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心ひとつに
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合唱コンクールは、校長先生の挨拶から始まった。
でも今日は、座席から立つと椅子がバタンと閉じてしまうので座ったまま聞いていればよく、室内なので快適だし、話が長くても楽だった。
「ねぇねぇ、見てみて……」
多恵ちゃんが、クスクス笑いながら私のニの腕をチョンチョンと軽く突く。視線の先を追うと、前川くんが大口開けて思いっきり寝てた。
大胆だなぁ。
合唱コンクールは学年順だけど、クラス順はバラバラになっている。私たち2年1組は、2年4組の後に歌う。
最初に入ってきた1年2組の生徒は皆、初めての公会堂での舞台ということで、心なしか緊張しているように見えた。その中に和紗の姿を見つけ、頑張って……と心の中でエールを送る。
でも、緊張で萎縮してしまっているせいか、せっかく音響設備の整った立派なコンサートホールで、マイクが設置してあるにも関わらず、歌声が客席にまで届いていなかった。
自分たちはこんなことにはならないようにと、気持ちを引き締めた。
次のクラスの合唱が終わると、村中先生の指示により、準備の為に席を立った。
「どうしよう……緊張してきちゃった」
多恵ちゃんに囁かれ、私まで緊張が高まってきちゃう。
舞台袖では既に2年4組の生徒がスタンバイし、私たちは扉の外側に列で並ぶ。
「うぉーーっ、やべぇーーっっ、緊張するーーっっ!!」
後ろから男子の大きな声が聞こえてきて、村中先生が慌てて駆け寄り、
「静かにしろっつってんだろーが!」
と怒鳴った。
先生の声も、かなり響いてますよ……
再び矢野くんの隣に立ったけど、合唱の緊張が高まってて、さっきの話の続きどころじゃない。それは、私だけじゃなく、矢野くんもいつもより引き締まった表情をしていて、緊張しているのが見て取れた。
扉が開き、相沢先生が中に入るよう合図する。
ぞろぞろと中へ入り、舞台袖に立つと、2年4組の『空駆ける天馬』の合唱が聞こえてきた。
う、上手い……
さっきの1年の合唱よりも少なくとも10倍は声が出てるし、男子の歌声もはっきり聞こえる。
益々緊張が高まり、頬が引き攣ってくる。
「では、2年1組さん頑張って歌ってきてね」
気がつくと相沢先生がにこやかに私たちを送り出していて、慌てて足を踏み出した。
舞台の真ん中の台に立つ西岡くんの指揮棒がすっと上がると、皆がピシッと姿勢を正し、一瞬で空気がガラッと変わった。
紀子ちゃんが頷いて合図を出すと、指揮棒が振り下ろされる。
ピアノの伴奏が始まり、私たちは今までの練習の成果を思いっきりぶつけた。
『こーころのー なーかーでー あしたーがー あーかるくー ひかるー』
合唱部みたいな美しさはないけれど、それでもこの1ヶ月頑張って練習してきた。大きな舞台でみんなで声を揃え、心を合わせて歌っているこの瞬間が、とてつもなく気持ちいい。
余韻を残し、合唱が終わった。なんとも言えない爽快感が駆け抜ける。
客席からはたくさんの拍手が響いてきて、ジーンと胸が熱くなった。
「はぁー、終わったー」
「おつかれー」
舞台から下りて扉を出ると、みんなの口から自然と安堵の息が出ていた。張り詰めていた緊張が一気にほどけ、体がやわらぐ。
「おまえら、よくやったな。優勝間違いなしだ!」
村中先生の確信に満ちた言葉に、ドッと笑顔が溢れた。
でも今日は、座席から立つと椅子がバタンと閉じてしまうので座ったまま聞いていればよく、室内なので快適だし、話が長くても楽だった。
「ねぇねぇ、見てみて……」
多恵ちゃんが、クスクス笑いながら私のニの腕をチョンチョンと軽く突く。視線の先を追うと、前川くんが大口開けて思いっきり寝てた。
大胆だなぁ。
合唱コンクールは学年順だけど、クラス順はバラバラになっている。私たち2年1組は、2年4組の後に歌う。
最初に入ってきた1年2組の生徒は皆、初めての公会堂での舞台ということで、心なしか緊張しているように見えた。その中に和紗の姿を見つけ、頑張って……と心の中でエールを送る。
でも、緊張で萎縮してしまっているせいか、せっかく音響設備の整った立派なコンサートホールで、マイクが設置してあるにも関わらず、歌声が客席にまで届いていなかった。
自分たちはこんなことにはならないようにと、気持ちを引き締めた。
次のクラスの合唱が終わると、村中先生の指示により、準備の為に席を立った。
「どうしよう……緊張してきちゃった」
多恵ちゃんに囁かれ、私まで緊張が高まってきちゃう。
舞台袖では既に2年4組の生徒がスタンバイし、私たちは扉の外側に列で並ぶ。
「うぉーーっ、やべぇーーっっ、緊張するーーっっ!!」
後ろから男子の大きな声が聞こえてきて、村中先生が慌てて駆け寄り、
「静かにしろっつってんだろーが!」
と怒鳴った。
先生の声も、かなり響いてますよ……
再び矢野くんの隣に立ったけど、合唱の緊張が高まってて、さっきの話の続きどころじゃない。それは、私だけじゃなく、矢野くんもいつもより引き締まった表情をしていて、緊張しているのが見て取れた。
扉が開き、相沢先生が中に入るよう合図する。
ぞろぞろと中へ入り、舞台袖に立つと、2年4組の『空駆ける天馬』の合唱が聞こえてきた。
う、上手い……
さっきの1年の合唱よりも少なくとも10倍は声が出てるし、男子の歌声もはっきり聞こえる。
益々緊張が高まり、頬が引き攣ってくる。
「では、2年1組さん頑張って歌ってきてね」
気がつくと相沢先生がにこやかに私たちを送り出していて、慌てて足を踏み出した。
舞台の真ん中の台に立つ西岡くんの指揮棒がすっと上がると、皆がピシッと姿勢を正し、一瞬で空気がガラッと変わった。
紀子ちゃんが頷いて合図を出すと、指揮棒が振り下ろされる。
ピアノの伴奏が始まり、私たちは今までの練習の成果を思いっきりぶつけた。
『こーころのー なーかーでー あしたーがー あーかるくー ひかるー』
合唱部みたいな美しさはないけれど、それでもこの1ヶ月頑張って練習してきた。大きな舞台でみんなで声を揃え、心を合わせて歌っているこの瞬間が、とてつもなく気持ちいい。
余韻を残し、合唱が終わった。なんとも言えない爽快感が駆け抜ける。
客席からはたくさんの拍手が響いてきて、ジーンと胸が熱くなった。
「はぁー、終わったー」
「おつかれー」
舞台から下りて扉を出ると、みんなの口から自然と安堵の息が出ていた。張り詰めていた緊張が一気にほどけ、体がやわらぐ。
「おまえら、よくやったな。優勝間違いなしだ!」
村中先生の確信に満ちた言葉に、ドッと笑顔が溢れた。
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