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第六章
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「美月、今日はデートをしようか?」
計画を実行してしまえば、二度と美月と会うことが叶わなくなるかもしれない。だからこそ、思い出を残しておきたかった。
ここまで、樹の心を乱す女性はただ一人。
美月のみである。
彼にとって美月以上の女性は今後、現れないだろう。樹は美月の髪をさらり、とすくう。彼女がくすぐったそうに笑った。
樹としてはこの笑顔を守りたかった。
「え? デート?」
彼女が目を輝かせる。
「うん、そう」
「行きたい!」
髪をアップにして、お気に入りのワンピースを着て。
ナチュラルメイクをして、精一杯のオシャレをしよう。
この時を楽しもう。
そんな前向きな思いが、美月の表情から透けて見えた。
数時間後――。
「お待たせ、樹。どう? 似合っているかな?」
花柄のワンピースにピンクのリップに。
髪を三つ編みにしてお団子にしている美月の姿はとてもかわいく見えた。
「うん。とてもよく似合っている。お手をどうぞ? お姫様」
樹は手を差し出す。
「ありがとう」
美月は手を握った。
二人はそのまま、繁華街へと向かう。
お互いの服を選び、カフェでランチをして、どこにでもいる恋人と同じように過ごす。ちなみに、このお金は昭の探偵事務所で給料として支払われているものを使っている。残りは美晴に渡して管理してもらっていた。
「美月。プレゼント」
樹は美月の首にペンダントをつける。少し前に樹一人が繁華街に出て、購入した物だった。淡い色彩の紫のペンダントトップは、美月に似合っている。眩しいほどの白い肌によく映えていた。
自分も色違いの青色のペンダントを買っている。
「でも、こんな高いもの貰えないわ」
ままり、宝石のことは詳しくないが、高価なものだろうという判断をしたようだった。
「そのためのバイトだ」
学校の勉強と昭の探偵事務所とはいえ両立している。美月にはとうてい真似できることではない。
「ありがとう。大切にするね」
「よく似合っている」
「樹に言われると照れるわね」
「僕は本当のことを言ってまでだ。会計してくる。少し待っていて」
彼は彼女の頭に手をおいた。
「ねぇ、お姉ちゃん。一人?俺と遊ばない?」
会計を待っているとチャラそうな男に声をかけられる。
「来ないで!」
樹や昭以外の男に触られたくない。持っていた鞄を振り回した。
振り回した鞄が男の顔にあたる。
「この女!」
男が手を振り上げる。
(叩かれる!)
美月が目を閉じる。だが、いつまでたっても、衝撃がこない目を開くと樹が男の腕を捻り上げていた。
「僕の彼女に何か?」
冷たい視線が男に向けられる。
「ちっ……男がいるのかよ」
男が慌てて逃げていく。
「――樹!」
美月は樹の腕の中に飛び込む。
聞こえてくる心臓の音に安心する。
「怖い思いをさせてごめん。もう、大丈夫」
「樹、あのね」
美月がもじもじと体を動かす。
「どうした?」
彼女と視線を合わせた。
「よかったら、うちに泊まらない?」
これだけでも、勇気をもって言ったのだろう。恥ずかしかったらしく美月の顔が真っ赤になっている。
「晩御飯の支度もあるだろうし、母さんに聞いてみる」
「分かったわ」
樹は美晴と軽く話す。話し終わったのか携帯を切った。
「母さんから許可が出た」
ただ、避妊だけはしっかりしなさいよと、美晴に警告されたことは美月には話さない方がいいだろう。伝えたら慌てふためくことが予想できていた。からかって遊びたい気持ちもあるが、そこはこらえるしかない。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「桜さん、昭さん急に泊まることになって申し訳ないです」
「いいのよ。私たちにとって樹君はもう一人の家族みたいなものだもの」
「ありがとうございます」
「部屋は美月の隣を使って」
ご飯を済ませて桜と昭に挨拶をしてから部屋に入る。
「樹、まだ起きているかしら?」
ノックとともに美月の声がした。
「起きている」
「一緒に寝てもいいかな?」
「入っておいで」
部屋に入ると本を読んでいた。確かにこの部屋は昭の読書好きがこうじて、専門書から一般文芸、英語の本まで幅広く揃っている。樹は英語の難しそうな小説を読んでいた。読んでいた本を閉じる。
「今日は樹といっぱい話すと決めたの。とことん、付き合ってもらうわよ」
「それまで、美月が起きていられるかが問題だな」
「小学生扱いしないでよ。そうだ、樹。今度、勉強を教えて」
美月が猫みたいに甘えてくる。
猫の尻尾と耳が見えてくるようだった。
「急にどうした?」
彼女だって勉強はできる。
学年上位に入れる実力はあった。
「私は樹みたいに――」
言葉が急に途切れた。
どうやら、寝落ちしてしまったらしい。
今日、一日歩いて疲れたのだろう。
(美月、お休み――いい夢を)
樹は美月を抱きしめると眠りについた。
計画を実行してしまえば、二度と美月と会うことが叶わなくなるかもしれない。だからこそ、思い出を残しておきたかった。
ここまで、樹の心を乱す女性はただ一人。
美月のみである。
彼にとって美月以上の女性は今後、現れないだろう。樹は美月の髪をさらり、とすくう。彼女がくすぐったそうに笑った。
樹としてはこの笑顔を守りたかった。
「え? デート?」
彼女が目を輝かせる。
「うん、そう」
「行きたい!」
髪をアップにして、お気に入りのワンピースを着て。
ナチュラルメイクをして、精一杯のオシャレをしよう。
この時を楽しもう。
そんな前向きな思いが、美月の表情から透けて見えた。
数時間後――。
「お待たせ、樹。どう? 似合っているかな?」
花柄のワンピースにピンクのリップに。
髪を三つ編みにしてお団子にしている美月の姿はとてもかわいく見えた。
「うん。とてもよく似合っている。お手をどうぞ? お姫様」
樹は手を差し出す。
「ありがとう」
美月は手を握った。
二人はそのまま、繁華街へと向かう。
お互いの服を選び、カフェでランチをして、どこにでもいる恋人と同じように過ごす。ちなみに、このお金は昭の探偵事務所で給料として支払われているものを使っている。残りは美晴に渡して管理してもらっていた。
「美月。プレゼント」
樹は美月の首にペンダントをつける。少し前に樹一人が繁華街に出て、購入した物だった。淡い色彩の紫のペンダントトップは、美月に似合っている。眩しいほどの白い肌によく映えていた。
自分も色違いの青色のペンダントを買っている。
「でも、こんな高いもの貰えないわ」
ままり、宝石のことは詳しくないが、高価なものだろうという判断をしたようだった。
「そのためのバイトだ」
学校の勉強と昭の探偵事務所とはいえ両立している。美月にはとうてい真似できることではない。
「ありがとう。大切にするね」
「よく似合っている」
「樹に言われると照れるわね」
「僕は本当のことを言ってまでだ。会計してくる。少し待っていて」
彼は彼女の頭に手をおいた。
「ねぇ、お姉ちゃん。一人?俺と遊ばない?」
会計を待っているとチャラそうな男に声をかけられる。
「来ないで!」
樹や昭以外の男に触られたくない。持っていた鞄を振り回した。
振り回した鞄が男の顔にあたる。
「この女!」
男が手を振り上げる。
(叩かれる!)
美月が目を閉じる。だが、いつまでたっても、衝撃がこない目を開くと樹が男の腕を捻り上げていた。
「僕の彼女に何か?」
冷たい視線が男に向けられる。
「ちっ……男がいるのかよ」
男が慌てて逃げていく。
「――樹!」
美月は樹の腕の中に飛び込む。
聞こえてくる心臓の音に安心する。
「怖い思いをさせてごめん。もう、大丈夫」
「樹、あのね」
美月がもじもじと体を動かす。
「どうした?」
彼女と視線を合わせた。
「よかったら、うちに泊まらない?」
これだけでも、勇気をもって言ったのだろう。恥ずかしかったらしく美月の顔が真っ赤になっている。
「晩御飯の支度もあるだろうし、母さんに聞いてみる」
「分かったわ」
樹は美晴と軽く話す。話し終わったのか携帯を切った。
「母さんから許可が出た」
ただ、避妊だけはしっかりしなさいよと、美晴に警告されたことは美月には話さない方がいいだろう。伝えたら慌てふためくことが予想できていた。からかって遊びたい気持ちもあるが、そこはこらえるしかない。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「桜さん、昭さん急に泊まることになって申し訳ないです」
「いいのよ。私たちにとって樹君はもう一人の家族みたいなものだもの」
「ありがとうございます」
「部屋は美月の隣を使って」
ご飯を済ませて桜と昭に挨拶をしてから部屋に入る。
「樹、まだ起きているかしら?」
ノックとともに美月の声がした。
「起きている」
「一緒に寝てもいいかな?」
「入っておいで」
部屋に入ると本を読んでいた。確かにこの部屋は昭の読書好きがこうじて、専門書から一般文芸、英語の本まで幅広く揃っている。樹は英語の難しそうな小説を読んでいた。読んでいた本を閉じる。
「今日は樹といっぱい話すと決めたの。とことん、付き合ってもらうわよ」
「それまで、美月が起きていられるかが問題だな」
「小学生扱いしないでよ。そうだ、樹。今度、勉強を教えて」
美月が猫みたいに甘えてくる。
猫の尻尾と耳が見えてくるようだった。
「急にどうした?」
彼女だって勉強はできる。
学年上位に入れる実力はあった。
「私は樹みたいに――」
言葉が急に途切れた。
どうやら、寝落ちしてしまったらしい。
今日、一日歩いて疲れたのだろう。
(美月、お休み――いい夢を)
樹は美月を抱きしめると眠りについた。
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