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第1話 顔合わせ
しおりを挟む高校一年生、十五歳の春に母が再婚した。相手はまだ知らないがどうやら会社経営の金持ちらしい。今日が初めての顔合わせの日だ。まだ着慣れない高校の制服を身にまとい、ネクタイを締める。緊張と不安を胸の内に潜ませ俺は母とともに再婚相手との待ち合わせ場所に向かった。
場所は都内一等地にそびえ立つ高級ホテルのレストランだと言う。道理で母の身なりに気合が入っているわけだ。
普段ではまずお目にかかれない洒落たドレスを着ている。
それに加えて滅多に乗らないタクシーまで呼んで、お相手は貴族の末裔とかIT社長の類か?
俺はタクシーの後部座席で率直に母に問うてみた。
「母さん、再婚相手ってどんな人? 俺まだ何も聞かされてないんだけど」
「そうね、素敵な人よ。きっと気に入ると思うわ。ふふ」
母はご機嫌そうに笑った。
「はぐらかさないでよ」
「洸太、会ってからのお楽しみよ」
俺はため息をつきながらポケットからスマホを取り出し青白い画面を触り時刻を確認する。待ち合わせ時間まで残り十五分を切っていた。
俺と母を乗せたタクシーは都会のビル群の間を縫うように静かに走り、やがて止まった。どうやら目的地に到着したらしい。母が精算を終えるとドアが開いた。俺は先に降車した。すると眼前にはガラス張りの高層ビルが太陽の姿を反射させながら君臨している。その上スーツ姿の屈強なホテルマンがご丁寧にお出迎えをしてくれるではないか。
後から降りてきた母が出迎えたホテルマンに「レストランで待ち合わせなの」と告げると男は笑顔を作り何も言わずにレストランまで案内した。
終始圧倒されながら母の再婚相手が待つレストランの入り口までやってきた。
遂にご対面の時だ。俺は息を整え母の後ろをゆっくり歩いた。周囲は高そうなスーツを着た大人ばっかりで制服姿の自分が浮いているのではないかと思い大分恥ずかしかった。
少し歩くと母が呟いた。
「あっ、いたいた」
俺はその言葉に反応して母の視線を追った。視線の先には黒いジャケットを着た細身の男性が手招きしていた。どうやらあの人が再婚相手らしい。俺と母がテーブルに到着すると、男性は立ち上がり挨拶をした。
「こんばんは。陽子さん、待っていたよ。あ、洸太君だね? 初めまして、沢城夕です」
随分と高い声だな。それに顔は凛々しい。悔しいが、かっこいい。
「ほら洸太、挨拶は?」
「初めまして、鳳洸太です」
「よろしくね」
「ごめんなさいね、夕さん。待った?」
「いや、待つ時間も楽しかったよ。それに君たちは時間通りに来ただろう。むしろ私が早く来すぎたんだよ」
いつになくはしゃいでいた母の気持ちもわかる。この人性格もイケメンだ。こんなに良い男中々いない。悔しい
が、母の幸せそうな顔を見たら認めざるを得ない。
挨拶を終えると俺達は席についた。それを見計らっていたのか十秒もしない内に料理が運ばれてくる。カトラリーに手を伸ばして料理を堪能しようとした瞬間だった。再婚相手の沢城さんが制止した。
「ちょっと待ってください。陽子さん、私の事洸太君に話しているの?」
「いいえ、『会ってからのお楽しみ』ってことにしていたから何も話してないわ」
「やっぱり。洸太君気づいてないよ」
「本当に? あらあら」
何のことだ? 確かにまだ何も知らないけど。
テーブルを挟んで対面に座る沢城さんが真剣な顔で俺のほうを見て息を小さく吸込み言った。
「私、女なんだ」
「え?」
何かの聞き間違いか、俺の脳がバグを起こしているのか、それとも新手のジョークなのかもしれない。俺はもう一度耳の穴をかっぽじいて訊いた。
「今なんて?」
「だから、私、女なんだけど。それでもいい?」
それを聞いた俺の口から言葉は出てこず、息も凍り付いた。
悪い冗談か? ……それにしては空気が重い。
改めて俺は沢城さんの姿を、目を凝らして観察した。
確かに男性にしては線が細いし声も甲高い。顔つきも女性と言われれば納得できる。だが、確証がない。決定的な
女性であるという証拠が欲しい。
俺は沢城さんに詰問した。
「何か証拠はありますか?」
「ここで服を全て脱げと」
「そこまでは言ってません」
「では、少しだけ」
沢城さんは迷いのない手つきでシャツのボタンを上から二つ外して少し胸部をはだけた。そこには確かに柔らかそうな白い膨らみと下着の布地が見えた。
俺は慌てて周囲を見回し誰もこちらを見ていないことを確認すると小声で囁いた。
「わかりましたから、もう仕舞ってください」
「これで私が女性だとわかったね」
「……はい」
「その上で今回の再婚の件だけど、洸太君はどう思う? 賛成か反対か」
沢城さんはシャツのボタンを締めながら賛否を問うてきた。
俺の脳内はまだ混乱していた。母の再婚相手が女性ということは、つまり母は女性が好きだという事になる。今まで長い間、共に生活してきてそんな素振りは微塵もなかった。テレビにイケメンの男性が映っていれば「かっこいい!」とか言っていた記憶もある。
まさか母がレズビアンだったとは思いもしなかった。正直、驚愕の事実だ。自然と顔が下に落ちていく。
俺は沢城さんの問いに答えなかった。答えてしまうとその事実を認めてしまう事になる。純粋にそれが嫌だった。具体的に同性愛に嫌悪感があるわけではないが、いざ当事者となると、得体の知れない何か良くない負の感情が心の底から渦巻いてくる。
下を俯いたままの俺に隣に座っている母がいつものように優しい声で謝る。
「こんな形になってしまってごめんなさいね」
「母さんが謝ることじゃないよ。それに誰も悪くない。それは分かっている。これは俺の問題だから」
同性婚は自治体単位では法的に認められているがまだまだ世間の目は冷ややかで抵抗を覚える者も少なくないのが現状だ。そんな中での今回の再婚は周囲の風当たりも強いだろう。
冷めた料理を食べることなく時間が沈黙とともに過ぎていく。周りの客が食事を終え、帰路につき始めたとき沢城さんが停まった時間を切り裂いた。
「一つ提案があるんだけど。……お試し期間を作ろうか」
俺は顔を上げ提案の内容を聞いた。
「どういうことですか?」
「正式な再婚は少し見送って、三人で共同生活をする。期間は半年くらいかな」
「それで?」
「共同生活が上手くいって洸太君が納得してくれたら三人は家族になる。洸太君、陽子さん、それでもいいかな」
母の返答は早かった。
「私は構わないわ。結局、みんなで幸せにならないと意味がないから。洸太は?」
正直言って沢城さんの提案はうまくいくとは思えなかった。きっと誰かが損をする。不快に思う。メリットなんてないに等しい。でも、俺は母に幸せになってほしい。その一心だった。俺は自分の心を押し殺し答えた。
「俺も取り敢えず、やってみたいと思います。結局、実際に経験してみないとわからないこともあるだろうし」
「じゃあ、これからよろしくね。生活に必要なものは私が手配しておくから準備ができたら報告するね」
こうして三人での仮の新生活が決定した。
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