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第十一章「諸刃の剣」
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「文?」
学校帰りに車に乗り込もうとするあかりを、文は抱きしめた。文の体が崩れ落ちていく。手には血がついていることに気が付いた。
あかりは制服を破いて、慌てて止血をする。
「那智――貴様」
いつの間に到着したのだろうか。
音もなく現れた涼は静かに怒っていた。普段と比べて殺気が凄い。文がやられたことで気が立っているのだろう。那智の腕を受け止めナイフを弾き飛ばす。
そのまま、那智を投げ飛ばした。澪についていることが多い涼の戦いを、あかりは初めて見た。受け身をとったのか、さほどダメージがなかったらしい那智が立ち上がる。
涼と那智の目が合った。
その瞳から一瞬毒気が抜けた気がした。
自分たちを心配しているような
心から案じているような。
慈しむような。
そんな優しい瞳だった。
(なぜ? なぜ、そんな優しい瞳を向けることができる? どれが、本当の「彼女」なんだ? 彼女は「何者」なんだ?)
自分が見る限り、那智はすぐに無の感情に戻る。彼女が何を考えているのか涼には分からなかった。
「あんたたち、相変わらず澪にべったりしているわけだ?」
「那智こそ要様にべったりだろう?」
「そういえば、澪。あいつ。このまま、無理をすると――」
那智は口をつぐむ。
「何だ?」
「聞いてないのか? 信頼されてないのか?」
「お前に澪様の何が分かる?」
二人は戦いながら、言葉を交わす。あまりのスピードにあかりはついていけない。目で追うことで精一杯だった。戦いに気をとられていたあかりは、後ろの人影に気が付かなかった。太陽の光を浴びて、要の剣がキラリと光る。
「那智にばかり気を取られていて大丈夫なのか?」
「須田さん!」
要があかりに剣を突き付けていた。首筋に赤い線が入る。要はあかりの口をハンカチで塞ぐ。睡眠薬でも染み込ませてあったのか、意識を失ってしまう。
「涼、動くなよ。動いたらこいつの首を切る」
涼はあかりを奪還しようと行動するが、要に先手をうたれてしまった。
「澪にあの場所に来るように伝えてくれ」
あの場所とは澪と要が住んでいた実家のことである。要は那智とともに姿を消した。
「涼」
「澪様。どうして、ここに?」
自ら運転してここに来たのだろう。
澪が車から降りてくる。
「お前たちがつけているピアスだよ」
涼に携帯を見せる。そこには、自分たちの居場所が示されていた。どうやら、ピアスに位置情報が分かる機能がついていたらしい。涼は文を抱いている澪に代わって運転を引き受ける。
「ピアスにそんな機能が」
「このピアスをしていないのは瞬だけだ」
「私たちを信じていないということですか?」
「お前たちに何かあった時のためにつけていた機能だ。今回は私の甘さがお前たちを守れなかった」
大切な武器に怪我をさせてしまった。唯一の家族を傷つけてしまった。組を率いる者としてしてはいけないミスである。ドンと強化ガラスを叩く。ここまで、感情を出す澪も珍しい。やはり、文、涼――そして、あかりを信頼しているようだった。
涼は返す言葉がなかった。
「涼」
「はい」
「もし、私が要兄様を殺してしまったとしても、ついてきてくれるか? 地獄までついてくる勇気はあるか?」
「私とてこの世界で生きている者です。甘く見ないでいただきたい」
「み……さ……ま」
文がいつの間にか目を覚ましている。
「文。お前は話さなくてもいい。傷に響くぞ」
「私たちの絆は……そう簡単に……壊れるものではない……そう思います」
再び眠りにつく。
要に指揮権が渡ってしまえば、破滅しかないだろう。命を失うことになったとしても、負けるわけにはいかない。涼、文、瞬、あかりのためにも勝たなければならないだろう。
決着をつけなければならない。
要との決戦が迫ってきていた。
「澪様、須田さんが連れ去られた件に関しては申し訳ありませんでした」
涼は澪に頭を下げる。
「涼が謝る必要はない」
「しかし、私が気を抜かなければ、須田さんが連れ去られることはなかった」
「私も要兄様が動く予感はしていた」
「予感ですか?」
まるで、要に呼ばれたかのように、撃たれた右肩が仕事中に疼いたという。
待っているぞと言っているかのように。
ここにいるぞ、と存在をアピールするかのように。
澪は眠っている文のピアスを外す。
癖のない黒髪をすいた。
それは、別れを示しているかのような仕草だった。
「澪様。文が回復するまでですよね?」
「その予定はない」
「澪様!」
涼は澪の後ろをついていく。予め登録している瞳の色彩認証で扉を開ける。
入ると先代――正の声が流れた。
要、澪へ。
この扉を開くということは緊急事態なのだろう。
本来なら使ってほしくないが、この剣をお前たちに託す。
いいな?
あくまでも自衛のためだ。
この剣で人を殺すことは許さない。
私は二人が血に染まる姿を見たくない。
苦しみを味合わせたくない。
要と澪ならやってくれると信じている。
「先代――もう、遅いです。兄は血に染まってしまった。あなたの命令に逆らった。だから、私は今日、この剣を手にする」
澪が剣を手に取る。
澪がスっと手を差し出す。
ピアスを返却しろと言っているのだろう。
「いや、です」
涼は抵抗するが間を詰めた澪にピアスを取られてしまう。
「これで、お前たちは自由だ。どこにでもいける」
「澪様」
去って行く姿に、涼は自分の手を強く握りしめた。
学校帰りに車に乗り込もうとするあかりを、文は抱きしめた。文の体が崩れ落ちていく。手には血がついていることに気が付いた。
あかりは制服を破いて、慌てて止血をする。
「那智――貴様」
いつの間に到着したのだろうか。
音もなく現れた涼は静かに怒っていた。普段と比べて殺気が凄い。文がやられたことで気が立っているのだろう。那智の腕を受け止めナイフを弾き飛ばす。
そのまま、那智を投げ飛ばした。澪についていることが多い涼の戦いを、あかりは初めて見た。受け身をとったのか、さほどダメージがなかったらしい那智が立ち上がる。
涼と那智の目が合った。
その瞳から一瞬毒気が抜けた気がした。
自分たちを心配しているような
心から案じているような。
慈しむような。
そんな優しい瞳だった。
(なぜ? なぜ、そんな優しい瞳を向けることができる? どれが、本当の「彼女」なんだ? 彼女は「何者」なんだ?)
自分が見る限り、那智はすぐに無の感情に戻る。彼女が何を考えているのか涼には分からなかった。
「あんたたち、相変わらず澪にべったりしているわけだ?」
「那智こそ要様にべったりだろう?」
「そういえば、澪。あいつ。このまま、無理をすると――」
那智は口をつぐむ。
「何だ?」
「聞いてないのか? 信頼されてないのか?」
「お前に澪様の何が分かる?」
二人は戦いながら、言葉を交わす。あまりのスピードにあかりはついていけない。目で追うことで精一杯だった。戦いに気をとられていたあかりは、後ろの人影に気が付かなかった。太陽の光を浴びて、要の剣がキラリと光る。
「那智にばかり気を取られていて大丈夫なのか?」
「須田さん!」
要があかりに剣を突き付けていた。首筋に赤い線が入る。要はあかりの口をハンカチで塞ぐ。睡眠薬でも染み込ませてあったのか、意識を失ってしまう。
「涼、動くなよ。動いたらこいつの首を切る」
涼はあかりを奪還しようと行動するが、要に先手をうたれてしまった。
「澪にあの場所に来るように伝えてくれ」
あの場所とは澪と要が住んでいた実家のことである。要は那智とともに姿を消した。
「涼」
「澪様。どうして、ここに?」
自ら運転してここに来たのだろう。
澪が車から降りてくる。
「お前たちがつけているピアスだよ」
涼に携帯を見せる。そこには、自分たちの居場所が示されていた。どうやら、ピアスに位置情報が分かる機能がついていたらしい。涼は文を抱いている澪に代わって運転を引き受ける。
「ピアスにそんな機能が」
「このピアスをしていないのは瞬だけだ」
「私たちを信じていないということですか?」
「お前たちに何かあった時のためにつけていた機能だ。今回は私の甘さがお前たちを守れなかった」
大切な武器に怪我をさせてしまった。唯一の家族を傷つけてしまった。組を率いる者としてしてはいけないミスである。ドンと強化ガラスを叩く。ここまで、感情を出す澪も珍しい。やはり、文、涼――そして、あかりを信頼しているようだった。
涼は返す言葉がなかった。
「涼」
「はい」
「もし、私が要兄様を殺してしまったとしても、ついてきてくれるか? 地獄までついてくる勇気はあるか?」
「私とてこの世界で生きている者です。甘く見ないでいただきたい」
「み……さ……ま」
文がいつの間にか目を覚ましている。
「文。お前は話さなくてもいい。傷に響くぞ」
「私たちの絆は……そう簡単に……壊れるものではない……そう思います」
再び眠りにつく。
要に指揮権が渡ってしまえば、破滅しかないだろう。命を失うことになったとしても、負けるわけにはいかない。涼、文、瞬、あかりのためにも勝たなければならないだろう。
決着をつけなければならない。
要との決戦が迫ってきていた。
「澪様、須田さんが連れ去られた件に関しては申し訳ありませんでした」
涼は澪に頭を下げる。
「涼が謝る必要はない」
「しかし、私が気を抜かなければ、須田さんが連れ去られることはなかった」
「私も要兄様が動く予感はしていた」
「予感ですか?」
まるで、要に呼ばれたかのように、撃たれた右肩が仕事中に疼いたという。
待っているぞと言っているかのように。
ここにいるぞ、と存在をアピールするかのように。
澪は眠っている文のピアスを外す。
癖のない黒髪をすいた。
それは、別れを示しているかのような仕草だった。
「澪様。文が回復するまでですよね?」
「その予定はない」
「澪様!」
涼は澪の後ろをついていく。予め登録している瞳の色彩認証で扉を開ける。
入ると先代――正の声が流れた。
要、澪へ。
この扉を開くということは緊急事態なのだろう。
本来なら使ってほしくないが、この剣をお前たちに託す。
いいな?
あくまでも自衛のためだ。
この剣で人を殺すことは許さない。
私は二人が血に染まる姿を見たくない。
苦しみを味合わせたくない。
要と澪ならやってくれると信じている。
「先代――もう、遅いです。兄は血に染まってしまった。あなたの命令に逆らった。だから、私は今日、この剣を手にする」
澪が剣を手に取る。
澪がスっと手を差し出す。
ピアスを返却しろと言っているのだろう。
「いや、です」
涼は抵抗するが間を詰めた澪にピアスを取られてしまう。
「これで、お前たちは自由だ。どこにでもいける」
「澪様」
去って行く姿に、涼は自分の手を強く握りしめた。
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