文字の大きさ
大
中
小
26 / 31
また会う日まで
26
王子さまはヴェルキウス公の手でかるがると持ち上げられ、今度はかんたんに穴の外へと無事に出ることができました。
「父さま!」
王子さまは冥王さまに駆け寄ります。冥王さまはようやく安堵の表情を見せられ、馬から降りて王子さまを抱き上げました。お互いの精霊たちも再会を喜びあいます。王子さまが無事とわかり、騎士たちはほっと胸をなでおろしました。緊張がほぐれ、その場は一転して和やかな空気につつまれました。
「いつも言っているであろう、危ないことをしてはいけないと」
冥王さまは声を震わせ頬ずりします。
「余はそなたを失っては生きてゆかれぬ」
「はい。ですからこのとおり、無事に戻りました」
王子さまは屈託なく笑い、いつものように冥王さまのほっぺたにキスをしました。話したいことがいっぱいありましたが、今はそれどころではありません。
「父さま、紹介したい者たちがいるのです。彼らはぼくとヴァニオンを助けてくれました。だから無事に戻れたのです。矮人族をご存じですか?」
「ああ、もちろん、知っておるとも」
紹介された矮人族の父子、ベンツァーとアルヴィスが、兜帽をとって進み出ます。
「そなたらは……たしか」
冥王さまは目を瞠りました。冥王さまが覚えていてくれたことを嬉しく思いつつ、ベンツァーはなまった魔族語で息子を紹介します。
「お久しぶりでごぜえます、冥王さま。またお会いできる日が来ようとは、夢にも思いませんで。あの日、女神さまに短剣をおささげしたのはうちの父です。父は今は亡くなり、鍛冶屋の職は倅のわたしが引き継ぎました。でもって、これなるは、わたしの倅のアルヴィスちいいます」
「なんと、矮人族の刀鍛冶は代替わりしておったのか」
「はい、近ごろでは魔族の旦那がたに武具を買ってもらっております」
冥王さまは、女神につづいて王子までもが世話になったことへのお礼を重ねてお伝えになり、こう仰せられました。
「矮人族の鍛冶親方よ。これを機に、冥府で工房を開くというわけにはいかないだろうか? 数は少ないが昨今、冥府では他にも矮人族の職人が工房を開くようになってきている。そなたが望めば場所を用意し、王宮御用達の看板を掲げることを認めよう。こうして数百年ぶりに再会できたのも何かの縁」
ベンツァーは首を振って言いました。
「ありがてぇ仰せです。しかしせっかく100年かけて切り開いてきた我が家の坑道を閉鎖するわけには行きませんし、私は先祖代々の生活様式を守りたいのです。せっかく張り巡らせたこの穴ぐらから出て暮らすつもりは微塵もありゃしません」
「ならば、そなたの息子は冥府にて見聞を広げてはどうか?」
ベンツァーは息子を振り返ります。
「冥王さまが、望めばお前を冥府に連れて行ってくれるそうだ。アルヴィス?」
しかしアルヴィスも首を横に振りました。
「おいらも、坑道から出て暮らすつもりはありません。ここには家族も親戚もおおぜいいるし、おいらたちは穴ぐら住まいがいちばん落ち着くのです。
おとうから鍛冶の技術を学んで、おいらも将来は、鍛冶屋になります」
冥王さまは王子さまを抱っこしたまま、深く頷かれました。
「そうか、家族思いの立派な子だ。腕のいい鍛冶屋になれるよう頑張りなさい」
するとベンツァーは冥王さまの前で片膝をつき、ひとふりの鞘つきの剣を差し出したのです。
「父さま!」
王子さまは冥王さまに駆け寄ります。冥王さまはようやく安堵の表情を見せられ、馬から降りて王子さまを抱き上げました。お互いの精霊たちも再会を喜びあいます。王子さまが無事とわかり、騎士たちはほっと胸をなでおろしました。緊張がほぐれ、その場は一転して和やかな空気につつまれました。
「いつも言っているであろう、危ないことをしてはいけないと」
冥王さまは声を震わせ頬ずりします。
「余はそなたを失っては生きてゆかれぬ」
「はい。ですからこのとおり、無事に戻りました」
王子さまは屈託なく笑い、いつものように冥王さまのほっぺたにキスをしました。話したいことがいっぱいありましたが、今はそれどころではありません。
「父さま、紹介したい者たちがいるのです。彼らはぼくとヴァニオンを助けてくれました。だから無事に戻れたのです。矮人族をご存じですか?」
「ああ、もちろん、知っておるとも」
紹介された矮人族の父子、ベンツァーとアルヴィスが、兜帽をとって進み出ます。
「そなたらは……たしか」
冥王さまは目を瞠りました。冥王さまが覚えていてくれたことを嬉しく思いつつ、ベンツァーはなまった魔族語で息子を紹介します。
「お久しぶりでごぜえます、冥王さま。またお会いできる日が来ようとは、夢にも思いませんで。あの日、女神さまに短剣をおささげしたのはうちの父です。父は今は亡くなり、鍛冶屋の職は倅のわたしが引き継ぎました。でもって、これなるは、わたしの倅のアルヴィスちいいます」
「なんと、矮人族の刀鍛冶は代替わりしておったのか」
「はい、近ごろでは魔族の旦那がたに武具を買ってもらっております」
冥王さまは、女神につづいて王子までもが世話になったことへのお礼を重ねてお伝えになり、こう仰せられました。
「矮人族の鍛冶親方よ。これを機に、冥府で工房を開くというわけにはいかないだろうか? 数は少ないが昨今、冥府では他にも矮人族の職人が工房を開くようになってきている。そなたが望めば場所を用意し、王宮御用達の看板を掲げることを認めよう。こうして数百年ぶりに再会できたのも何かの縁」
ベンツァーは首を振って言いました。
「ありがてぇ仰せです。しかしせっかく100年かけて切り開いてきた我が家の坑道を閉鎖するわけには行きませんし、私は先祖代々の生活様式を守りたいのです。せっかく張り巡らせたこの穴ぐらから出て暮らすつもりは微塵もありゃしません」
「ならば、そなたの息子は冥府にて見聞を広げてはどうか?」
ベンツァーは息子を振り返ります。
「冥王さまが、望めばお前を冥府に連れて行ってくれるそうだ。アルヴィス?」
しかしアルヴィスも首を横に振りました。
「おいらも、坑道から出て暮らすつもりはありません。ここには家族も親戚もおおぜいいるし、おいらたちは穴ぐら住まいがいちばん落ち着くのです。
おとうから鍛冶の技術を学んで、おいらも将来は、鍛冶屋になります」
冥王さまは王子さまを抱っこしたまま、深く頷かれました。
「そうか、家族思いの立派な子だ。腕のいい鍛冶屋になれるよう頑張りなさい」
するとベンツァーは冥王さまの前で片膝をつき、ひとふりの鞘つきの剣を差し出したのです。
感想 0
あなたにおすすめの小説
『バロン秘密結社』の仲間たち 〈Ⅳ〉― 小さな密航者 ー
金太のクラスに新しく転校生がやって来た。
その転校生は意外なことにあの河合老人の孫だったのだ。
ニューヨークから帰国したのだが、スーツケースにとんでもない物が紛れ込んでいた。それは目を疑うくらいの小さなおじさんだった。
ロビンの仲間はその小さなおじさんをアメリカに帰すように奮闘するのだった。
オカルト掲示板
【オカルト板】関東地方の怖い噂について語ろう★
1 :名無し:20XX/05/11(月) 22:05:12 ID:abcd1234
皆さん、こんばんは。怖い噂とは違うかもしれないんですが、私が住んでいる町にはおかしな石の神様がいるんです……
少年騎士
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
星降る夜に落ちた子
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
夏休み ユナちゃんの小さな冒険物語
ユナちゃんは小学校3年生の内気な女の子。夏休みのある日、コンビニへ買い物に行くと一匹の猫と出会う。ひょんなことからユナちゃんはその猫ちゃんと小さな冒険をしてみる事になった。
たった5~6時間の出来事を綴った物語です。ユナちゃんは猫ちゃんとどんな小さな冒険をしたのでしょうか・・・
読んで頂けたら幸いです。
くじらのポスト
広い海の底には、小さな郵便局があります。
そこで働く郵便局員のくじらさんのもとには、ある日突然、大切な人と離ればなれになってしまった子どもたちがやってきます。
くじらさんの仕事は、おうちの人が託した「だいすき」や「ありがとう」の手紙を、一人ひとりに届けること。
お母さんに怒られてばかりだと思っていた子。
おじいちゃんにもう一度会いたいと願う子。
自分は愛されていなかったのではないかと苦しむ子。
さまざまな思いを抱えた子どもたちは、一通の手紙とくじらさんの優しい言葉に触れながら、本当の愛を知っていきます。
これは、言えなかった「大好き」を手紙にのせて届ける、海の底の郵便局の物語です。