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第三十二話 狐の威を借る虎
子供たちの日常
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「あらまあ、そうですか……ですが私一人がいい思いをするなんて家族に悪いですわ」
「…………」
何も知らないコバルトさんは「ふふふ……」と笑っている。
本当は死んだ姉のためを思い、復讐の旅の最中でも料理には手を抜かず、毎日勉強していたからだった。
実際に料理を食べさせることができたのは片手で数えるほどで、しかも味が薄い淡白なものばかりだったが……。これを知るのは今でもナガレだけだ。
「……さて、店番くらいするとしよう」
ジョーは店先にある椅子に腰掛けた。コバルトさんは会計カウンターの席に座っている。
さて、出かけたルックがやって来たのは町の噴水広場。平日の午後なのもあり、人影はまばらである。
「ちゃーーっすルック!」
「や、やっほ……」
「おっ来たか! よーし今日はどこ行こっか……!」
そこでルックに手を振っていたのは、ツーテン食堂の看板娘ディーネと、タネツ自慢の内気なターショだった。前者は長袖シャツに短パン、後者は黒いシャツにスラックス……なんだか素材が良いヤツである。
「そーいやターショって牧場行ったことあるっけ? あそこ行けば色々やらせてくれるぞ!」
「いいね行こう! あたしもよく牛さんとか鳥さんと触れ合いに行くのっ。とっても可愛いよっ!」
「お、おぉ……い、行ってみたい!」
「よっしゃよくぞ言った! あそこのおっちゃん良い人だから、きっと何かさせてくれるよ」
そうして青空の下で走り出す。そのまま話しつつ街中を駆ける姿はとても無邪気だった。ナガレたちが見たら泣くかもしれないレベルの、ありし日の懐かしき純情な少年時代である。
「そういやルック、そんなカッコだけど汚れるかもしれないぞ?」
「大丈夫。前にナガレお兄ちゃんと冒険者の決闘で雨降ってた時、転んで泥だらけになっちゃった。でもお父さん『子供は泥だらけになるもんだガハハ! 気にすんな、服くらいまた洗えば良い』って言ってくれた」
「いいなぁ~。あたしが泥だらけで家に帰ったら、パパに『ど、どうした! いじめられたのか⁉︎』って十分くらい詰められるよ」
タッタッタッ……と町中を走りつつ話すルックたち。
……この光景は、今までではあまり見ることができなかった。
ディーネは別の町の親戚のもとで学校に通っており、今年になって戻って来た。
ルックはアルカナショップの切り盛りで忙しかったし、ターショもこの町にはいなかった。
それがなんの運命かこの町に集まり、この三人が揃って一ヶ月ほどだというのに、すぐ友達になっていた。
「…………」
何も知らないコバルトさんは「ふふふ……」と笑っている。
本当は死んだ姉のためを思い、復讐の旅の最中でも料理には手を抜かず、毎日勉強していたからだった。
実際に料理を食べさせることができたのは片手で数えるほどで、しかも味が薄い淡白なものばかりだったが……。これを知るのは今でもナガレだけだ。
「……さて、店番くらいするとしよう」
ジョーは店先にある椅子に腰掛けた。コバルトさんは会計カウンターの席に座っている。
さて、出かけたルックがやって来たのは町の噴水広場。平日の午後なのもあり、人影はまばらである。
「ちゃーーっすルック!」
「や、やっほ……」
「おっ来たか! よーし今日はどこ行こっか……!」
そこでルックに手を振っていたのは、ツーテン食堂の看板娘ディーネと、タネツ自慢の内気なターショだった。前者は長袖シャツに短パン、後者は黒いシャツにスラックス……なんだか素材が良いヤツである。
「そーいやターショって牧場行ったことあるっけ? あそこ行けば色々やらせてくれるぞ!」
「いいね行こう! あたしもよく牛さんとか鳥さんと触れ合いに行くのっ。とっても可愛いよっ!」
「お、おぉ……い、行ってみたい!」
「よっしゃよくぞ言った! あそこのおっちゃん良い人だから、きっと何かさせてくれるよ」
そうして青空の下で走り出す。そのまま話しつつ街中を駆ける姿はとても無邪気だった。ナガレたちが見たら泣くかもしれないレベルの、ありし日の懐かしき純情な少年時代である。
「そういやルック、そんなカッコだけど汚れるかもしれないぞ?」
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「いいなぁ~。あたしが泥だらけで家に帰ったら、パパに『ど、どうした! いじめられたのか⁉︎』って十分くらい詰められるよ」
タッタッタッ……と町中を走りつつ話すルックたち。
……この光景は、今までではあまり見ることができなかった。
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