世界が終わる前に、もう一度お別れのキスを

奏音 美都

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第一章 世界は明日、終わりを告げる

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 プロペラが旋回する音がやかましく響き渡り、びっしりと高層ビル群が密集した光景が視界に入る。真っ白ではなく、色の褪せた灰白色の建物。赤茶の地面が印象的な広場。歴史を感じさせる赤茶の屋根の尖塔の教会や、荘厳な円形ドームの屋根の国会議事堂。都会の街並みではあるものの、TVや映画で観たような北米やヨーロッパとは違う異国の雰囲気が漂ってる。

 ここはどこだろう。校長先生が言ってた、アルゼンチンとか南米のどこかの首都なのかな。

 この世の終わりとは真逆の、突き抜けるような澄み切った美しい青空の片隅には、いつのまにか巨大な渦を巻く台風の目のようなものが出現していた。

『Oh, crap!!』

 撮影者と思われる呟きが聞こえた後、カメラが大きく揺れる。そこに映っていたのは、人間や車、なぎ倒された樹木、家々の屋根が大きく剥がれた状態でブラックホールへと吸い込まれていく様子だった。空を飛んでいた飛行機でさえも強引に軌道を変えさせられ、異様な形を描きながらブラックホールへと旋回させられる。高層ビルがメリメリと大きく音を立ててヒビ割れ、引き剥がされるように上半分が吸い込まれ、やがて下半分も根こそぎ奪われていく。

 人々は逃げ惑う余裕すら与えられず、まるで塵のようにあっけなく巨大掃除機に呑みこまれていく。それは、この強大な力の前では小さな人間など為す術もないのだと、嘲笑われているようだった。



 こ、んなことって……



 信じられない状況を目の当たりにし、小さく息を吸ったまま呼吸を忘れた。

 次々に吸い込まれていく物体は縦長に引き伸ばされたように見え、円を描きながら確実に中心へと呑みこまれていくけれど、それは中心に向かえば向かうほどに動きが緩慢で止まっているようにさえ見える。中心に吸い込まれた物体は、停止しているように浮遊してからゆっくりと時間をかけて呑み込まれていった。その不思議な状態に、空恐ろしさを覚えずにはいられない。

 再びカメラが大きく揺れて地面を映し出す。地表では轟々と地の底を這うような地鳴りが響き、アスファルトが大きく盛り上がったり、地面がメキメキと地割れを起こして崖となり、水道管が破裂して放水した水が高く巻き上がったり、まだ呑み込まれていないビルが地割れによって崩壊したり、そこから出火して火事となって赤く燃え広がっていた。

『全米が震撼した! 今世紀最大のパニックSF映画ーー今日、あなたはその目撃者となる』。そんなナレーションが聞こえてきそうな程の迫力ある映像。違うのは、これが現実に起こっているのだということ。

 その場にいる全員が、食い入るように唖然と映像を見ていた。

 不自然な形で映像が途切れた途端、悲鳴とも嬌声ともつかない叫び声が講堂を埋め尽くす。

「やだ、嘘」

 隣に立っていたくまっちが、手にしたスマホに視線を落としたまま、震えている。

 そこには、youtubeにて、あの映像の続きが流れていた。見ているこちらまで気持ち悪くなりそうにグラグラと大きく映像が揺れていて、ヘリコプターの操縦席が映し出されていた。

『Fuckin, Shit!! Fuuuuuck!!』

 操縦席から男の怒声が何度も繰り返され、その焦燥が肌をさざめかせて寒気が走る。

 その奥に広がるのは、巨大に質量を増していくブラックホール。フロントガラスが真っ暗に塗り潰されていく。ガクン、ガクンと大きい音が鳴り響き、操縦席の男のものと思える断末魔の叫びが上がった。



『Oh......Jesus Christ』



 カメラマンの言葉を最後に、映像は砂嵐となり、止まった。
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