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2話目!銀の章 アダマス
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ビーチフラッグスもどきを始めようと、開始位置などに線を引いたりして準備をしていると、それに気付いた数人の子供たちが、僕らのことを少し離れたところから凝視していた。その眼差しはあまり心地の良いものではなく、僕たちを警戒するように鋭い眼差しで見つめていた。
「じゃあ、位置について――」
準備も整ったところで、フラッグから二十メートル程離れた場所で、銀さんと少年は位置についていた。少年は勝ちを確信するかのように、意気揚々とした様子で、ほの表情は自信に満ち溢れていた。一方、銀さんはと言うと、口元をマスクで隠してはいるものの、相も変わらぬ気の抜けた表情をしているように見える。僕は二人がちゃんと位置に着いたことを角煮すると、開始の合図である掛け声の続きを叫んだ。
「よーい――始めッ!」
二人は同時にフラッグへと駆け出す筈だった。しかし――
「えっ!?」
目に映った光景に、僕は自身の目を疑った。なんと、周りで見ていた子達が銀さんの足首を掴んで、走行を阻止していたのだ。
「へへ! 邪魔はしないとは言ってないぜ!」
少年は僕らを馬鹿にしたように嘲り笑い、余裕綽々といった様子で、軽い足取りでフラッグ目掛けて走っていく。
しかし、相対する銀さんは、未来視だか透視だかでこのことが分かっていたかのように、特に焦った様子もなく少年を見つめた。
すると、突然、少年の足がピキピキと音を立てて氷漬けにされていくではないか。氷で足を取られて動けなくなった少年は、その場で勢い良く転けた。そして、それは周りの子達も同様で、全員足元が氷漬けにされていく。更に、銀さんの足を掴んでいた子の手がバチッと一瞬光ると、その子はその一瞬の衝撃に驚いたようで、思わず銀さんの足から手を離してしまった。
銀さんはその隙を見逃さず、するりとその手から抜けていき、今度は銀さんが余裕綽々の態度でフラッグまでゆるりと歩いていった。
「あ……あぁ!」
「俺も邪魔しないとは言ってない」
絶望に顔を歪ませる少年に対し、銀さんはなんの悪びれた様子もなく、そのフラッグを躊躇なく簡単に手に取ってしまった。周りの子達も唖然としていて、皆開いた口が塞がらない様だった。
銀さんがパチンと指を鳴らすと、子供達の足に凍り付いていた氷は粉々に砕け、キラキラと輝く粒子となって消えていった。
「じゃあ、俺たちの勝ちってことで、盗んだものは返してもらうよ」
銀さんが放り出されたバッグに手をかけようとして、少年はハッと我に返った。そして、銀さんの右足に両手で思いっきりしがみつき、勝負に負けたのにも関わらず、盗んだものを返すことを拒否しようとした。
「待ってくれ! 俺たち、それが無かったらもう生活出来ないんだよ!」
それは、少年だけじゃなく、周りの子達も含めた悲痛の思いだった。
「確かにそれは店の奴らから盗んだものだ! でも、俺たちは……俺たちはそれがないと……」
段々と力なく弱弱しい声になっていく。見ているこっちの方が辛くなりそうな、悲しい光景だった。
しかし、そんな時だった。今度は少年たちよりも年上の青年くらいの男性が現れた。
「こら! ジン! お前また盗みを働いたそうだな! それに人様に迷惑掛けて何やってる!」
青年は少年の名を呼び、今にも殴り掛かりそうな勢いで彼を怒鳴りつけた。その怒った青年の声に、ジンだけではなく、周りの子たちも萎縮して怯えてしまう。
「そう怒るなよ、ケイ兄! 俺はただ皆の為を思って――」
「口答えするな! お前が盗みを働いたら!また俺が職を失うじゃないか……! 安い給料でもスラムの奴を雇ってくれる人なんて早々居ないのに……!」
どうやら、ケイ兄と呼ばれた彼は真っ当にちゃんと働いているらしく、ジンが盗みを働くと身内として雇い主から解雇されてしまうかもしれないらしい。
「今回の仕事ももう終わりだよ!」
「でも! でもさ! 今の仕事もおかしいよ! ケイ兄にばっかりキツい労働させて、ちょっとでも気に入らない事があれば、ケイ兄ストレス発散の道具みたいに暴力奮ってさ! 俺、もうそんなケイ兄見てられないよ!」
ジンは感情が昂り過ぎたのか、突然、抑制の効かなくなった子供のように泣きわめき始めた。それを見て、ケイはやっと自分が言い過ぎたことに気づいたのか、気まずそうに「ごめん…」と、消えそうな声で呟いた。
「アンタらも、ごめん。多分盗んで来たもんを取り返しに来たんだろ? ほら、さっさと持って帰りなよ」
ケイさんは落ちていたカバンを拾って、銀さんの胸に押し付けるようにして渡した。
「ただ、カバンは後で返してくれると嬉しい。俺たち、カバンを買うお金もないからさ……」
バツが悪そうにそう言う彼は、自身の収入が低いとジンに言われたことを気にしているのだろう。
「ほんとは俺も、こいつらが盗みをしないようにちゃんと養える仕事に就きたいんだけどさ……。全部俺の責任だ。ほんとごめん」
ケイは僕と銀さんに深々と頭を下げて、周りにいる子供達の分も謝った。
僕は何とか彼らを助けてあげたいと思うけれど、やっぱりそんな力もなく、後ろ髪を引かれながらも、銀さんと共にその場を後にしようとした時だった。
再び、また――銀さんの腰に少年が抱きついて、銀さんを引き留めたのだった。
「なぁ! 助けてくれよ! 正義のヒーローなんだろ!? なんで正義のヒーローなのに、金持ちばっかの味方するんだよ! 俺たちスラムの奴らはゴミなのか!? 助けてくれよ……」
癇癪を起こし、歯止めが効かなくなったのか、ジンは自分が抱えていた不満を銀さんにぶちまけるように泣き叫んだ。
銀さんはというと、足は止めたが振り返ることもせず、何かを考えるように、ただ前を見つめていた。
「こら! ジン! 他人にわがままを言うな! お前、自分が何言ってるかわかってるのか!?」
「わかってるよ! でもこの人は正義のヒーローだって自ら名乗ったんだ! 金持ちだけ助けて俺たちを助けないなんて、そんなのおかしいよ!」
泣きわめきながら銀さんの腰から離れようとしないジンと、そんなジンを無理矢理引き剥がそうとするケイ。そんな兄弟の喧嘩に巻き込まれた銀さんは「はぁ……」と、深く溜め息を吐いた。
「ん」
銀さんはジンに向けていた背をくるりと翻し、盗まれた物が入ったバッグを僕に渡した。
銀さんが突然こちらを向いたことに、ジンもケイも喧嘩するのも忘れて、不思議そうにそちらを見た。
「いいよ。じゃあゲームをしよう」
「じゃあ、位置について――」
準備も整ったところで、フラッグから二十メートル程離れた場所で、銀さんと少年は位置についていた。少年は勝ちを確信するかのように、意気揚々とした様子で、ほの表情は自信に満ち溢れていた。一方、銀さんはと言うと、口元をマスクで隠してはいるものの、相も変わらぬ気の抜けた表情をしているように見える。僕は二人がちゃんと位置に着いたことを角煮すると、開始の合図である掛け声の続きを叫んだ。
「よーい――始めッ!」
二人は同時にフラッグへと駆け出す筈だった。しかし――
「えっ!?」
目に映った光景に、僕は自身の目を疑った。なんと、周りで見ていた子達が銀さんの足首を掴んで、走行を阻止していたのだ。
「へへ! 邪魔はしないとは言ってないぜ!」
少年は僕らを馬鹿にしたように嘲り笑い、余裕綽々といった様子で、軽い足取りでフラッグ目掛けて走っていく。
しかし、相対する銀さんは、未来視だか透視だかでこのことが分かっていたかのように、特に焦った様子もなく少年を見つめた。
すると、突然、少年の足がピキピキと音を立てて氷漬けにされていくではないか。氷で足を取られて動けなくなった少年は、その場で勢い良く転けた。そして、それは周りの子達も同様で、全員足元が氷漬けにされていく。更に、銀さんの足を掴んでいた子の手がバチッと一瞬光ると、その子はその一瞬の衝撃に驚いたようで、思わず銀さんの足から手を離してしまった。
銀さんはその隙を見逃さず、するりとその手から抜けていき、今度は銀さんが余裕綽々の態度でフラッグまでゆるりと歩いていった。
「あ……あぁ!」
「俺も邪魔しないとは言ってない」
絶望に顔を歪ませる少年に対し、銀さんはなんの悪びれた様子もなく、そのフラッグを躊躇なく簡単に手に取ってしまった。周りの子達も唖然としていて、皆開いた口が塞がらない様だった。
銀さんがパチンと指を鳴らすと、子供達の足に凍り付いていた氷は粉々に砕け、キラキラと輝く粒子となって消えていった。
「じゃあ、俺たちの勝ちってことで、盗んだものは返してもらうよ」
銀さんが放り出されたバッグに手をかけようとして、少年はハッと我に返った。そして、銀さんの右足に両手で思いっきりしがみつき、勝負に負けたのにも関わらず、盗んだものを返すことを拒否しようとした。
「待ってくれ! 俺たち、それが無かったらもう生活出来ないんだよ!」
それは、少年だけじゃなく、周りの子達も含めた悲痛の思いだった。
「確かにそれは店の奴らから盗んだものだ! でも、俺たちは……俺たちはそれがないと……」
段々と力なく弱弱しい声になっていく。見ているこっちの方が辛くなりそうな、悲しい光景だった。
しかし、そんな時だった。今度は少年たちよりも年上の青年くらいの男性が現れた。
「こら! ジン! お前また盗みを働いたそうだな! それに人様に迷惑掛けて何やってる!」
青年は少年の名を呼び、今にも殴り掛かりそうな勢いで彼を怒鳴りつけた。その怒った青年の声に、ジンだけではなく、周りの子たちも萎縮して怯えてしまう。
「そう怒るなよ、ケイ兄! 俺はただ皆の為を思って――」
「口答えするな! お前が盗みを働いたら!また俺が職を失うじゃないか……! 安い給料でもスラムの奴を雇ってくれる人なんて早々居ないのに……!」
どうやら、ケイ兄と呼ばれた彼は真っ当にちゃんと働いているらしく、ジンが盗みを働くと身内として雇い主から解雇されてしまうかもしれないらしい。
「今回の仕事ももう終わりだよ!」
「でも! でもさ! 今の仕事もおかしいよ! ケイ兄にばっかりキツい労働させて、ちょっとでも気に入らない事があれば、ケイ兄ストレス発散の道具みたいに暴力奮ってさ! 俺、もうそんなケイ兄見てられないよ!」
ジンは感情が昂り過ぎたのか、突然、抑制の効かなくなった子供のように泣きわめき始めた。それを見て、ケイはやっと自分が言い過ぎたことに気づいたのか、気まずそうに「ごめん…」と、消えそうな声で呟いた。
「アンタらも、ごめん。多分盗んで来たもんを取り返しに来たんだろ? ほら、さっさと持って帰りなよ」
ケイさんは落ちていたカバンを拾って、銀さんの胸に押し付けるようにして渡した。
「ただ、カバンは後で返してくれると嬉しい。俺たち、カバンを買うお金もないからさ……」
バツが悪そうにそう言う彼は、自身の収入が低いとジンに言われたことを気にしているのだろう。
「ほんとは俺も、こいつらが盗みをしないようにちゃんと養える仕事に就きたいんだけどさ……。全部俺の責任だ。ほんとごめん」
ケイは僕と銀さんに深々と頭を下げて、周りにいる子供達の分も謝った。
僕は何とか彼らを助けてあげたいと思うけれど、やっぱりそんな力もなく、後ろ髪を引かれながらも、銀さんと共にその場を後にしようとした時だった。
再び、また――銀さんの腰に少年が抱きついて、銀さんを引き留めたのだった。
「なぁ! 助けてくれよ! 正義のヒーローなんだろ!? なんで正義のヒーローなのに、金持ちばっかの味方するんだよ! 俺たちスラムの奴らはゴミなのか!? 助けてくれよ……」
癇癪を起こし、歯止めが効かなくなったのか、ジンは自分が抱えていた不満を銀さんにぶちまけるように泣き叫んだ。
銀さんはというと、足は止めたが振り返ることもせず、何かを考えるように、ただ前を見つめていた。
「こら! ジン! 他人にわがままを言うな! お前、自分が何言ってるかわかってるのか!?」
「わかってるよ! でもこの人は正義のヒーローだって自ら名乗ったんだ! 金持ちだけ助けて俺たちを助けないなんて、そんなのおかしいよ!」
泣きわめきながら銀さんの腰から離れようとしないジンと、そんなジンを無理矢理引き剥がそうとするケイ。そんな兄弟の喧嘩に巻き込まれた銀さんは「はぁ……」と、深く溜め息を吐いた。
「ん」
銀さんはジンに向けていた背をくるりと翻し、盗まれた物が入ったバッグを僕に渡した。
銀さんが突然こちらを向いたことに、ジンもケイも喧嘩するのも忘れて、不思議そうにそちらを見た。
「いいよ。じゃあゲームをしよう」
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