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過去を捨てた代償
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「変わったっていえば、美麗も変わったよな。大学入って急に明るくなったっていうか。卑屈なとこがなくなったよな」
「ふふっ、拓海のお陰だよ」
美麗の皮を被った知子は、笑みを浮かべて拓海を見つめた。
「たーくん」とは呼ばず、私が呼ぶように「拓海」と呼ぶ、その女……
今、目の前にいるこの女はダレ?
知子じゃ、ない。私の知ってた知子はいない。
もし、この女が『美麗』なら……
ーーここに立ってる私は、ダレ?
「知子、顔が真っ青じゃない! 拓海……私、知子を送って行くね」
「え、俺行くよ」
「いいのいいの、拓海は。あの講義外すとヤバイでしょ? それに、姉妹同士の積もる話もあるし」
「そ、っか……悪いな、美麗。知子、今日は会えてよかった。また、ゆっくり話そうぜ。
あ、こんな時で申し訳ねぇんだけど、今しかないから言っとくわ。俺たち、近々同棲するつもりなんだ」
同、棲……
フツフツと怒りが心の奥底から沸騰したように湧いてくる。寒気でゾクゾクしていた躰が、今度は怒りによって震えてくる。
拓海は、私のことを好きだったのよ。
知子じゃなく、私を!!
あの女は、盗んだ。私の心の内面を理解してくれる男を。私を出し抜き、騙し、奪い取ったのだ。
「拓海! この女は知子なのよ! 美麗は私! 私がほんとの美麗なのっ!! ねぇ、拓海ならわかるでしょっ!!」
お願い、拓海。貴方ならわかるはず。
私を美麗だと気付いて。本物だと気付いてよ……
拓海は必死の形相で迫る私を見て、後退りした。
「と、知子……な、何言ってんだよ? お前が美麗なわけ、ねぇだろ。ど、どうしたんだ?何か、あったのか?」
「違う! 違う! みんな、この女に騙されてんのよ!!」
お父さんも、お母さんも、拓海も……みんな、この女に騙されてるんだ。
私のフリをした知子が、私の肩を優しく抱いた。
「東京でトップモデルするのって、大変なのね」
「離してよ! あんた、あんたが全部悪いんだ! 私を返して! 返してよっ!!」
知子は拓海に大丈夫だからと目配せし、拓海は心配そうにしながらも去って行った。
知子が私の耳元で囁く。
「自分を捨てたのは、あなたじゃない。それとも、本当に『私』に戻りたいの?ブスで冴えない惨めな『私』に」
その一言で、凍りついたように躰が固まった。
「あなたは本当にたーくんのことが好きなわけじゃない。私に取られるのが悔しいだけ。同じ人形を取り合った昔みたいにね。
考えてみて。たーくんと付き合って結婚したところで、せいぜい平凡なサラリーマンの妻よ。あなたは本当にその暮らしを望んでるの? 東京で有名なトップモデルとしてチヤホヤされてるあなたが、そんな生活、耐えられる?」
知子はもう、私のことを『美麗』とは呼ばず、『あなた』と呼んでいた。
どんどん頭が冷えていくのを感じる。
でき、ない。戻り、たくない……
たとえ、心が空虚でも......美しく、華やかな世界に身を投じていたい。
「あなたは『知子』、私は『美麗』よ。あなたがそう、望んだし、私もそれを望んだの。
もう、過去になんて戻れない」
もう、過去になんて戻れない……戻れ、ないんだ。
私は一億円を手に入れて、過去を捨てたんだ。
「ねぇ、今夜は家に泊まったら? お父さんとお母さんビックリするわよ。
二人だけにはあなたがモデルだってこと伝えてるし、雑誌を送ったり、時々電話したりしてたの。会いたいって何度も言われて困ったけど、その度に仕事が忙しいからってごまかすの大変だったんだから」
『美麗』の声が遠くで耳に響く。すぐ側に立っているのに、なんだかすごく遠い。
自分の存在が薄く引き伸ばされて、いつか消えてしまいそうな気がした。
無性に、東京に帰りたくなった。
「ふふっ、拓海のお陰だよ」
美麗の皮を被った知子は、笑みを浮かべて拓海を見つめた。
「たーくん」とは呼ばず、私が呼ぶように「拓海」と呼ぶ、その女……
今、目の前にいるこの女はダレ?
知子じゃ、ない。私の知ってた知子はいない。
もし、この女が『美麗』なら……
ーーここに立ってる私は、ダレ?
「知子、顔が真っ青じゃない! 拓海……私、知子を送って行くね」
「え、俺行くよ」
「いいのいいの、拓海は。あの講義外すとヤバイでしょ? それに、姉妹同士の積もる話もあるし」
「そ、っか……悪いな、美麗。知子、今日は会えてよかった。また、ゆっくり話そうぜ。
あ、こんな時で申し訳ねぇんだけど、今しかないから言っとくわ。俺たち、近々同棲するつもりなんだ」
同、棲……
フツフツと怒りが心の奥底から沸騰したように湧いてくる。寒気でゾクゾクしていた躰が、今度は怒りによって震えてくる。
拓海は、私のことを好きだったのよ。
知子じゃなく、私を!!
あの女は、盗んだ。私の心の内面を理解してくれる男を。私を出し抜き、騙し、奪い取ったのだ。
「拓海! この女は知子なのよ! 美麗は私! 私がほんとの美麗なのっ!! ねぇ、拓海ならわかるでしょっ!!」
お願い、拓海。貴方ならわかるはず。
私を美麗だと気付いて。本物だと気付いてよ……
拓海は必死の形相で迫る私を見て、後退りした。
「と、知子……な、何言ってんだよ? お前が美麗なわけ、ねぇだろ。ど、どうしたんだ?何か、あったのか?」
「違う! 違う! みんな、この女に騙されてんのよ!!」
お父さんも、お母さんも、拓海も……みんな、この女に騙されてるんだ。
私のフリをした知子が、私の肩を優しく抱いた。
「東京でトップモデルするのって、大変なのね」
「離してよ! あんた、あんたが全部悪いんだ! 私を返して! 返してよっ!!」
知子は拓海に大丈夫だからと目配せし、拓海は心配そうにしながらも去って行った。
知子が私の耳元で囁く。
「自分を捨てたのは、あなたじゃない。それとも、本当に『私』に戻りたいの?ブスで冴えない惨めな『私』に」
その一言で、凍りついたように躰が固まった。
「あなたは本当にたーくんのことが好きなわけじゃない。私に取られるのが悔しいだけ。同じ人形を取り合った昔みたいにね。
考えてみて。たーくんと付き合って結婚したところで、せいぜい平凡なサラリーマンの妻よ。あなたは本当にその暮らしを望んでるの? 東京で有名なトップモデルとしてチヤホヤされてるあなたが、そんな生活、耐えられる?」
知子はもう、私のことを『美麗』とは呼ばず、『あなた』と呼んでいた。
どんどん頭が冷えていくのを感じる。
でき、ない。戻り、たくない……
たとえ、心が空虚でも......美しく、華やかな世界に身を投じていたい。
「あなたは『知子』、私は『美麗』よ。あなたがそう、望んだし、私もそれを望んだの。
もう、過去になんて戻れない」
もう、過去になんて戻れない……戻れ、ないんだ。
私は一億円を手に入れて、過去を捨てたんだ。
「ねぇ、今夜は家に泊まったら? お父さんとお母さんビックリするわよ。
二人だけにはあなたがモデルだってこと伝えてるし、雑誌を送ったり、時々電話したりしてたの。会いたいって何度も言われて困ったけど、その度に仕事が忙しいからってごまかすの大変だったんだから」
『美麗』の声が遠くで耳に響く。すぐ側に立っているのに、なんだかすごく遠い。
自分の存在が薄く引き伸ばされて、いつか消えてしまいそうな気がした。
無性に、東京に帰りたくなった。
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