神様のお導き

ヤマト

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8.5話目!はじめてのおつかい アキラより

8.5-8

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「紅さん」
 次に向かったのは紅さんの許。紅さんはご飯の仕込みを終えたところで、手を洗ってタオルで手を拭いてから拓斗さんの方へ振り返った。
「あぁ、おかえり。大丈夫だったか?」
 紅さんはとても優しい方だ。拓斗さんを見るや否や、真っ先に彼の心配をしてくれた。拓斗さんは「お陰様で」と、全く意味のわからない言葉で返事をし、照れ笑いをしながら店で買ってきたものを袋から取り出した。
「一応言われてきたもの買ってきたんですけど、デザインが気に入るかどうか……」
 紅さんが頼んだものはタンブラー。保温性や保冷性があり、長時間飲み物を飲むのにはピッタリだ。
 紅さんはタンブラーの入った箱を受け取ると、すぐにその場で箱を開けた。中身を取り出し、くるりと回してデザインを確認する。
「へぇ、可愛いじゃないか」
 拓斗さんが選んだタンブラーは黒の背景に真ん中に小さなコーヒーのマークが描かれたものだった。
「こ、紅さんにはちょっと可愛すぎましたかね?」
「いいや、そんなことはない。でも、これは君のだ」
「え?」
 紅さんはタンブラーを拓斗さんに手渡すと、柔らかい笑みを浮かべた。
「拓斗はいつも本を読む時少しずつ飲み物を飲んでいるだろう? 普通のコップだと長時間飲み物を放置すると汗も掻くし、氷もすぐ溶けてしまう。冬は温かいものを飲みたいだろうし、拓斗にピッタリだと思ってね」
「紅さん……!」
 黒乃さん、司さんペアに続いて、この高待遇。拓斗さんは予想していなかったのか、感動に打ち震えながら大事そうにそのタンブラーを胸に抱いた。
「ありがとうございます! 僕、大切にします!」
「ん? あ、あぁ。そんな大袈裟に喜ばなくても……。でも、使ってくれるなら嬉しいよ」
 にっこりと爽やかな笑みを浮かべる紅さん。今、拓斗さんには彼が神様に見えているだろう。いや、神なんだけど。

 拓斗さんはまたもや思いもよらぬ収穫に感動を覚えながら、部屋にタンブラーを置いて部屋から出てきた。そして、次は薫さんの許へ向かった。薫さんはいつもと変わらず、部屋でよくわからない本を読んでおり、拓斗さんを見ると、本に栞を挟んで拓斗さんのそばにやって来た。
「頼んでいた本、ちゃんと買ってこれましたか?」
「はい! これですよね?」
 拓斗さんは買ってきた本を薫さんに手渡した。本を受け取った薫さんは一応表紙と中身を確かめて、問題ないことを確認する。
「ありがとうございます。これはお礼です」
 薫さんはすぐ近くの机のそばに置いていた本を数冊渡すと、真顔のままその本について簡単な説明をしてくれた。
「一応貴方もテラについて勉強していると聞いたので、テラについてわかりやすい本を数冊ラインナップしておきました。また時間がある時に読むと良いでしょう」
「あ、ありがとう」
 拓斗さんは薫さんからそんな気遣いされると思っていなかったのか、とても驚いた様子でお礼を言った。確かに薫さんが誰かのために動くのは珍しい。これも少しは拓斗さんのことを認めてくれたということで良いのでしょうか。
「じゃあ、私は読書の続きをしますので、出ていってくれますか」
「あ、う、うん」
 薫さんは容赦なくドアをバタンと閉めて、ドアの前で取り残された拓斗さんはしばらくポカーンとしていた。

 本を部屋に置き、拓斗さんはぎこちない動きで次の人物の許へ向かった。どうも拓斗さんは紫紀さんのことが少し苦手らしい。まぁ気持ちはわかりますけどね。
 拓斗さんは紫紀さんの部屋をコンコンとノックする。すると、程なくして紫紀さんが部屋から顔を出してきた。
「やぁ、おかえり。目的のものは買えたかな?」
「あ、はい! これ、どうぞ」
 拓斗さんは慌ててガンオイルを取り出すと、紫紀さんに手渡した。紫紀さんはガンオイルを受け取り確認し、「うん、間違ってないね」と、部屋に戻りガンオイルを部屋にしまった。そして、また拓斗さんの許に戻って来て、紫紀さんは何故かうーんと顎に手を当てて唸り出した。
「君へのお礼どうしよう」
「え!? いいですよ! そんな!」
 どうやら紫紀さんは拓斗さんへのお礼を考えていたようで、拓斗さんは慌てて首を横に振った。
「いやいや、一応君の労力を使って俺の用件を満たして来てもらった訳だしね。ある程度の労いはしないと。うーん……そうだな、ちょっと待っててくれる?」
 紫紀さんは再び部屋の中に戻ると、ガサゴソと部屋の中を漁って、数分経った後にまた玄関に戻ってきた。
「はい、これあげる」
 紫紀さんに何かを手渡され、拓斗さんは手を差し出してそれ受け取る。拓斗さんは手に感じた重みに視線を向ける。手には黒い物体。
「え」
 それは、銃だった。真っ黒に塗装されたそれは拓斗さんの世界ではあまり見慣れないものなのだろう。拓斗さんは銃を見つめて固まってしまった。
「護身用に銃くらい持ってた方が良いでしょ? 銃ならすぐに自分の身を守れるし、仮にうっかり相手を殺しちゃっても、直接殺す訳じゃなくて間接的に相手を殺せるから、手に殺した時の生々しい感覚とかないし、そこまで罪悪感も湧かない。初心者にはうってつけだよ。一応テラでは魔砲銃のが主流だけど、君は魔力ないし、君がいた時代にもあったグロックっていう初心者にも扱いやすい銃だから、良かったら持っときなよ」
 紫紀さんのそれは優しさなのだろうが、拓斗さんは突然渡された凶器に固まってしまっている。木刀とは訳が違うのだ。
「あ、弾が欲しくなったらいつでもおいで。優輝も持ってるけど、あいつケチだからくれないと思うしね」
 違う、そういう問題じゃない。紫紀さんは固まる拓斗さんの肩をポンポンと叩いて、ニッコリと笑った。
「じゃ、またお使い頼む時は宜しくね」
 紫紀さんは固まる拓斗さんを愉快そうに眺めながら自室のドアを静かに閉めた。
「あ、ありがとう……ございます?」
 拓斗さんはあまりの衝撃に反応が遅れて、もう誰もいなくなった部屋の前でお礼を言っていた。紫紀さん、あの人は何を考えているんだ。あの人は人をからかうことが好きだから、拓斗さんのこともからかって遊んでいるのかもしれない。
 何はともあれ、無事、紫紀さんにも頼まれたものを渡し、拓斗さんはまた何度目か分からない自分の部屋に戻った。紫紀さんから貰った銃を律儀に部屋に置き、拓斗さんは気持ちを切り替えた様子で部屋から出てきた。
 あと少しですよ、拓斗さん。頑張って。
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