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そんなことぐらいで、シュウの誘いを断れる男がいるのか。シュウはたやすく自分の手に落ちない、この世界にはあまりいないタイプのダイスケに、なかば意地で本気になっていったのだろう。
「他には、ここでどうするつもりだった?」
無言になったケンの代わりに、ムカイが訊く。
「日を決めて、料理や飲み物に薬を仕込むことになってました。でもカズキから薬を受け取る前に、あんなことになって……」
ダイスケはつらそうに低く答えた。だがその顔には、大惨事を起こさずに済んだことへの安堵もにじんでいる。
優しそうな横顔。低く落ち着きのある声。シュウの好みはこういう男なのか。こんな時でも、そんなことで頭がいっぱいの自分にケンは笑い出したくなった。
あまりに、自分とは違う。当たり前だ、生きる世界が違いすぎる。生きる世界が違いすぎるから、シュウもつい目がくらんだのだ。
「あやしいことは察知してたから、最近お前の料理は店には出してなかった。薬の話も盗聴で予想はついてた」
ダイスケは目を見開いてムカイを見た。
「そう、でしたか……」
うつむくダイスケ。少しさみしそうな、かすかな笑み。
ケンはダイスケを見つめる。この落ち着きはなんだ。殺されるかも知れない局面では、どんな人間だろうが、ほとんどがみっともなくうろたえるものだ。それなのにダイスケは静かに、笑みすら浮かべている。
「……もう妻も子もこの世にはいないでしょうから、俺のことも殺して下さい」
ダイスケは顔を上げた。ケンの視線を受け止め、はっきりと告げる。
思わずケンは無言でムカイに視線を投げた。妻子はもういないと分かっていながら、自分の末路も知っていながら、それでも妻を思いシュウを抱かなかったという。やせ我慢もいいところだ。
ムカイの目が、ダメだと言っている。こんなに芯の強い人間は、裏社会にもそういない。
「シュウが会いたがってる」
ケンは砂を噛むような思いで告げた。
「シュウ君が? 会わせてくれるんですか?」
一瞬、喜びに輝く表情。まっすぐな人のよさに舌打ちしそうになる。
「お前ら、本当にヤってないのかよ?」
つい、反射的にまた訊いていた。シュウが抱いてくれない相手のところに、いくらうまい料理を作ってくれるとは言え、それだけのために通うとは思えなかった。
「世の中、身体の繋がりだけじゃないですから」
ダイスケはそう言うと、目を伏せた。
きれい事だ。ケンは鼻で笑ったが、同時に笑いきれない自分も感じていた。ダイスケには筋が通っている。裏社会では、筋を通すことは重要だ。行動基準にもなりうる。
「他には、ここでどうするつもりだった?」
無言になったケンの代わりに、ムカイが訊く。
「日を決めて、料理や飲み物に薬を仕込むことになってました。でもカズキから薬を受け取る前に、あんなことになって……」
ダイスケはつらそうに低く答えた。だがその顔には、大惨事を起こさずに済んだことへの安堵もにじんでいる。
優しそうな横顔。低く落ち着きのある声。シュウの好みはこういう男なのか。こんな時でも、そんなことで頭がいっぱいの自分にケンは笑い出したくなった。
あまりに、自分とは違う。当たり前だ、生きる世界が違いすぎる。生きる世界が違いすぎるから、シュウもつい目がくらんだのだ。
「あやしいことは察知してたから、最近お前の料理は店には出してなかった。薬の話も盗聴で予想はついてた」
ダイスケは目を見開いてムカイを見た。
「そう、でしたか……」
うつむくダイスケ。少しさみしそうな、かすかな笑み。
ケンはダイスケを見つめる。この落ち着きはなんだ。殺されるかも知れない局面では、どんな人間だろうが、ほとんどがみっともなくうろたえるものだ。それなのにダイスケは静かに、笑みすら浮かべている。
「……もう妻も子もこの世にはいないでしょうから、俺のことも殺して下さい」
ダイスケは顔を上げた。ケンの視線を受け止め、はっきりと告げる。
思わずケンは無言でムカイに視線を投げた。妻子はもういないと分かっていながら、自分の末路も知っていながら、それでも妻を思いシュウを抱かなかったという。やせ我慢もいいところだ。
ムカイの目が、ダメだと言っている。こんなに芯の強い人間は、裏社会にもそういない。
「シュウが会いたがってる」
ケンは砂を噛むような思いで告げた。
「シュウ君が? 会わせてくれるんですか?」
一瞬、喜びに輝く表情。まっすぐな人のよさに舌打ちしそうになる。
「お前ら、本当にヤってないのかよ?」
つい、反射的にまた訊いていた。シュウが抱いてくれない相手のところに、いくらうまい料理を作ってくれるとは言え、それだけのために通うとは思えなかった。
「世の中、身体の繋がりだけじゃないですから」
ダイスケはそう言うと、目を伏せた。
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