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第十七章「手紙」
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涼、文へ
突然、いなくなることを許してほしい。
成長したお前たちならもう大丈夫だと思った。
これからは、太陽の光を感じて生きてほしい。
自然の息吹を体感してほしい。
笑顔で普通の生活を送ってほしい。
二人の人生に光と希望があることを祈っている。
あかりへ
要兄様との抗争に巻き込んでしまったことを申し訳なく思っている。
あかりはちゃんと学校へ通え。
大切な青春の時期だ。
私といるよりも、友達と過ごした方がいい。
あかりには明るい太陽の下で笑っていてほしい。
大丈夫。
君は思っているよりも強くなった。
自分が思う道を進めばいい。
須田あかり。
白蘭会組長の権限を使いここに解放を約束する。
「文、涼」
「瞬」
「島本さん」
ちょうど、手紙を読み終えたところで瞬がやってきた。普段、スーツが多いためなのか、ポロシャツにジーパンという瞬の私服姿が新鮮に見えた。こうしてみると、どこにでもいる普通の青年と変わらないなと二人は思う。
「澪様が言っていた福祉施設に案内をする」
文、涼は山の中にある福祉施設に来ていた。都会に比べて空気が澄んでいる。
心が洗われているかのような気がした。
あかりもつれて来たかったのが、学校があるために仕方がない。さぼっていた分、課題が山のように出ているらしい。学年上位に入る彼女なら簡単なことだろう。
「あ―、瞬兄ちゃんだ」
どうやら、ここは瞬が働いていた施設のようだった。
「最近、来てくれなくて寂しかった」
瞬が入った瞬間――子供たちが寄ってくる。彼は子供たちの頭を撫でた。子供たちはキャッキャッとはしゃいだ声を上げた。
「このお兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
子供たちは二人に期待の眼差しをむける。どうやら、遊んでくれるかどうかの探りを入れているらしい。
「俺の仕事仲間だよ」
「一緒に遊ぼうよ」
文と涼はわっと取り囲まれる。缶蹴り、鬼ごっこ、縄跳び、トランプなどをして気が付けば夕方になっていた。夕食を作っているいい匂いが施設からしている。流石に、長居をしすぎていた。食べて帰ればという施設の職員に断りと入れて帰路につく。
涼と文も楽しそうで瞬も安心した。連れてきて正解だったなと思う。
心から笑っている二人を瞬は久しぶりに見た。
「今日、子供たちと遊んでみて結論はでたか?」
「島本さん。私」
先に話をしだしたのは、文の方だった。瞬は運転をしながら彼女の話を聞こうとする。
「どうした? 何か悩んでいるのか?」
「この施設では働けない」
「楽しくなかったのか?」
「楽しかったわ。でも、この場所は私にとって澪様の思いが強すぎて苦しいの。それにね。他の施設で働くか保育の仕事に就くかした方が、澪様から離れることができる一歩だと思う」
文は気持ちを吐き出すように答える。
「分かった。涼は?」
「俺は――私はもっと、広い世界を見てみたいです」
「日本を出るということか?」
「もう一度、執事としての基本を学び直したいのです。そしで、瞬みたいな執事になることを目標とします」
涼の瞳にはどこか、挑発的な光が宿っていた。
「なるほど、な。それぞれの道を見つけたということか」
瞬は車の運転をしながら瞳を細める。
「あかりの思いはどうだろうね」
澪と出会ったことで、抗争に巻き込まれて、執事となったあかりはどう思っているのだろうか?
何を考えているのだろうか?
「明日、私が聞いてくる」
文、涼、瞬の間に沈黙が広がる。その沈黙は決して嫌なものではなかった。
「須田さん」
あかりが短大から出ると、瞬が立っていた。ここの短大に通っていることは、三人には話してある。
「島本さん」
「久しぶりだな」
「今日はどうして?」
「君の気持ちを聞きたくてね」
「その前に、文と野田さんはどうしていますか?」
暫く、レポートに追われて、涼と文には会っていない。二人の近況を知りたかった。どのような道に進んだのか、仲間として興味があった。
「文は子供に関わる仕事がしたいと。涼は執事の基本を再び学びに海外へ」
「――私は」
あかりはストローでオレンジジュースをかき混ぜる。カラカラと氷が音を立てた。カフェで流れるクラッシックが心を落ち着かせてくれる。
「君はまだ学生だ。焦る必要はない」
「短大を出たら、子供たちの玩具製造・販売の仕事を一緒にやらないかと、友達から誘われています」
高校からの友達たちと、偶然、進路先が同じだった。入ってすぐに、友達から企業をしないかと声をかけられたのである。友達との関係も良好ですでに、オフィス探しが始まっていた。
忙しくはあるが、充実した日々を送っていた。
「そうか。それを聞いて安心した」
「島本さんは?」
「私は後輩の育成をすることになった」
「島本さんが担当になった生徒たちが可哀そう」
瞬の厳しい訓練に、生徒たちの悲鳴が聞こえてきそうである。それを、想像してしまいあかりはふふふ、と笑う。瞬もつられて小さく笑う。自然と笑顔が出るようになったなら、あかりはもう大丈夫だろう。
こんな屈託ない笑顔が彼女には似合う。それに、今は両親ともはいい関係だという。あかりは強くなったなと瞬は思った。
「ピアスは外さないのか?」
「私にとってお守り替わりです。今後、外すことはありません」
「須田さん」
「はい」
「何事にも負けないあなたの姿勢、私は尊敬します」
「ありがとうございます。ではまだレポートの続きがあるので」
立ち去る彼女の後姿を見送る。
(澪様。安心してください。須田さんは強くなりました。彼女は大丈夫だと思います)
瞬は心の中で澪に呼び掛けた。
突然、いなくなることを許してほしい。
成長したお前たちならもう大丈夫だと思った。
これからは、太陽の光を感じて生きてほしい。
自然の息吹を体感してほしい。
笑顔で普通の生活を送ってほしい。
二人の人生に光と希望があることを祈っている。
あかりへ
要兄様との抗争に巻き込んでしまったことを申し訳なく思っている。
あかりはちゃんと学校へ通え。
大切な青春の時期だ。
私といるよりも、友達と過ごした方がいい。
あかりには明るい太陽の下で笑っていてほしい。
大丈夫。
君は思っているよりも強くなった。
自分が思う道を進めばいい。
須田あかり。
白蘭会組長の権限を使いここに解放を約束する。
「文、涼」
「瞬」
「島本さん」
ちょうど、手紙を読み終えたところで瞬がやってきた。普段、スーツが多いためなのか、ポロシャツにジーパンという瞬の私服姿が新鮮に見えた。こうしてみると、どこにでもいる普通の青年と変わらないなと二人は思う。
「澪様が言っていた福祉施設に案内をする」
文、涼は山の中にある福祉施設に来ていた。都会に比べて空気が澄んでいる。
心が洗われているかのような気がした。
あかりもつれて来たかったのが、学校があるために仕方がない。さぼっていた分、課題が山のように出ているらしい。学年上位に入る彼女なら簡単なことだろう。
「あ―、瞬兄ちゃんだ」
どうやら、ここは瞬が働いていた施設のようだった。
「最近、来てくれなくて寂しかった」
瞬が入った瞬間――子供たちが寄ってくる。彼は子供たちの頭を撫でた。子供たちはキャッキャッとはしゃいだ声を上げた。
「このお兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
子供たちは二人に期待の眼差しをむける。どうやら、遊んでくれるかどうかの探りを入れているらしい。
「俺の仕事仲間だよ」
「一緒に遊ぼうよ」
文と涼はわっと取り囲まれる。缶蹴り、鬼ごっこ、縄跳び、トランプなどをして気が付けば夕方になっていた。夕食を作っているいい匂いが施設からしている。流石に、長居をしすぎていた。食べて帰ればという施設の職員に断りと入れて帰路につく。
涼と文も楽しそうで瞬も安心した。連れてきて正解だったなと思う。
心から笑っている二人を瞬は久しぶりに見た。
「今日、子供たちと遊んでみて結論はでたか?」
「島本さん。私」
先に話をしだしたのは、文の方だった。瞬は運転をしながら彼女の話を聞こうとする。
「どうした? 何か悩んでいるのか?」
「この施設では働けない」
「楽しくなかったのか?」
「楽しかったわ。でも、この場所は私にとって澪様の思いが強すぎて苦しいの。それにね。他の施設で働くか保育の仕事に就くかした方が、澪様から離れることができる一歩だと思う」
文は気持ちを吐き出すように答える。
「分かった。涼は?」
「俺は――私はもっと、広い世界を見てみたいです」
「日本を出るということか?」
「もう一度、執事としての基本を学び直したいのです。そしで、瞬みたいな執事になることを目標とします」
涼の瞳にはどこか、挑発的な光が宿っていた。
「なるほど、な。それぞれの道を見つけたということか」
瞬は車の運転をしながら瞳を細める。
「あかりの思いはどうだろうね」
澪と出会ったことで、抗争に巻き込まれて、執事となったあかりはどう思っているのだろうか?
何を考えているのだろうか?
「明日、私が聞いてくる」
文、涼、瞬の間に沈黙が広がる。その沈黙は決して嫌なものではなかった。
「須田さん」
あかりが短大から出ると、瞬が立っていた。ここの短大に通っていることは、三人には話してある。
「島本さん」
「久しぶりだな」
「今日はどうして?」
「君の気持ちを聞きたくてね」
「その前に、文と野田さんはどうしていますか?」
暫く、レポートに追われて、涼と文には会っていない。二人の近況を知りたかった。どのような道に進んだのか、仲間として興味があった。
「文は子供に関わる仕事がしたいと。涼は執事の基本を再び学びに海外へ」
「――私は」
あかりはストローでオレンジジュースをかき混ぜる。カラカラと氷が音を立てた。カフェで流れるクラッシックが心を落ち着かせてくれる。
「君はまだ学生だ。焦る必要はない」
「短大を出たら、子供たちの玩具製造・販売の仕事を一緒にやらないかと、友達から誘われています」
高校からの友達たちと、偶然、進路先が同じだった。入ってすぐに、友達から企業をしないかと声をかけられたのである。友達との関係も良好ですでに、オフィス探しが始まっていた。
忙しくはあるが、充実した日々を送っていた。
「そうか。それを聞いて安心した」
「島本さんは?」
「私は後輩の育成をすることになった」
「島本さんが担当になった生徒たちが可哀そう」
瞬の厳しい訓練に、生徒たちの悲鳴が聞こえてきそうである。それを、想像してしまいあかりはふふふ、と笑う。瞬もつられて小さく笑う。自然と笑顔が出るようになったなら、あかりはもう大丈夫だろう。
こんな屈託ない笑顔が彼女には似合う。それに、今は両親ともはいい関係だという。あかりは強くなったなと瞬は思った。
「ピアスは外さないのか?」
「私にとってお守り替わりです。今後、外すことはありません」
「須田さん」
「はい」
「何事にも負けないあなたの姿勢、私は尊敬します」
「ありがとうございます。ではまだレポートの続きがあるので」
立ち去る彼女の後姿を見送る。
(澪様。安心してください。須田さんは強くなりました。彼女は大丈夫だと思います)
瞬は心の中で澪に呼び掛けた。
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