も二もなく逃げ出しただろう。
「でも、オレは逃げたくないんです。……それに、死ぬつもりなんてありません」
 ナガレの震えが止まった。キッと前方を睨みつけ、ぎゅっと拳を握りしめる。
「タネツ先輩、ヒズマ先輩。だいたい一ヶ月間、オレの特訓に付き合ってくれてありがとうございました。何度もボロボロになっても立ち上がれたのは、先輩たちが共に頑張ってくれたおかげです。だから……オレを信じてください!」
「「…………」」
 ナガレはハッキリと言い放った。その目は少しだけ不安に揺れている。しかしその気持ちを押し殺し、約束のため、そしてタネツとヒズマとの特訓を信じ、ナガレは立ち向かうのだ。

(共に頑張ってくれた、か……。そんなことねえよ。俺だってお前がいたから、希望を持てたんだ。もう一度頑張ろうって、心の底から思えたんだ! くそっ、何を弱気になっていやがるんだ、俺って野郎は……!)

(な……何よっ! 私なんて、もうダメだと思ってたのに。ダメ女でいるのに、もう慣れきってたのに……。それが間違ってるって気付かせてくれたのは、ナガレ君じゃない! あなたを死なせたりなんかしない……私も仲間なんだから!)

 そしてその言葉は、先輩二人の胸を打った。死の恐怖から逃れるのではなく、仲間を守るために立ち向かう……その感情ひとつあれば、人間はどんな困難にも立ち向かえる! 

「く、くそ……ええいっ、ままよ! ナガレ君、お、俺も手伝うぜ! おおお俺も戦わせてくれっ!」
「え⁉︎」
 今度はナガレが驚く番だ。タネツは緊張でガチガチになったまま言葉を続けた。
「ち、ちょっと怖いけど、お、お前が心配なんだ。ほ、ほっといて死なれでもしたら、目覚めが悪い……なら、お前を助けた方がいい! 俺も、た、戦うぜ!」
 言い切ったタネツ。その横から、震えるヒズマも顔を出した。
「わ、私もよ~! ふ、二人が戦って私だけ避難するなんて嫌! そ、それに三人ならなんとか倒せるかもし、しれないし……。わ、私はナガレ君の先輩なの! こ、ここで逃げたら冒険者の名が笑うわっ!」
 二人とも格上のガラガラマムシを恐れてはいる。だがそれでも、腹を括っているようだ。ナガレを放っておけない、この一心で立ち向かおうとしている。
「タネツ先輩、ヒズマ先輩……! 大歓迎ですよ! ありがとうございますっ!」
 こうして弱小冒険者の三人による、バッファロー防衛部隊が結成された!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

処理中です...