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第三章 文化祭

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 講堂にはたくさんの椅子が並べられ、クラスごとに座った。開会式が終わると、音楽部の演奏が始まり、続いて英語のディベート同好会の発表となった。郁美が私にこそっと耳打ちする。

「美和子も、出たら良かったね。私、美和子が英語ペラペラ喋るの、聞いてみたいがよ」
「ハハッ……私は、いいよぉ」

 印象に残ったのは、書道部のパフォーマンスだった。大きな紙に力強く書かれた『飛翔』の文字。それは、今にも羽ばたきそうに踊っていた。

 午前の発表が終わると、昼からは自由鑑賞となり、各クラスの展示や物品バザー、食品バザー、茶道部のお点前等が開催される。

「さぁー、いよいよ俺らの出番だが」

 勇気くんが気合いを入れる。

 メイド担当の女子は、カフェの隣の教室でメイド服に着替えることになった。

「ちょ、ちょっとこのスカート丈……短くない?」

 郁美から渡されたメイド服を着ると、胸はパンパンで膨らみが強調されてるし、スカート丈はみんなのは膝下なのに、なぜか私のだけ膝上10センチのミニだった。ペチコートがあるとはいえ、かなり恥ずかしい。

「美和子はおっぱいでかいし、脚も細くて綺麗だから主張した方がいいよ!」
「え。えぇぇっ……」

 文句を言う間もなく郁美にエプロンをつけられ、コルセット並に後ろできつくギュッと縛られて胃が飛び出しそうになった。最後にヘッドドレスをのせられる。

「ほら、はよ行かんとみんな待っとるよ!」

 メイド&執事カフェの会場になっている教室に行くと、みんなの視線が突き刺さって痛い。

「美和子さ、やっぱ綺麗ねー!」
「うぉぉ、テンション上がるが!!」
「写真、写真!!」

 そこへ、執事担当の男子たちも合流した。すると、女子の黄色い歓声が海くんに集中する。

「海くん、イケメンね!!」
「ほーんと、かっこよか!」

 確かに、着られてる感がある他の男子達に比べて、海くんは白のワイシャツにベストに蝶ネクタイ、燕尾服のジャケットを羽織り、まるで二次元の世界から現れた執事のようだった。いつも下ろしてる前髪をワックスで固めて後ろへと流していて凛々しいし、見た目だけでなく、雰囲気さえも上品でエレガントに感じた。

「はいじゃ、二人は宣伝係よろしくね」

 郁美が海くんに『2年 メイド&執事カフェ』という立て看板を持たせ、私にチラシの束を渡す。

 えぇっ、ちょっ……聞いてないんですけどっ!!

「で、でも宣伝は地元の人をよく知ってる郁美とか勇気くんの方がいいんじゃ……」
「なーに言ってんの! ふたりはもう有名人だから大丈夫! ほらぁ、行って行ってぇ!!」

 郁美に背中を押されて困惑しながら海くんを見上げると、海くんがボソッと呟いた。

「じゃ、行こっか」

 そう言われてしまったら、自分ひとりだけ嫌とは言えない。

「うん……」

 仕方なく頷くと海くんと並び、みんなに見送られて教室を出た。

 海くんが立て看板を高く掲げて持ち、私は声をかけながら、ビラを配った。

「メイド&執事カフェやってまーす。よろしくお願いします!」

 ビラ配りしても、誰ももらってくれないんじゃ……なんて心配してたけど、物珍しさからか、ほぼ100%の確率で受け取ってくれ、わざわざもらいに来てくれる人もいて、大量に渡されたにもかかわらず、順調に減っていった。

「あれまぁ、可愛いアベック! お似合いよぉ」

 おばちゃんに声かけられたり、

「みっ、水無月先輩!! 一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」

 海くんのファンと思われる後輩に呼び止められたり、

「あっ、あの子ほらぁ、カナダからの転入生の……」

 こそこそ囁かれたりしながら歩くのは、かなり恥ずかしい。隣を見上げると、海くんは涼しい顔して歩いてる。

「海くんは、こういうの断るかと思ってた」

 海くんは表情を崩すことなく、前を向いたまま答えた。

「いや、別に嫌いじゃないよ。接客より全然こっちの方が楽だし……それに、ほら」

 いきなり腕をグイッと引き寄せられ、ドクンッと心臓が跳ねる。細身だと思ってたのに、意外と筋肉あるんだ……

「こういうとこも、サボって入れるし」
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