過去形呪文、不可視呪文

天渡清華

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「でもそれは、純さんもだろ?」
 凌太は自覚してるだろうか。純さん、と呼ぶ時、その単語だけ響きが少し深いのを。俺はそれを、俺を想ってくれてる証だと勝手に思ってる。
「そう、だね」
 語尾が震える。涙は、出ない。でも今日一日なんだか胸が重苦しかったのが、一気に楽になるようだ。
「早く言えよ、こういう時に人を優先すんなよ」
 怒ってるような声。そうか、凌太は俺の方から話すのを待ってたのか。
 熱いほどのぬくもりに、俺は深く埋もれる。肩に頭を預けてぼんやり窓の方を眺めながら、抱いて欲しいと思う。
 想像する。俺の肌を滑り、胸の突起をいじる凌太の太い指。唇と舌で耳をなぶり、しっかり俺を抱きしめて、猛った熱を俺のそこに押しつけ、煽ってくる。ぶっちゃけ、悔しいぐらいにうまい。
「たまんねえわ」
 脳が言葉を理解するより早く、凌太がキスしてきた。俺の興奮に気づいたらしい。いきなり部屋着のズボンを脱がされ、想像通りに俺は凌太の腕の中で乱れさせられる。
「ね、ねえ、ベッド行こうよ……」
 凌太がせかされるようにハーフパンツの前をはだけた。ちゃんと裸になる時間も惜しいのか、膝まで下げただけで俺の腰に両手をかける。ソファで最後までするつもりらしい。それはさすがに嫌だ。
「ムリ。そんなヒマない」
 狭いワンルームだからベッドもすぐそこなのに、即答だった。膝に向かいあわせで座らせた俺に猛ったモノを握らせ、深いキスを交わしながら、大きな手が俺の肌を隅々まで這い回る。まるで日置にさわられた痕跡を消すかのように。
 俺だけが全裸で、肌に感じる凌太の服の感触に羞恥と興奮が高まる。
 俺は知ってるよ、凌太。これが言葉の代わりだって。だからこんな時でも、抱かれたくなるんだ。エロいヤツだと思われてるのも知ってる。
 でも、これが言葉の代わりなら、俺がそうなるのは当然だろ?


                           END
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