神様のお導き

ヤマト

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プロローグ

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 白さんの話にばかり夢中になっていたが、僕もその異世界――というか、遥か未来に飛ばされてきた。僕は多分、あの時死んだ筈だった。これからどうすれば良いのだろう。
「…………」
 俯き、急に押し黙ってしまった僕に、白さんは優しく声を掛けてくれた。
「大丈夫ですよ。貴方のこれからは、貴方の望むままに――」
「え?」
 それは一体どういう事だろうと、僕は顔を上げる。
「貴方に何があったかは、失礼ながら透視をして、見させていただきました。だから、私は貴方が過去から来た者だということも理解できました」
「あ…」
 そう言えば、僕は何も言っていないのに、白さんは最初から僕が過去の地球から来たことを知っていた。やっぱり、神様にはなんでもお見通しなんだな…。
 それってつまり、僕がブラック企業で受けた嫌がらせやパワハラとか、不良に絡まれて情けなくやられてたことも見られたのかな…。
「はは…。情けないや…」
 僕は思わずそう口にしていた。自己嫌悪が半端ない。何をされても言い返せない弱い自分に嫌気が差す。けど、ずっとそうやって生きてきた。今更、変えようと思ってもなかなか変えられない。
「不良に絡まれて…、あ、これ死んだなって思いました。でも悲しいとか後悔とか、そういうのは全然なかったんです…。やっとこの人生から解放されるのか…。むしろ、そんな安心感だけがついてきました」
 生きていても仕方ない。いつだって僕は都合良く使われ、捨てられる。学生時代はそうでもなかった。楽しくやれてた。けれど、社会に出て、今の会社に入ってからは、残業に追われる日々。上司に叱られ、嘲笑われ、なんか…毎日疲れてた。毎日いつか死んでやろうって思ってた。でも、痛みや苦しみを伴って死ぬのが怖い。死ぬのは怖くないのに痛いのが嫌だ。そうやって先延ばしにしてきた。それが、あのタイミングで一瞬で死ねそうだったんだ…。
「なんで…僕は生きてるんだろう…」
 気づけば僕は、ボロボロと大きな涙を頬に伝わせ、肩を震わせ泣いていた。ギュッと握りしめた拳に、目から溢れた雫がぽたぽたと落ちていく。
「やっと、死ねたと思ったのに…どうして僕は、まだ…」
「それは、神様の思し召しかもしれませんね」
 ポツリとそう呟いた白さん。僕は言っている意味がよく分からず、再び顔を上げて白さんを不思議そうに見た。
「おかしいですか? 神が神を語るのが。でも、私も神であって神ではないんですよ。ただ創られただけの存在。それが力を持て余しすぎてしまった。私は神であるという自覚はほとんどないですし、私自身架空の神様に祈ることだってあるんですよ。運命とか、そういう曖昧なものに」
「…………」
 僕は、静かに白さんの言葉に耳を傾けた。白さんは僕にティッシュを差し出した後、改めて僕に向き直り、真面目な表情をして、言葉を続けた。
「山上さん。貴方には選択肢があります」
「選択肢…?」
「一つ、貴方を元の時間軸へと戻し、魂をあの世へ送ること。つまり、死ですね」
 死――言葉にしてそう言われると、なんだかとても怖くなった。僕は息を飲み込み、白さんを見つめた。
「二つ、このままこの時間軸に残り、第二の人生を歩むこと。そうなった場合、貴方がこの世界で生きていくサポートをできる限りさせていただきます」
「第二の、人生…」
 そんなことを言われても正直、僕はもうどんな場所でも生きていく自信がなかった。また、社会に出た時と同じようになるのではないかと怖かった。
「すぐに決断をしなくても良いと思います。けど、ここに残るのなら、そうですね…。まずは、この家の使用人として頑張ってみませんか? 丁度、手が足りなかったんですよね。家は広いし、大家族だし、家事が追いつかないんですよ。ここに住み込みで働きながら、テラについて学ぶ。とても良い方法だと思いませんか!」
 白さんは両手をパンと叩いて、ニコニコと笑った。彼女のくったいない笑顔を見ていると、僕も釣られて笑いそうになった。さっきまで泣いていたと言うのに、単純なものだ。
 しかし、白さんの提案に、僕は少し惹かれていた。もう死んでもいいやと思っていたけれど、白さんの許で生活できるのなら、衣食住は困らないし、多分、上司みたいに怒られもしないし良いかもしれない。何より、テラについてもとても興味がある。せっかく来た異世界だ。いや、異世界じゃないけど。楽しまなきゃ損な気がした。きっと神様がくれたチャンスなのだ。
「とりあえず一日寝て――」
「僕、ここで働きます!」
「え!?」
 白さんが何か言いかけてたけど、その場のノリと勢いで、僕は二つ返事で白さんの提案を飲み込んでいた。流していた涙もいつの間にか引っ込んだ。
「掃除に選択、ゴミ出し、料理、なんでもします! やっぱり、死ぬのは怖いし、すごい確率でここに飛ばされたんだと思うし…僕も、もう一度人生をやり直したい…。白さんにはご迷惑お掛けするかと思いますが…その、良かったら…」
 勢いでそうは言ったものの、段々と自信がなくなってしまい、声が徐々に細々くなっていく。我ながら情けない。
 そんな小さくなっていく僕を見て、白さんは何度か目を瞬かせて、やがて、くすりと笑ってこう言った。
「えぇ、喜んで! これも何かの縁ですからね!」
 そう、これはきっと神様のお導きだ!
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