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第2話 新居
しおりを挟む顔合わせから二週間後、沢城さんから連絡をもらった俺と母は都内の駅前で待ち合わせをしていた。
待ち合わせ時間の十分前にもかかわらず、沢城さんの姿があった。相変わらず凛々しい。
「二人共、休日にわざわざありがとう」
「夕さんこそ忙しいのに大丈夫なの?」
「私の方は問題ないよ。洸太君もありがとう」
「いえ。それで今日は一体何をするんですか?」
「そうだね。早速本題に、と行きたいところだけどこんな所で落ち着かないだろう。近くの喫茶店に移動して話そうか」
沢城さんに案内されて入ったのは隠れ家のような洒落た喫茶店だった。普段なら一人では絶対に入らない、いや入
れない雰囲気を醸し出している。沢城さんは先頭に立って何の躊躇いもなく入店していく。俺と母も後に続いて入り口をくぐる。店内は落ち着いた音楽と珈琲の香り、そして木を基調とした内装で整っており高尚な空間であった。庶民が身にしみ込んだ俺からすると逆に落ち着かない。まだファストフード店の雑踏の方が穏やかな心でいられる。
沢城さんがメニューを手に取り「何が飲みたい?」なんて聞くから俺は雰囲気に釣られて飲んだこともないブラックコーヒーを注文してしまった。
数分後にはテーブルにブラックコーヒーが三つ並んでいた。香ばしい湯気の立つカップを手に取り、コーヒーをすする。見栄を張るもんじゃないと直ぐに深く後悔した。この苦みは俺の舌には合わないと確信する。
俺がコーヒーの苦みと格闘していると沢城さんが口を開いた。
「少し落ち着いた所で、今日の本題に入ろうか」
俺と母は黙って頷く。
「これから三人の新居を見に行こうと思う。いわゆる内見だね。私が事前に何件か良さそうな物件を選んでおいたからその中から二人に決めてもらおうと思って」
「新居ですか。確かに俺と母の家で三人が暮らすには狭いですけど、沢城さんの家はどうなんですか?」
「私の家も一人暮らし用の1LDKでね。手狭だろうと思って、新しい部屋を借りることにしたわけなんだけど、ダメかな?」
「俺は大丈夫ですけど、母さんは?」
「いいじゃない! 素敵だと思うわ」
「では早速」
そう言うと沢城さんはスマホを取り出し事前に調べてきたという物件の情報を見せてきた。
「ここなんてどうかな。築十年の3LDK、家賃三十万」
正直高いと思ってしまった。だが、隣に座っている母の輝いた目を見てしまったら反対なんて出来なかった。
結局、いくつか物件を見たが、母が内見を希望したのは最初に見た家賃三十万の高級マンションだった。沢城さんの経済力を考えると大した負担にならないだろうが、こちら側が萎縮してしまう。乗り気な母を尻目に俺の心は穏やかではなかった。
残りのコーヒーを飲み干すと俺達は内見の現場に向かった。
地下鉄を乗り継いで二十分で現場に到着し、マンションの前には仲介業者の女性が待っているのが見える。
「ご予約して頂いた沢城様ですね。案内します三上です。鍵はすでに借りてますのでどうぞこちらへ」
重厚なドアを抜けると広いエントランスにオートロックのスライドドアが俺たちを出迎える。
決して高層マンションと呼べるほどではないが、地上七階建てのマンションの最上階とくれば充分に高級だろう。
三上さんに案内され、部屋の中に入る。廊下を抜けると広いフローリングの居間、それに加えてカウンターキッチンと三つの部屋を見学した。風呂場も立派で綺麗だった。
母は「ここで決まりね」と意気込んでそのまま勢いに任せて当日に契約を結ぶことになった。
それから一か月後の日曜日、俺の高校生活最初の定期テストが無事終了してから引っ越しが行われた。
新居では個人部屋が広くなりそれなりに快適な環境が整備され、満足している。
高校には少し通学時間が長くなるが通えないほどではなかったので学校は変えなかった。
荷ほどきが終わったころには三人での生活に少し慣れてきていた。三人で家事をこなし、三人で食事もした。多少の遠慮や距離感のつかめない時もあるが徐々にその差は埋まるだろうと、俺は若干楽観視していた。
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