この街で

天渡清華

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 冗談めかして言いながらも、シュウの瞳から次々あふれる涙。その涙は、見ているケンの心を打ちのめした。やはりあの時も、シュウはダイスケを思って泣いたのだ。
 そしてこれは、自分へのメッセージでもある。肉体関係どころかキスすらしていないから、殺すなと。
「俺はあんたといられるなら、なんだってよかった。もともと、いつかはこの街からいなくなるだろうって、思ってたし。だけど、それでもよかった」
 泣きながら、震える声でシュウは想いをしっかりと告げようとしている。ダイスケもそんなシュウから目をそらさない。
 ケンは二人の姿を見ていられなくなり、背を向けた。万が一を考えて二人の方を向いているムカイも、二人からなるべく顔を背けるようにして立っている。
「だから、謝らないで。俺が勝手に好きになったんだから」
「シュウ君……」
 鼻をすすり上げ、目を乱暴に腕でこすって、シュウは言葉を続ける。
「楽しかった、本当に楽しかった。できれば、ずっとそばにいて欲しかった」
 とうとうこらえきれなくなったのか、シュウはダイスケに抱きついた。ダイスケは遠慮がちにシュウを抱きしめる。
「……元気で。キヨヒトさんとの曲、一番に聴かせてくれてうれしかったよ」
 もう、いいだろう。ケンは振り返り、ムカイの肩をたたいた。ムカイはうなずき、ダイスケを立たせる。
「待てよケン!」
 涙に濡れた顔で、去ろうとするケンを呼び止めるシュウ。立ち止まったケンの横を、ムカイがダイスケを連れて出て行く。
 二人きりになった。
「ダイスケさんのこと、殺すんだろ?」
 泣き顔のまま、当然のことのように訊くシュウ。所詮は一般人のダイスケとは釣りあわないと、なぜ気づけないのか。
「まだ、分からねえ」
 その場に突っ立ったまま、ケンは答える。
「頼む、殺さないでくれ。店にスパイとして潜りこんでたのは確かでも、デカいことはやってないんだろ? 頼むよ、ダイスケさんを殺さないでくれよ!」
 泣きながらケンにすがりつき、必死に頼む。なぜ、自分を騙した男の命乞いをするのか。分からない。
「俺らが殺さなくても、消されるかも知れねえぞ」
 シュウの泣き顔を見下ろしながら、ケンは半分呆然として言った。
 さっきのダイスケのように、シュウからあんなに優しく抱きしめられたことが、これまであっただろうか。あんなふうにお互いを優しく気遣いあったことは?
 あるわけがない、と内心即答する。本心は隠し、時には乱暴に抱いてきた。優しく接して欲しければ、相手にもそうしなければならない。簡単なことだ。
 世の中、身体の繋がりだけじゃないですから、とダイスケは言った。悔しいが、その通りらしい。あんなに幸せそうなシュウは見たことがない。
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