青さを知る前に

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サイレンは目の前に

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 私が小学校一年生の初めての夏休みを宿題もせずに友達数人と自転車を漕いで遊んでいる暑い昼間だった。

 公園近くの道路の一角を救急車がサイレンを灯火させて停車していた。

 周囲には深刻そうな顔をした大人たちが何人もいて物々しい雰囲気が漂っている。

 私たちはその道路の対面側を走っていたので現場がよく見えず結局、そのまま走り去り遊びに戻った。

 翌日、悲報が耳に届く。

 夏休みと言えど学童保育所に通わされていた私は、蝉が大合唱する中涼しい空気を満喫していた。

 そこへ職員の一人が私のところに駆け寄ってきた。

 「ゆうちゃん、昨日交通事故に遭ったって」

 「えっ?」
 
 「家の近くの公園らへんで車に轢かれたらしいの」

 「……そうなんですか」

 「ゆうちゃんとは確か同じ下校班だったよね?」
 
 「はい」

 「暫くは一人少なくなるからね」

 「わかりました」

 「あなたも車には気をつけてね」

 そう言うと職員は立ち去っていった。

 私は昨日見かけた救急車がゆうちゃんの事故と結びつき心臓の音がやけに騒がしくなった。

 何故ゆうちゃんが事故にあったのかは夏休み明けに判明する。

 残暑が厳しい九月に入り新学期が始まった日のことだった。

 全校朝礼時に校長先生からゆうちゃんの事故の詳細が話された。

 大体のことは夏休み中に聞かされた内容と同一の話だった。

 しかし、私は事の重大さに気づいていなかった。

 すぐに回復してまた一緒に下校することになる。

 また荷物持ちさせられるんだろうな、なんて内心では思ったいたくらいだ。

 そして、事故から一か月程経過した秋の初め頃訃報が入った。

 「ゆうちゃん死んだって」

 唐突だった。

 同じ学年で一緒の下校班の男の子にそう告げられ、私は下唇を強く噛みしめた。

 「……そうなんだ」

 「うん」

 ゆうちゃんとは特別仲が良かったわけではなかった。

 偶々下校班が一緒になり、周りが『ゆうちゃん』と呼ぶから成り行きで私もそう呼んでいただけで学童の帰り以外で話したこともない関わりの薄い子、ただそれだけだった。

 さらに言えば好きなほうでもなかった。

 帰りは必ず荷物持ちさせられるからあまり好感も持てない。

 それでも私は悲しかった。

 後日事故現場を通りかかった時、花やお菓子が大量に置かれていたのを見て私は初めて「もうあの子はいないんだ」と実感した。

 その年の秋の後半に学校の体育館で告別式をやったらしい。

 私は招待されなかった。

 後日、事後報告でそのことを聞いた時私は疎外感を強く感じ、腹が立った。

 さよならを言えていない自分自身にも腹が立ちしばらくはゆうちゃんのいない日常に違和感を感じていた。

 その年の終わりに私は学童保育を辞めた。

 理由は特になかった。

 強いて言えば、自宅から遠いから。

 そんな家庭の事情で私はゆうちゃんとの唯一接点だった学童保育所を後にした。

 ゆうちゃんが死んでから約一年後、私は習い事の帰り道にあの事故現場付近を自転車で通りがかった。

 特に意識したわけでもなく、また命日を覚えていたわけでもなかった。

 ただの偶然だ。

 ただ、週に数回行き来している道だったので道路に変化があれば目に付く。

 それだけの話だ。

 救急車が停まっていたあの場所には沢山の花束が献花されていた。

 色とりどりの花束が風になびいている中私は足を止め、手を合わせた。

 ひぐらしの鳴く夕暮れ時に線香の白檀の香りが鼻の奥にまとわりついて離れない。

 私は鼻を指で擦るとその場を早々に去った。

 いっちょ前にガキが手を合わせている光景の俯瞰を想像して少し恥ずかしくなったのだ。

 茜色の夕焼けがやけに目に染みた。
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