雨の記憶〜CAFE STORY〜

ガジュマル

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 翌日も雨だった。

 もう最近は暑くなってきて、梅雨明けが近づいてきた。

 俺は基本週4でシフトに入っていて、この頃は出勤日のほとんどが雨で、店に行く時は地獄だった。

 でも、店に入ってしまえば、除湿され涼しい空間に癒され、何より雨の日は彼女が来るのでなんやかんや楽しみだった。

 マスターも「雨の中ご苦労様、これ私からのまかない。今日もよろしくね」とアイス珈琲をくれて少し一息ついてからバイトを始める。

 そして今日も彼女はきた。

 今日も参考書を持ってきたようだが、さすがにこの気温湿度では汗だくの様子だった。

 「いらっしゃいませ!お好きな席へどうぞ」といつものように接客ををし、すぐにお冷とお絞り、そしてタオルを出した。

 今日はブレンドのアイス珈琲だけだった。

 すぐにカウンターに戻り作って彼女の席に持って行く。

 数学の参考書が広げられた席の空いてるスペースに、注文された珈琲をおいて下がろうとしたその時、「あの、堀田さん」と呼び止められた。

 「なんで僕…、私の名前を」

 彼女から話しかけられたことにも驚いたが、名乗った覚えはなかったので名前を呼ばれたことに1番驚いた。

 「まぁ、名札に書いてありますから」と胸の辺りを指さされ言われる。

 「そうだ、そういえば名札があったんだった」

 思ったことが声に出ていた。

 咄嗟に口を押さえると、彼女はふふっと少し笑った。

 恥ずかしさを誤魔化すために、「えっと、それでなんでしょう」と急いで話を進める。

 「昨日、バームクーヘンをサービスしてくれましたよね。帰りお礼を言おうと思ったんですけど、いらっしゃらなかったので」

  そうだった。昨日は用事があって、マスターが帰ってきたタイミングで少し早く上がらせてもらった。

 店を出る時、頑張ってくださいと声をかけたかったが勇気もなかったし、仲良くもないのにそんなこと言ったら引かれると思ってそのまま帰ったのだった。

 「全然いいですよ。勉強、頑張ってくださいね。お客さんが少なければ僕も少し教えられると思うので、お客さんが良ければお申し付けください」と今日は柄にもなく勢いに任せて言ってしまった。

 「あ。よ、余計なお世話だったらごめんなさい」と挙動不審気味に謝る。

 彼女はさっきみたく少し笑い、「ありがとうございます。その時は遠慮なく質問させていただきます」と言ってくれた。

 「それと私、深川凪といいます」

 「堀田、悠ゆうといいます。よろしくお願いします」

 そして「で、では」と一度カウンターに戻った。

 彼女から名前を教えてくれるとは思わなかった。

 クーラーは効いているのに暑い。

 嬉しさと緊張で、今俺は真っ赤だろう。

 カウンターに戻ると、案の定、「なんか顔赤いぞ?大丈夫か?」と言われた。

 「大丈夫です。少し暑いだけです」と俺は言うが、位置的にマスターからは丸見えだっただろうし、誤魔化せている気がしなかった。

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