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プロローグ

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 あ、あそこ、だよね。

 城下でも治安の悪いとされる裏通りの、寂れた酒場の看板をジュリアンは見上げた。周りには同じような暗く薄汚れた酒場や売春宿、何かの取引に使われているような怪しい宿屋等がひしめき合い、近寄り難い雰囲気を醸し出している。

 城下の視察でも、治安が悪いこの辺りは近寄っちゃいけないって言われてたから、緊張、する……

 すると突然、後ろからポンッと肩を叩かれ、ジュリアンはビクッと肩を震わせる。

「ジュリアン様、大丈夫? 俺、中まで一緒に行こうか?」

 幼馴染であり、執事でもあるエリックが、心配そうにフードで顔を隠したジュリアンの瞳を覗き込むように尋ねる。

 そんな彼の心配を吹き飛ばすように、ジュリアンは明るく笑顔を見せた。

「大丈夫だよ。中にはリアムがいるし、心配しないで」

 本当は不安で仕方ないし、怖いけど、これ以上、エリックに迷惑はかけられない……

「そう?帰りはリアムに送ってもらうから大丈夫だろうけど、本当に気をつけてね。
 何かあったら、巻き込んだ俺もタダじゃすまないし」

 そう言って、エリックは軽く笑みを見せた。

「ごめんね、エリック。こんなこと頼んじゃって……」

 申し訳なくなって、ジュリアンは肩を落とす。

「いや、JULIANにリアムがここで働いてるって言ったのは俺だし、気にしないで。
 じゃ、本当に気をつけて行っておいで」

 エリックはジュリアンの頭に軽く手を乗せた後、その手をヒラヒラさせながら去って行った。

 ジュリアンは、エレンザードの正統な第一王位継承者である王子だ。

 現在は国王の後を継ぐために帝王学を学び、エレンザードや周辺国の歴史や文化を学び、剣術や馬術、弓術に磨きをかける(といってもどうやらこちらの才能はあまりないみたいで、へっぴり腰だと騎士団長に怒られてばかりだが)一方、城下の視察に赴き、国民が豊かな暮らしが送れるよう、国政や外交にも力をいれている。

 そんなジュリアンは国民からの人気が高く、エレンザード一《いち》の美人と謳われた母親にうりふたつな彼は、その容姿もともない、「エレンザードに舞い降りた天使」と称されている。

 透き通るような滑らかな肌、目の覚めるような美しいブロンド、ゆるやかに弧を描く眉の下にはエレンザードを代表する神秘的なクラル湖の湖面のようなコバルトグリーンの瞳をたたえ、控えめだけれど整った鼻梁やぷっくりと艶やかな唇は、見るものを魅了する。

 そのせいで、幼い頃から何度も攫われそうになったり、危険な目にあったジュリアンの周囲には常に固いガードがついていた。

 そんなジュリアンがすっぽりと身を隠すフードを纏い、人目を忍んで夜中に城を抜け出し、治安の悪いザード地区にある寂れた酒場の前にいるのは、ある理由があった。
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