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第三章 翔との別れ

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 校長先生は翔と健一が2年生の列に並んだのを確認すると、静かに尋ねた。

「この中で、保護者の方の迎えを待っている人は手を挙げてください」

 ポツポツと手が挙がる。1年生が3人、3年生が2人、2年生は、1人。残るのは、半分の6人だけ。

 その時、出口の方から声が上がった。

「1年4組、大木なぎさ! お母さんが迎えに来てるぞー!!」

 呼ばれた生徒が肩を揺らし、それから後ろの女の子をギュッと抱き締め、手を振って去っていく。また1人いなくなったことで、動揺が広がっていくのを感じた。

 校長先生は少し間をおいてから、話し始めた。

「先ほど教職員で話し合い、生徒たちの人数が少なくなったことにより、一部の教職員には帰宅の途についてもらうことが決定しました」

 それを聞き、先生達の中から安堵の息が漏れる。

「皆さんも今、辛い状況にありますが、先生や職員の方たちにも家族がいて、心配されています。どうか、ご理解ください。私を含め4人の教師が残り、何か会った時にはすぐに対応できるようにします」

 校長先生を除いて3人。
 もし、その中に光くんが入っていなければどうしよう。

 ずらっと並んだ列の後方にいる光くんに視線を向ける。光くんは、真っ直ぐ正面を見ていて、その表情からは読み取れない。不謹慎かもしれないけど、光くんがここに残ってくれるよう、心の中で強く願った。

「では、残っていただく先生を紹介します。長友先生」

 長友先生は、男性の保健医だ。白衣を着た先生が一歩前に出て、軽くお辞儀する。

「中西先生」

 中西先生は、出口から手を振った。

 まだ、呼ばれてない。あと、1人だ。

 爆発しそうな心臓を抱え、校長先生の口元をじっと見つめ、拳をギュッと固く握り締めた。

「町田先生。以上、私を含めた4人になります」

 光くんが一歩前に踏み出し、軽くお辞儀をした。顔を上げた瞬間、私たちの視線がぶつかった。けれど、それを隠すかのように光くんは指を眼鏡のリムに持っていき、前髪を揺らした。手を離した時にはもう、私を見ていなかった。

「では、かなり時間が経ってしまいましたが、これからお昼にしたいと思います」

 そういえば、お昼のことなんてすっかり忘れてた。今、何時なんだろう。

 時計を見上げると、もう既に3時を過ぎていた。いつもならお昼前に既にお腹が空いて、休憩時間にみんなでスナックを食べたりするのに、今日はお腹が空くという感覚さえ抜け落ちていた。

 長友先生が校長先生からマイクを受け取り、前に立つ。

「これから、2班に分かれて各自のお昼ご飯を教室まで取りに行く。1年生と3年生は俺が担当し、2年生は町田先生が担当だから、しっかりついていくように」



 光くんと、同じ班。



 心臓がコトン、と音を立てた。
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