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第六章 幼馴染の関係

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 帰りはまた郁美のお母さんが車で迎えに来てくれて、その時は勇気くんと海くんも一緒に乗ったので、更衣室での話は出来なかった。

「美和子、また明日ね」
「ほんならな!」
「鈴木さん、おやすみ」

 3人それぞれがかけてくれる言葉に応え、おばさんに運転のお礼を言って車を降りた。ハァ……と大きく溜息を吐く。

「美和子ちゃん、溜息吐くと幸せが逃げるがよ。ほら、かーわいぃ笑顔見すてぇ」
「おばあ、ちゃん……」

 いつの間にか、おばあちゃんが表口の前に立っていた。もしかしたら、私がもうそろそろ帰ってくる頃だと、外でずっと待っててくれたのかもしれない。

「ほぉら、笑顔。ね?」
「うん……」

 笑顔を見せると、おばあちゃんは私の手を握った。

「お腹すいたが? 夕飯食わんね」
「うん、食べる」

 おばあちゃんと手を握ったまま、家の中に入った。

 夕飯を食べてお風呂から上がると、LINEの緑ランプが点滅していた。開けると、郁美からだった。

『明日、練習の前に会える?』

 すぐに返信する。

『うん、大丈夫だよ。どこで会う?』
『美和子ん家、行ってもいい?』
『了解。じゃ、来る時間分かったら教えて』

 打って送信すると秒速で、『わかったよー』とうさぎのスタンプが返ってきた。

 布団に寝転がるとスマホを片手に、伊佐に来てからアップしたインスタの写真を眺めていく。滞在してから約1ヶ月の間に、大量の写真をアップしていたことに気づいた。特に、伊佐高に入学してからはアップする枚数も、頻度も格段に増えてる。文化祭の時に撮った集合写真で、勇気くんが郁美に悪戯したのを見て、また吹いてしまった。郁美の隣にはいつも勇気くんがいて、きっと今までもこんな関係がずっと続いてたんだろうなって想像できた。

 幼馴染、か……

 相手の小さい頃から現在までを知ってて、親友でもあり、好きな人でもあるってどんな気持ちなんだろう。

 今まで、男の子に告白されて、周りでも付き合ってる子がいたから、なんとなく付き合ったことはあった。でも、一緒にいて楽しいと思うことはあっても、胸がドキドキしたり、感情が激しく揺さぶられるようなことはなくて、結局別れてしまった。

 脳裏に郁美の泣いてた顔が蘇ってきた。

 好きな人を思って流す涙って、どんなんだろう……

 それは苦しくて辛いのかもしれないけど、そこまで人を好きになれることが羨ましくも感じた。
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