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クリスマスツリーの揺れる光の中で、私は双子の弟の背徳の告白に震える
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「そ、なこと……」
美羽の喉が熱いもので塞がれる。
確かに類と再会しなければ、父は優しくて穏やかな人だという温かな思い出に包まれていることが出来た。父との思い出が蘇る度に、胸を痛めることなどなかった。
クリスマスツリーに飾られた赤いライトが、美羽にあの部屋を喚起する。類が父に虐待されたという、あの部屋を。
類の悪夢に気づいたあの日以来、美羽は夜中に1階に行くことはなくなった。類が未だにあの悪夢に魘されているのかは分からない。
けれど、美羽の奥底に芽生えた類を救いたいという気持ちは未だに消えないどころか、更に大きくなっている。
「類、そんな風に思わないで。一番辛い思いをしたのは、類なんだから……」
「ミュー……」
類が美羽に向き直った。救いを求める庇護者のような瞳で見つめられ、胸がジンと熱くなる。
耐え難い誘惑から逃れようとして退こうとすると、類の膝がガクッと曲がって膝立ちの状態になり、腰を強く抱き締められる。見上げた類は切なそうに眉を寄せ、揺れる瞳が真っ直ぐ美羽を捉え、掠れて震えた声が鼓膜を震わせた。
「ミュー……ック……僕を、助けてよ。
ミューしかいなんだ、僕を救えるのはッグ」
「ッッ!」
心臓を鷲掴みにされ、その苦しさと共に類をそっと抱き締める。胸に頭を擦り寄せる類に、抗えない。腰に絡みついた華奢な腕を、解くことが出来ない。類から発せられる媚薬のような甘い香りが、美羽の拒絶を跳ね除けてしまう。
「もう僕は、ミューなしでは生きていけないんだ」
美羽の瞳から涙が溢れる。
私、だって……類なしではもう、生きられない。
言葉にならない声が、心の中で叫んでいる。
類を強く求める想いが溢れ出し、美羽は抱き締める手に力を込めた。
その時、玄関の扉が開く音がガチャッと聞こえ、美羽は弾かれたように手を外し、類から離れた。ドクドクと全身が熱く脈を打つのを感じながら、じっとりとした汗が滲んでくる。
類が眉間を寄せて睫毛を揺らし、切なげな表情を浮かべる。
「ミュー……」
足音が近づいてきているのを聞きながら、美羽の躰が小刻みに震えていた。じっとりした汗が、背中を伝う。
リビングの扉が開いた。
「ただいま」
義昭の声に振り向いた美羽は、笑みを浮かべた。
「義昭さん、お帰りなさい」
「おぉ、クリスマスツリーか。いいな」
類は俯いて拳をギュッと握り締めてから立ち上がり、完璧な笑みを浮かべた。
「さっき、ミューと飾ったんだ。綺麗でしょ?」
「あぁ。クリスマスなんて気にしたこともなかったが、ツリーがあると気分が盛り上がるな」
「よ、義昭さん、ご飯は?」
美羽はツリーへと歩み寄る義昭とは反対に、キッチンへと足を向けた。
「いや、遅くなりそうだったからコンビニで買ってきたものを会社で食べたから、大丈夫だ。
今日は疲れたから風呂に入ったら寝るよ」
コンビニで買い物することなど滅多にない義昭の言動に驚いたものの、目を合わせずに済むことは救いだった。
「あ、私ももう、休もうかな。今日は……疲れちゃったし」
義昭に便乗するようにそう言うと、類の視線を感じつつ、そそくさとその場を立ち去った。
まだ嫌な音を立てる鼓動を感じながら、美羽はギュッと胸の前に拳を置いた。
危ない。
流されそうになってた……
どんなに夜に溺れていても、それ以外の時は『姉』の外面を保たなくてはいけない。
美羽は、気持ちを引き締めるように唇を硬く結んだ。
美羽の喉が熱いもので塞がれる。
確かに類と再会しなければ、父は優しくて穏やかな人だという温かな思い出に包まれていることが出来た。父との思い出が蘇る度に、胸を痛めることなどなかった。
クリスマスツリーに飾られた赤いライトが、美羽にあの部屋を喚起する。類が父に虐待されたという、あの部屋を。
類の悪夢に気づいたあの日以来、美羽は夜中に1階に行くことはなくなった。類が未だにあの悪夢に魘されているのかは分からない。
けれど、美羽の奥底に芽生えた類を救いたいという気持ちは未だに消えないどころか、更に大きくなっている。
「類、そんな風に思わないで。一番辛い思いをしたのは、類なんだから……」
「ミュー……」
類が美羽に向き直った。救いを求める庇護者のような瞳で見つめられ、胸がジンと熱くなる。
耐え難い誘惑から逃れようとして退こうとすると、類の膝がガクッと曲がって膝立ちの状態になり、腰を強く抱き締められる。見上げた類は切なそうに眉を寄せ、揺れる瞳が真っ直ぐ美羽を捉え、掠れて震えた声が鼓膜を震わせた。
「ミュー……ック……僕を、助けてよ。
ミューしかいなんだ、僕を救えるのはッグ」
「ッッ!」
心臓を鷲掴みにされ、その苦しさと共に類をそっと抱き締める。胸に頭を擦り寄せる類に、抗えない。腰に絡みついた華奢な腕を、解くことが出来ない。類から発せられる媚薬のような甘い香りが、美羽の拒絶を跳ね除けてしまう。
「もう僕は、ミューなしでは生きていけないんだ」
美羽の瞳から涙が溢れる。
私、だって……類なしではもう、生きられない。
言葉にならない声が、心の中で叫んでいる。
類を強く求める想いが溢れ出し、美羽は抱き締める手に力を込めた。
その時、玄関の扉が開く音がガチャッと聞こえ、美羽は弾かれたように手を外し、類から離れた。ドクドクと全身が熱く脈を打つのを感じながら、じっとりとした汗が滲んでくる。
類が眉間を寄せて睫毛を揺らし、切なげな表情を浮かべる。
「ミュー……」
足音が近づいてきているのを聞きながら、美羽の躰が小刻みに震えていた。じっとりした汗が、背中を伝う。
リビングの扉が開いた。
「ただいま」
義昭の声に振り向いた美羽は、笑みを浮かべた。
「義昭さん、お帰りなさい」
「おぉ、クリスマスツリーか。いいな」
類は俯いて拳をギュッと握り締めてから立ち上がり、完璧な笑みを浮かべた。
「さっき、ミューと飾ったんだ。綺麗でしょ?」
「あぁ。クリスマスなんて気にしたこともなかったが、ツリーがあると気分が盛り上がるな」
「よ、義昭さん、ご飯は?」
美羽はツリーへと歩み寄る義昭とは反対に、キッチンへと足を向けた。
「いや、遅くなりそうだったからコンビニで買ってきたものを会社で食べたから、大丈夫だ。
今日は疲れたから風呂に入ったら寝るよ」
コンビニで買い物することなど滅多にない義昭の言動に驚いたものの、目を合わせずに済むことは救いだった。
「あ、私ももう、休もうかな。今日は……疲れちゃったし」
義昭に便乗するようにそう言うと、類の視線を感じつつ、そそくさとその場を立ち去った。
まだ嫌な音を立てる鼓動を感じながら、美羽はギュッと胸の前に拳を置いた。
危ない。
流されそうになってた……
どんなに夜に溺れていても、それ以外の時は『姉』の外面を保たなくてはいけない。
美羽は、気持ちを引き締めるように唇を硬く結んだ。
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