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なつかしき訪問者(エピローグ)
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この世界の誰よりも整ったお顔立ちをしていて、背筋がぴんと伸びて、あふれ出る神気で周囲が蒼く輝いて見えるほどなのに、当の王子さまは目立つのがいやだとおっしゃるのです。服装も、王子さまは黒い襟付きの簡素な胴着と、騎士たちと同じような乗馬用ズボンをお召しになっています。城下町で売っていそうな服装です。普段着なのでしょうけれど、王宮での冥王さまのお姿とは、その違いが明らかです。いつ見ても何重ものヒダのついた幅広の洋袴に、ごうかな長衣、ローブを重ね着している冥王さまとは、どうやら服装の趣味もちがうのでしょう。双子のようにそっくりなお二人なのに、そういえば性格も違うようです。
「神様とは、目立ってなんぼではないのですかな? 精霊たちを従えるために、常に神力を放って自分の存在をここだと主張しているのでしょう?」
「……そんなことはめったにしない。むしろ気配は消したいほうだ」
「なんせ親神にすぐさま居場所を突きとめられっから。おちおち悪さもできねぇしな?」
ヴァニオンがにやにやと口をはさみます。
「だから神族の子どもは、親から自立しおとなの神になるためにまず精霊の散らし方とか気配の消し方を練習するんだとよ」
「呆れましたな。殿下、冥王陛下に隠れて一体どんな悪さをしているっていうんです?」
「口に出してはとても言えないようなことだ」
「へえ! 神様のご身分でも、悪さをすることがあるんですか。神族ってのは皆、品行方正なんだと思っていました」
「良いことしかしない神など、つまらないだけだろう。物語にならんし」
「物語??」
ヴァニオンが耳打ちしてきます。
「ナシェルはさ、神様の常識ってやつからは少々ハミ出してんだ。神様の社会で育ってないからさ。異端なんだよ」
「冥界育ちのくせに、魔族のしきたりからも冥界貴族の習わしからもはみ出しまくっているお前にそんなことを言われたくはないな」
ヴァニオンの軽口に、腕組みした王子さまがすかさず返します。
「ヴァニオン。私の周囲で暇を持て余しているなら今から黒翼騎士団に加入したっていいんだぞ。下っぱの見習い騎士からだがな? だいたい軍務大臣の息子が兵役拒否なんて、どこの世界でも非常識すぎるだろう」
「俺を出世の軌道から踏み外させたのどこのどいつだよ?
俺が陛下のお怒りを買ってまでお前の相談役に甘んじてんのは、ぜんぶ誰かさんの意向ですぅ」
ヴァニオンも負けじと言い返します。小さく可愛らしかった王子さまは成神して少々毒舌を身につけられたようですが、乳兄弟とは相変わらず仲良しのようです。
何百年たっても変わらないふたりのやりとりに、アルヴィスは思わず笑声を上げました。
王子さまは咳払いして話を変えます。
「さて、長旅で疲れただろう、今からちょうど食事をとるところだった。一緒にどうかな?」
「それはありがたい仰せ。それではおいらもお言葉に甘えてご相伴にあずかりましょうぞ」
「忖度も遠慮もしないのは、矮人族の良いところだと前々から思っていた。ではドヴェルグの健啖家ぶりを久々に見せてもらおうかな、たらふく食ってゆくがいい」
王子さまは冗談を言って笑い、食堂へと彼らを誘います。その腰の長剣がアルヴィスの目に入りました。
「エイルニルの調子はどうです?」
「悪くない。食事が終わったら作業部屋を開けさせよう」
「ではおそれながら後ほど神剣を拝借いたします」
王子さまは神剣の柄をそっと触ります。剣は王子さまの剣帯に吊られてほこらしげに揺れていました。あるじの成長を見守りながら、共に生きてきた長剣です。柄に彫られた矮人族の伝統的な文様は、アルヴィスの祖父、父の代と受け継がれてきた意匠です。王子さまが数百年のあいだ、大事にしてくれていることはアルヴィスにとってこの上ない幸福でした。
そしてときどき、その手入れをするためにこの城を訪れ王子さまに会うのは何にも勝る楽しみなのです。きっと息子の代になっても、何代か先も、アルヴィスの一族は冥界神たちのそばにあり、彼らの双剣を研いでゆくことでしょう。子孫へ向けて、双神と出会ったときの物語を語り継ぎながら。
小さな王子さまのお話 終わり
「神様とは、目立ってなんぼではないのですかな? 精霊たちを従えるために、常に神力を放って自分の存在をここだと主張しているのでしょう?」
「……そんなことはめったにしない。むしろ気配は消したいほうだ」
「なんせ親神にすぐさま居場所を突きとめられっから。おちおち悪さもできねぇしな?」
ヴァニオンがにやにやと口をはさみます。
「だから神族の子どもは、親から自立しおとなの神になるためにまず精霊の散らし方とか気配の消し方を練習するんだとよ」
「呆れましたな。殿下、冥王陛下に隠れて一体どんな悪さをしているっていうんです?」
「口に出してはとても言えないようなことだ」
「へえ! 神様のご身分でも、悪さをすることがあるんですか。神族ってのは皆、品行方正なんだと思っていました」
「良いことしかしない神など、つまらないだけだろう。物語にならんし」
「物語??」
ヴァニオンが耳打ちしてきます。
「ナシェルはさ、神様の常識ってやつからは少々ハミ出してんだ。神様の社会で育ってないからさ。異端なんだよ」
「冥界育ちのくせに、魔族のしきたりからも冥界貴族の習わしからもはみ出しまくっているお前にそんなことを言われたくはないな」
ヴァニオンの軽口に、腕組みした王子さまがすかさず返します。
「ヴァニオン。私の周囲で暇を持て余しているなら今から黒翼騎士団に加入したっていいんだぞ。下っぱの見習い騎士からだがな? だいたい軍務大臣の息子が兵役拒否なんて、どこの世界でも非常識すぎるだろう」
「俺を出世の軌道から踏み外させたのどこのどいつだよ?
俺が陛下のお怒りを買ってまでお前の相談役に甘んじてんのは、ぜんぶ誰かさんの意向ですぅ」
ヴァニオンも負けじと言い返します。小さく可愛らしかった王子さまは成神して少々毒舌を身につけられたようですが、乳兄弟とは相変わらず仲良しのようです。
何百年たっても変わらないふたりのやりとりに、アルヴィスは思わず笑声を上げました。
王子さまは咳払いして話を変えます。
「さて、長旅で疲れただろう、今からちょうど食事をとるところだった。一緒にどうかな?」
「それはありがたい仰せ。それではおいらもお言葉に甘えてご相伴にあずかりましょうぞ」
「忖度も遠慮もしないのは、矮人族の良いところだと前々から思っていた。ではドヴェルグの健啖家ぶりを久々に見せてもらおうかな、たらふく食ってゆくがいい」
王子さまは冗談を言って笑い、食堂へと彼らを誘います。その腰の長剣がアルヴィスの目に入りました。
「エイルニルの調子はどうです?」
「悪くない。食事が終わったら作業部屋を開けさせよう」
「ではおそれながら後ほど神剣を拝借いたします」
王子さまは神剣の柄をそっと触ります。剣は王子さまの剣帯に吊られてほこらしげに揺れていました。あるじの成長を見守りながら、共に生きてきた長剣です。柄に彫られた矮人族の伝統的な文様は、アルヴィスの祖父、父の代と受け継がれてきた意匠です。王子さまが数百年のあいだ、大事にしてくれていることはアルヴィスにとってこの上ない幸福でした。
そしてときどき、その手入れをするためにこの城を訪れ王子さまに会うのは何にも勝る楽しみなのです。きっと息子の代になっても、何代か先も、アルヴィスの一族は冥界神たちのそばにあり、彼らの双剣を研いでゆくことでしょう。子孫へ向けて、双神と出会ったときの物語を語り継ぎながら。
小さな王子さまのお話 終わり
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