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SS4 「あなたがいれば、さみしくない」
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「では、行きましょうか」
浴衣に着替え終わった秀一は、美姫の待つリビングルームに顔を出した。
黒に濃紫の細い縞が入った浴衣に濃灰色の角帯を纏った秀一は、高校生と思えないほど艶があり、美姫は思わずポーッと見惚れてしまった。
「しゅーちゃん、かっこいい......」
そんな美姫に秀一は微笑むと手を差し出した。
「姫にそう言って頂けて光栄です」
美姫は秀一の手をしっかりと握ったまま下駄を履くと、玄関で見送る佐和にもう一方の手を元気よく振った。
「さわさーん、いってきまぁす!」
「はいはい、おふたりとも楽しんでらしてくださいね」
佐和も心からの笑顔を見せ、送り出した。
道が渋滞していたためタクシーはなかなか進まなかったが、美姫は車の中でさえも楽しくて仕方なかった。
これからしゅーちゃんと、おまつりいくんだ♪
「ねぇねぇ、しゅーちゃん。おまつりってどんなとこ? なにがあるの?」
秀一は興奮する美姫を落ち着かせるように頭を優しくポンポン、と撫でた。
「色々な夜店が並んでいたり、太鼓や盆踊りを踊ったり、花火が上がったりするんですよ。まぁ、私も実際に行くのは初めてですので、人から聞いたり、テレビで見ただけですが」
「えぇーーーっ!!!しゅーちゃんもはじめてなの!? みきといっしょだぁー!!!」
「ふふっ、そうですね」
いつも何でも知っていて、何でもしたことがあると思っていた秀一も祭りに行くのは初めてだと知って、美姫の興奮は余計に高まった。
「さぁ、着きましたよ」
「うわぁー、すごいひとぉーーーー」
美姫はタクシーから降りた途端、境内へと向かう人波の凄さに圧倒された。
「はぐれないように、気をつけて下さいね」
そう言って、秀一が手を差し伸べた。美姫はその手をしっかりと握り締めると、自分たちも境内へと歩いて行った。
境内の階段でつまづかないように、一段ずつゆっくりと上る。小さい美姫は、人混みに呑まれないようにするだけでも大変だ。
「美姫、大丈夫ですか」
心配そうに覗き込む秀一に、美姫は笑顔で答えた。
「うん、だいじょーぶ」
境内を上りきると、道の両側にはずらーっと夜店が並んでいた。
「すごぉーーーーい!!!」
美姫は瞳をキラキラさせ、夜店のひとつひとつを興味深く見つめていった。
「しゅーちゃん、みてみて! 金魚!!!」
そこには金魚すくいの夜店があり、たくさんの金魚が泳いでいた。
「美姫の浴衣の柄と同じですね。欲しいですか?」
「うん、ほしい!!!」
秀一は二人分のお金を払い、最中で作られたポイを受け取ると、美姫にひとつ渡した。美姫は浴衣の袖を捲り上げ、水槽に顔を近づけ、真剣な顔で金魚とにらめっこした。
よし......
最中を水に入れ、金魚を追いかけるものの、簡単に逃げられてしまう。
「あぁー......」
結局、美姫は一匹もすくうことが出来なかった。
ふと横を見ると、秀一は既に金魚の入った袋を受け取っていた。そこには金魚が泳いでいる。
「いーち、にぃ、さーん、しぃ、ごぉ。しゅーちゃん、すごぉい! いっぱいきんぎょ、つかまえたねぇ」
「つい、真剣になってしまいました」
美姫もおまけで金魚を2匹もらい、袋を胸の真ん中に来るように持つと、再び歩き始めた。
夜店には様々な食べ物の店があり、それぞれの屋台から美味しそうな匂いが漂っていて、夕飯を食べたにも関わらず、美姫は食欲を刺激された。
「しゅーちゃん、あれ、なぁに?」
夜店のひとつに視線が釘付けになる。鉄板の中には小さなボールみたいな食べ物がいっぱい詰まっている。
「あぁ、あれはタコ焼きですよ。食べてみますか?」
「うん、たべてみたい!!!」
秀一はタコ焼きを買った後、美姫の持っていた金魚の袋を受け取り、境内の石段に座らせた。
「何か下に敷くものがあればよかったのですが」
幼い美姫に対しても女性としての気遣いを見せる秀一に、美姫は胸がくすぐったいような感触を覚えた。
「ううん、このままでへーきだよ」
美姫は秀一から爪楊枝で刺したタコ焼きをひとつ受け取ると、頬張った。
「あ、あつっっ!!!」
美姫は思わず口に入れたタコ焼きを熱さのあまり、吹き出しそうになった。
「そんなに一気に頬張るからですよ。ふふっ...ほら、ソースがついてますよ」
秀一が美姫の唇に指を伸ばし、唇の端についたソースを指先で拭った。
「ご、ごめんなさい......」
美姫は秀一のその行為になぜか恥ずかしい気持ちになり、顔を真っ赤にして謝った。
「気をつけて、食べて下さいね」
「はい......」
しゅーちゃんといると、いつもうれしくてたのしいっておもうのに、ときどき、なんかむねがドキドキするときがある。なんでだろう......
秀一は美姫が頬張っていたタコ焼きを食べ終わるのを確認すると、今度は爪楊枝に刺した後、口で息を吹きかけて冷ましてくれた。
「ほら、これでもう熱くないですよ」
「あ、ありがとう...しゅーちゃん」
秀一が吹きかけてくれたタコ焼きは、さっき食べたタコ焼きとはなんだか違う味のように感じた。
突然、ヒューーーーーーッという音が夜空を切り裂き、
バーーーーーーーーン!!!!!
という、重くお腹に響く音とともに夜空に大輪の花が咲いた。
「はなびーーーーーーーっ!!!」
美姫は座っていた石段の上に立ち上がり、歓声を上げた。
夜空に煌めく色とりどりの花火に、美姫は興奮してピョンピョン飛び跳ねた。
「すごぉい、すごぉーーーーい!!!」
その途端、足を捻って石段から落ちそうになる。
「わわっ...」
だが、秀一が美姫の躰を抱きかかえ、その事態は免れた。
「本当に貴女からは、目が離せない」
そう言ってクスッと笑った秀一に、美姫は先程よりも更に顔を真っ赤にして謝った。
「ご、めんなさい」
「一緒に座って観ましょうか」
そう言うと秀一は石段に座り、美姫を隣に座らせた。
ふたりはしばらくの間、夜空を見上げながら次々に打ち上げられる大輪の花々たちの美しさに魅入られた。
「そろそろ帰りましょうか」
そう言って秀一が隣の美姫に話しかけると、美姫は秀一に躰をもたれかけ、眠っていた。その手には、しっかりと食べかけのタコ焼きが握られている。
そんな光景に秀一は微笑みを浮かべると、美姫の手からタコ焼きをそっと外し、自分の口に入れた。
他人の食べかけのものを自分が食べるなどという行為は、絶対にしたくないと思っていたのに、美姫に対してはそれが自然と出来てしまう。
まぁ、姪だから、厳密に言えば他人ではないのですが......
美姫といると、ずっと感じていた孤独な感情が消え去り、温かな感情で満たされていくのを感じる。不思議な子ですね......
秀一は美姫を横抱きにすると、人混みの中を慎重に歩き出した。美姫は秀一の腕の中で安心したかのようにぐっすりと眠っている。
未だ花火の爆音が鳴り止まない中、たくさんの夜店を通り過ぎ、美姫を腕に抱いて家路に向かう秀一の心は、温かな感情で満たされていた。
浴衣に着替え終わった秀一は、美姫の待つリビングルームに顔を出した。
黒に濃紫の細い縞が入った浴衣に濃灰色の角帯を纏った秀一は、高校生と思えないほど艶があり、美姫は思わずポーッと見惚れてしまった。
「しゅーちゃん、かっこいい......」
そんな美姫に秀一は微笑むと手を差し出した。
「姫にそう言って頂けて光栄です」
美姫は秀一の手をしっかりと握ったまま下駄を履くと、玄関で見送る佐和にもう一方の手を元気よく振った。
「さわさーん、いってきまぁす!」
「はいはい、おふたりとも楽しんでらしてくださいね」
佐和も心からの笑顔を見せ、送り出した。
道が渋滞していたためタクシーはなかなか進まなかったが、美姫は車の中でさえも楽しくて仕方なかった。
これからしゅーちゃんと、おまつりいくんだ♪
「ねぇねぇ、しゅーちゃん。おまつりってどんなとこ? なにがあるの?」
秀一は興奮する美姫を落ち着かせるように頭を優しくポンポン、と撫でた。
「色々な夜店が並んでいたり、太鼓や盆踊りを踊ったり、花火が上がったりするんですよ。まぁ、私も実際に行くのは初めてですので、人から聞いたり、テレビで見ただけですが」
「えぇーーーっ!!!しゅーちゃんもはじめてなの!? みきといっしょだぁー!!!」
「ふふっ、そうですね」
いつも何でも知っていて、何でもしたことがあると思っていた秀一も祭りに行くのは初めてだと知って、美姫の興奮は余計に高まった。
「さぁ、着きましたよ」
「うわぁー、すごいひとぉーーーー」
美姫はタクシーから降りた途端、境内へと向かう人波の凄さに圧倒された。
「はぐれないように、気をつけて下さいね」
そう言って、秀一が手を差し伸べた。美姫はその手をしっかりと握り締めると、自分たちも境内へと歩いて行った。
境内の階段でつまづかないように、一段ずつゆっくりと上る。小さい美姫は、人混みに呑まれないようにするだけでも大変だ。
「美姫、大丈夫ですか」
心配そうに覗き込む秀一に、美姫は笑顔で答えた。
「うん、だいじょーぶ」
境内を上りきると、道の両側にはずらーっと夜店が並んでいた。
「すごぉーーーーい!!!」
美姫は瞳をキラキラさせ、夜店のひとつひとつを興味深く見つめていった。
「しゅーちゃん、みてみて! 金魚!!!」
そこには金魚すくいの夜店があり、たくさんの金魚が泳いでいた。
「美姫の浴衣の柄と同じですね。欲しいですか?」
「うん、ほしい!!!」
秀一は二人分のお金を払い、最中で作られたポイを受け取ると、美姫にひとつ渡した。美姫は浴衣の袖を捲り上げ、水槽に顔を近づけ、真剣な顔で金魚とにらめっこした。
よし......
最中を水に入れ、金魚を追いかけるものの、簡単に逃げられてしまう。
「あぁー......」
結局、美姫は一匹もすくうことが出来なかった。
ふと横を見ると、秀一は既に金魚の入った袋を受け取っていた。そこには金魚が泳いでいる。
「いーち、にぃ、さーん、しぃ、ごぉ。しゅーちゃん、すごぉい! いっぱいきんぎょ、つかまえたねぇ」
「つい、真剣になってしまいました」
美姫もおまけで金魚を2匹もらい、袋を胸の真ん中に来るように持つと、再び歩き始めた。
夜店には様々な食べ物の店があり、それぞれの屋台から美味しそうな匂いが漂っていて、夕飯を食べたにも関わらず、美姫は食欲を刺激された。
「しゅーちゃん、あれ、なぁに?」
夜店のひとつに視線が釘付けになる。鉄板の中には小さなボールみたいな食べ物がいっぱい詰まっている。
「あぁ、あれはタコ焼きですよ。食べてみますか?」
「うん、たべてみたい!!!」
秀一はタコ焼きを買った後、美姫の持っていた金魚の袋を受け取り、境内の石段に座らせた。
「何か下に敷くものがあればよかったのですが」
幼い美姫に対しても女性としての気遣いを見せる秀一に、美姫は胸がくすぐったいような感触を覚えた。
「ううん、このままでへーきだよ」
美姫は秀一から爪楊枝で刺したタコ焼きをひとつ受け取ると、頬張った。
「あ、あつっっ!!!」
美姫は思わず口に入れたタコ焼きを熱さのあまり、吹き出しそうになった。
「そんなに一気に頬張るからですよ。ふふっ...ほら、ソースがついてますよ」
秀一が美姫の唇に指を伸ばし、唇の端についたソースを指先で拭った。
「ご、ごめんなさい......」
美姫は秀一のその行為になぜか恥ずかしい気持ちになり、顔を真っ赤にして謝った。
「気をつけて、食べて下さいね」
「はい......」
しゅーちゃんといると、いつもうれしくてたのしいっておもうのに、ときどき、なんかむねがドキドキするときがある。なんでだろう......
秀一は美姫が頬張っていたタコ焼きを食べ終わるのを確認すると、今度は爪楊枝に刺した後、口で息を吹きかけて冷ましてくれた。
「ほら、これでもう熱くないですよ」
「あ、ありがとう...しゅーちゃん」
秀一が吹きかけてくれたタコ焼きは、さっき食べたタコ焼きとはなんだか違う味のように感じた。
突然、ヒューーーーーーッという音が夜空を切り裂き、
バーーーーーーーーン!!!!!
という、重くお腹に響く音とともに夜空に大輪の花が咲いた。
「はなびーーーーーーーっ!!!」
美姫は座っていた石段の上に立ち上がり、歓声を上げた。
夜空に煌めく色とりどりの花火に、美姫は興奮してピョンピョン飛び跳ねた。
「すごぉい、すごぉーーーーい!!!」
その途端、足を捻って石段から落ちそうになる。
「わわっ...」
だが、秀一が美姫の躰を抱きかかえ、その事態は免れた。
「本当に貴女からは、目が離せない」
そう言ってクスッと笑った秀一に、美姫は先程よりも更に顔を真っ赤にして謝った。
「ご、めんなさい」
「一緒に座って観ましょうか」
そう言うと秀一は石段に座り、美姫を隣に座らせた。
ふたりはしばらくの間、夜空を見上げながら次々に打ち上げられる大輪の花々たちの美しさに魅入られた。
「そろそろ帰りましょうか」
そう言って秀一が隣の美姫に話しかけると、美姫は秀一に躰をもたれかけ、眠っていた。その手には、しっかりと食べかけのタコ焼きが握られている。
そんな光景に秀一は微笑みを浮かべると、美姫の手からタコ焼きをそっと外し、自分の口に入れた。
他人の食べかけのものを自分が食べるなどという行為は、絶対にしたくないと思っていたのに、美姫に対してはそれが自然と出来てしまう。
まぁ、姪だから、厳密に言えば他人ではないのですが......
美姫といると、ずっと感じていた孤独な感情が消え去り、温かな感情で満たされていくのを感じる。不思議な子ですね......
秀一は美姫を横抱きにすると、人混みの中を慎重に歩き出した。美姫は秀一の腕の中で安心したかのようにぐっすりと眠っている。
未だ花火の爆音が鳴り止まない中、たくさんの夜店を通り過ぎ、美姫を腕に抱いて家路に向かう秀一の心は、温かな感情で満たされていた。
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