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降臨

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 この日、櫻井ロイヤルホテル『絢爛の間』には来栖財閥創立150周年を祝う為に、華やかなドレスやタキシードで正装した人々が集っていた。世界各国から客人が集まっており、会場には様々な言語が飛び交っている。

 壁際には、招待客に合わせた世界各国の豪華な料理がブッフェスタイルで用意されていた。

 その中には、イスラム教徒の為のハラルミート(イスラム法に則った屠殺法で処理された精肉)やベジタリアン、ビーガンの為の料理も含まれている。もちろんバーカウンターもあり、高級酒から珍しい酒まで各種取り揃えていた。

 会場にはピアノと弦楽四重奏の生演奏が流れ、煌びやかで格式高い雰囲気に華を添えていた。

 そのパーティーの中心にいるのが、大和と美姫だった。美姫は深紅のカクテルドレス、大和はタキシードで客人たちを和やかにもてなしていた。ふたりは笑顔を交わし、微笑み合い、傍目からは仲の良い夫婦にしか見えない。

 実際、美姫と大和の夫婦関係は、特にいがみ合うことも喧嘩することもなく良好だ。ただ一点、美姫が大和を愛していないということを除いては。

 最後に直接秀一と会ってから、実に3年以上の月日が流れていた。もう美姫も23歳だ。レナードと空港で別れてからは、2年が経つ。

 毎日顔を合わせる大和への恋心は二度と燃え上がることはないというのに、顔も見ていない、消息も分からない秀一への想いは募るばかりだった。

 大和の美姫への愛情は変わることはなかった。美姫に優しい言葉を掛け、デートに誘い、時にはプレゼントを渡されることもあった。

 だが、以前なら嬉しかったはずのひとつひとつの行動は、今では美姫の心に重い枷となってのしかかっていた。

 大和に冷たくすることも出来ず、かと言って受け入れることも出来ない。そんな自分の曖昧な態度に苛立ち、ストレスが募った。

 大和の想いから逃げたくて、秀一への恋心を再燃させているだけかもしれないと自分を疑うこともあった。

 けれど、どうしたって考えてしまうのだ。
 考えずにはいられない。

 美姫の躰が、心が、魂が、秀一を強く求めていた。

 美姫と大和の隣には誠一郎と凛子の姿もあり、幸せそうにこの日を噛み締めていた。

 美姫と大和の結婚式の司会も務めた長岡から、会場の招待客に向けて案内が入る。長岡の隣には外国人招待客に向けて、英語の同時通訳者が立っていた。

「皆様、本日は来栖財閥150周年記念パーティーにご足労下さり、誠にありがとうございます。
 それでは、来栖財閥代表取締役社長である来栖誠一郎より、皆様にご挨拶となります」

 盛大な拍手が鳴り響く中、誠一郎が会場正面に設けられたマイクの前に立つ。その表情は誇らしげだった。

「本日は来栖財閥、創業150周年の式典へご多忙の所、多数の皆様にご出席賜りまして誠に御礼申し上げます。
 来栖財閥が創業したのは1869年、明治2年のことでした......」

 誠一郎は来栖財閥のこれまでの歴史について簡単に説明すると、招待客に向けてお礼を述べた。

「昨今の厳しい経済の中でも皆様方の温かいご支援やご協力により、当社は本日まで存続することができ、お陰様で創業150周年を迎えることができました。本当にありがとう御座います。
 今後も社員一同、いっそうの努力をし、皆様のご愛顧にお答えして行く所存で御座いますので、皆様の変わらぬご支援やご協力をいただけますようにお願い申し上げます。

 ではここで、私より皆様に発表があります」
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